#12
「……希帆。驚かないで聞いて」
とある昼休みの時間。私は、真剣な眼差しの柚ちゃんにそう言われ、こくりと頷いた。何を言われるんだろうか。「驚かないで」と言うくらいだから、驚く話なのだろう。
「……晴人君に、彼女ができたって」
柚ちゃんの口から出た言葉はそれだった。私は驚きを隠せなかったが、余裕を装って柚ちゃんに訊ねた。
「……噂?」
「うん、噂だけど……」
「相手は?」
「桃園さんって聞いた」
桃園さんかぁ……晴人君にピッタリだね。
やっぱり、私の初恋は実らなかった。実らないと知っていて、自分で恋をし続けると決めたんだ。桃園さんと付き合っていることが噂でも、今はなんだか信じてしまえた。
「……希帆、大丈夫?」
「……え?」
気づくと、手の甲に滴がのっていた。雨……ではなさそうだ。なんせ、今日は快晴なのだから。
雨でないとしたら、ただひとつ。涙だ。私は、知らぬ間に涙を溢していたらしい。溢れてくる涙を、私は止めることが出来なかった。
*
授業が始まる前の予鈴が鳴り、教室に戻る。すると、岳に出くわした。岳は、私の顔を見て目を丸くした。たぶん、目が赤く腫れていたからだろう。でも、岳はその事には触れないでくれた。そして、耳元でこう言われた。
「今日の放課後、例の店」
“例の店“とは、私達がこの高校に通い始めたばかりの頃、下校中に見つけたオシャレなカフェの事だ。そのカフェは付属品のスイーツが美味しくて、スイーツ好きな私には何個でもいけちゃうくらいだ。そのお店に、今日の放課後行こうという事だろうか。
岳は、私が頷く前に自分の席に戻っていってしまっていたので、私も戻ることにした。
*
放課後。
「希帆、行くぞ」
「あっ、うんっ」
小走りで岳の後を着いていく。無言で歩いていると、例のお店に着いた。
二人席に向かい合わせで座る。他に、お客さんはいなく、そのせいか、店員さんも少なかった。
少ししたら店員さんが、私達の注文をとりに来た。甘党な私はキャラメルラテを、甘い物が苦手な岳はブラックコーヒーを頼んだ。そして、チョコケーキを頼もう……と思い、口を開こうとすると岳が遮った。
「ここからここまで、全部」
そう言って、手に持っていたメニュー表を指さした。岳がこんなに食べるのかな?珍しい。
とか思っていると、注文した物が来た。そして、岳が頼んだスイーツが来たかと思うと、岳はそのお皿を私の方に押し出した。
「これ食べて、全部忘れろ」
何の事だかすぐわかった。岳は噂で聞いたことで私が泣いていたと知っていて、ここに連れてきてくれたんだろう。
私は、目の前に置かれたカップケーキを一口食べる。すると、自然と涙が出てきた。失恋と、岳の優しさに。




