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67 対峙

<前回までのあらすじ>


諸君らの愛してくれたネガロ・ルッコは死んだ。何故だ!

「眼鏡だからさ」


スクロス王国へ帰ろうにも、ルオーン王国は内戦中だし、権天使アルクとかいう奴は襲ってくるし、もう散々。

なんとかアルクを撃退して、王女のティコ・ロレス・ルオーンと副騎士団長のルーシー・ペオッソの奪取に成功したソラ御一行。

腹を割って話し合い、オニマディッカ魔術学園帰還のコンセンサスを得る。

そして、ルオーン王国辺境の街セロに到着した。





 ルオーン王国辺境はセロ。街の東には深い森、その先にはドワーフの里がある。スクロス王国を目指すには、この森を越えて行かなければならない。

 小さな宿屋に潜伏した6人は、机を囲んで会議をしていた。

「奴らが仕掛けて来るなら、森に入るまでのどこかだ」

 ソラの言葉で、場に緊張が走る。

「天使……ですね」

 リーシェはそう呟いて、アルクの姿を思い出した。

 背中に大きな翼を生やした人型。なるべく、屋外では遭遇したくない――それは、全員の共通意見に違いない。

 一方で、森の中での戦闘となってしまえば、天使の翼は一転して無用の長物と化す。ソラは、それを言っていた。

「尾行はなかった、と、思う。あるとすれば、待ち伏せか、それとも……何か予想のつかない方法か」

 如何せん、謎が多すぎた。

 すべての天使に翼が生えているのかは不明。天使の使う魔術のような攻撃方法も不明。その高い身体能力にあるだろう個体差についても不明。姿形に性別さえも不明。

 対策には、どうしても限りが出てしまう。

 だと、すれば。

「とにかく、今ある全力で迎え撃つしかない。もし何事もなく森に入ったとしても、ドワーフの里までは警戒を怠ることなく行こう」

「おう。任せとけ」

 開き直ったソラの言葉に、システィが頼もしい返事をする。

「御者は僕がする。システィは僕の隣。リーシェは馬車の中から後方の警戒」

「っし!」

「……分かりました、兄さん」

 システィのガッツポーズに、少し口を尖らせるも頷くリーシェ。

「ボクたちは、何をすればいいかな」

 その様子を見ていたティコが、挙手をして言った。

「ティコとルーシーは馬車の中で待機だ。今回は、なるべく隠れていて欲しい」

「うん、分かったよ」

「私は姫に従おう」

「! ありがとう」

 ティコは2年前と比べ、非常に聞き分けが良くなっていた。

 それは単に精神的に成長したというだけではない。「ソラがティコの実力を知らない現状、戦闘への参加は危険だと考えていること」と、「ルーシーは主君の判断ならば素直に従うこと」そして「敵の目的はルーシーの可能性が高いこと」を瞬時に察する能力、すなわち頭の良さが、聞き分けの良さに繋がっていた。

「ミトも馬車の中に隠れていてね」

「……ん」

 ソラの膝の上にのっていたミトは、渋々といった感じでコクリと頷いた。ソラが「ありがとう」と言って頭を撫でると、甘えるようにその小さな背中を預けた。

「ぐぬぬ……」

 そんな場合ではない。それは分かっていたが、ティコは嫉妬を禁じ得なかった。幼さゆえにソラに甘えるミトが、昔の自分に重なって見えたのだ。

 そして、こう思う。本来なら、そこはボクのポジションだったのに――。

「フッ」

 悔しがるティコに気付いたリーシェが、静かに嘲笑した。2年前から、このルオーン王国王女はリーシェの敵である。

「……っ」

 そんな様子を知ってか知らずか、ミトはひとしきりソラに甘えた後、膝からぴょんと降りた。会議終了の合図である。

「では、明け方に出発するよ。一週間後には、ドワーフの里で宴会だ」

 ソラの言葉に、皆は微笑み、出発の準備に入った。

 そして、6時間後。

 一行は日の出と共にセロの街を後にした。




「……システィ」

「ああ、分かってんぜ」

 馬車の前方に、ひとつの影が見えた。

 ソラはシスティに声をかけ、より一層警戒を強めた。システィは鬼丸の柄で馬車の接合部をトントントンと何回か叩く。「接敵、警戒せよ」の合図だ。

 リーシェから返って来た合図は「了解、後方異常なし」だった。

「あいつ一人、か?」

 前方に見える男――恐らくは、天使。どうやら、森の入口でソラたちを待ち構えていたようである。

 馬車が近づくにつれ、その姿が段々と明らかになって行く。

 それは、髭面の大男だった。

 ――既視感。

「確か……!」

 ソラは思い出した。その大男は、予言の日、熾天使セラが復活したその場に訪れていた5人の天使のうちの一人であった。

「我が名は能天使エクスシャ!」

 天使は大声でそう名乗る。しかし不思議なことに、仁王立ちのまま動かない。

「なんだァ……?」

 システィは首を傾げた。

 馬車が15メートルほどの距離まで近づいても、エクスシャは動かなかった。

 一体何が目的なのか。そう思ったところで、エクスシャは口を開いた。

「ふん。愚かなアルクめが血相を変えておったから見に来てみれば、まだ“触れて”おらぬではないか」

 触れるとは、どういうことか。

 ソラがそう考えた直後、エクスシャの様子が変わる。

「まあ、よい。久々に骨のありそうな者だ。ちょいと味見をしてやろう……」


 ――殺気。

 それも、今までに経験したことのない、震えあがる暇もないような、命の危機を、ソラは直感した。

「ば、馬車を走らせて森へ! 僕は後から行く!」

「ハァ!? なに言って――ッ!」

 咄嗟の判断だった。

 ソラはそう叫ぶと、システィに手綱を渡し、馬車を飛び降りる。システィは文句を言う間もなく、ソラの指示に従うしかなかった。

「逃がさんぞ」

 エクスシャは右手を振り上げる。

 馬車がやられてはマズい――ソラは最速で“落雷”をイメージする。

「ぬぅ――!」

 ソラの様子に気付いたエクスシャが、振り上げた右手の方向を馬車からソラへ向けた。


 次の瞬間。

 まだ薄暗い静かな朝を、閃光と轟音が切り裂いた。

「きゃあっ!!」

 馬車の中で、ティコが悲鳴をあげた。

 光、音、揺れ。只事でないことは明らかだった。

「くそッ!」

 システィは鞭を叩いて馬車を急がせる。馬は突然の異常に驚きながらも、それから逃げるようにしてスピードを上げた。

「ぐ、おお……っ!」

 エクスシャはよろよろと起き上がる。

 何故、立ち上がれるのか――雷撃をくらわせたというのに、大したダメージを与えられているようには見えなかった。

「……」

 一方のソラは。

 呼吸すら忘れ、目の前の光景をただ眺めていた。

 それは、エクスシャが放った、得体の知れない技。

 数秒前までソラのいた場所は、直径5メートルほどにえぐれていた。

 まるで、大型のショベルカーで掘ったかのように。

 この距離で、たったあれだけの動作で、一瞬にして。


「っ……!」

 我を取り戻すと同時に、激しい鼓動がソラを襲う。

 目の前の大男は、化け物に違いなかった。

 馬車を逃がせたのは、不幸中の幸い。今、死ななかったのも、偶々である。

 ……殺らなければ、殺られる。自分の身も、皆の命も、守れない。

 ソラの中で、爆発的に殺意が膨らんだ。

「くるかッ!」

 その時。エクスシャは、何故か嬉しそうな顔をした。

 何百年もの間退屈をせざるを得なかった、天使という生き物の性だった。

「……」

 ソラは静かな興奮の中、どうやって殺そうかと考える。

 思えば、今まで全力を出して戦ったことはなかった。

 否、その必要はなかった。ゆえに、どこか手を抜いていた。

「覚悟しろ、天使野郎」

 そう呟くソラの唇は、微かに震えていた。

 死への恐怖、それは勿論だった。

 武者震い、それもあった。

 だが、それ以上に――自分の全力が、恐ろしく感じたのだ。

「行くぞ?」

 もうどうなったって知らない……そんな風に思いながら。

 ソラは、エクスシャへ向けて、思い切り、右手を振り抜いた。



お読みいただき、ありがとうございます。


なんとか生きております。

更新遅れまして申し訳ありません。

明日から頑張ります。

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