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64 奪還作戦

<前回のあらすじ>


ミトが『魔術式』というものを完成させた。

ソラは興味津々。学園に帰ったら研究してみることにした。


そんな一行は、ルオーン王国の首都ニッチに差し掛かる。

様子がおかしい。どうやら内戦中のようだ。


ソラは

「ルーシーとティコを助けた後に図書館へゆくか」

と提案した。

「うむ」

「ゆこう」

「ゆこう」


そういうことになった。


「うっ! うわっ!?」

「なぁッ!?」

「エエエエェ!?」

 街の入口付近から悲鳴がこだまする。

 たった今まで争っていた騎士団と衛兵団は、門の真正面から侵入してきた謎の馬車1台によって真っ二つに分断された。

「くそっ、このっ……はぁ!?」

 馬車に近付こうと剣を構えて突撃すると、“目に見えない大きな何か”によって阻まれ、突き飛ばされる。

 馬車は1000を超える兵をかき分け、何の抵抗も無いかのようにスイスイと移動し、ルオーン王国副騎士団長ルーシー・ペオッソを捜索していた。

「いませんね……」

 窓から顔を出し、騎士を探すリーシェ。ミトも座椅子に乗り上げてそれらしき姿を探している。

「いたぜ! あそこだッ!」

 真っ先に発見したのは、御者のシスティだった。

 指さす方向には、10人ほどの衛兵を相手に華麗な剣戟を繰り広げるブロンドの女騎士がいた。

「どけどけオラァ!」

 馬車を加速させる。

 進行方向の3メートルは、まるでモーセが海を割ったかのようにパッカリと開いており、馬車が進むたびにその不自然な空間が広がった。

「な、なんだこれは!?」

 衛兵団と戦闘していたルーシーは、ふいにソラのエネルギー化魔力を“魔視”で捉えると、その異様な状況に驚愕した。

「んなぁっ!?」

 ルーシーは成すすべもなく、エネルギー化魔力に包まれ、身動きがとれなくなる。

 ソラはそのままルーシーを持ち上げると、馬車の中へ拉致した。

「そ……ソラ殿か!?」

 ルーシーは馬車の中で解放されると、ソラの姿に驚き、同時に納得する。このようなブッ飛んだ魔術を扱える人間は、ソラ以外知らなかった。

「ワケは後で話します。ティコは何処ですか?」

 困惑するルーシーに、ソラはいきなり本題を切り出す。

 ルーシーは落ち着く間もなく、ティコのことを思い出すと、下唇を噛んだ。

「くっ……ティコ王女は、恐らく、もう……」

「……捕まったのですか?」

 リーシェの鋭い指摘に頷く。

「2日前から行方不明だ……それが引き金で、今こうなっている」

 自身の至らなさを悔いているのか、ルーシーは項垂れている。

 そして、決意したかのように顔を上げると、ソラの目を見据えた。

「恥を忍んで、お願い申し上げる。ソラ殿、力を貸してはいただけないだろうか」

 そう言うと、頭を下げた。

「もちろん。さあ、急ごう」

 ソラは即答すると、システィに指示を出す。

 馬車は、王宮へと勢い良く出発した。



「やばい。そろそろ、休憩したい……っ」

 体内魔力のエネルギー化は、魔力を消費せず、その代わり体力を消費する。一時的に、心臓の鼓動は早まり、体は酸素を欲して呼吸を活発化、代謝が急激に行われたソラは、体力の限界を感じ始めた。

「もうちょいで着くぜ!」

 王宮は目前だった。システィはそのままの勢いで馬車を王宮の入口に突っ込ませると、右手の廊下をしばらく進んで、道を塞ぐように停車させた。

「後はお任せください」

 リーシェはそう言うと、馬車の後部ドアを開け放ち、静々と外へ出た。

 目の前には、百人近い数の衛兵。どうやら、王宮は既に衛兵団によって占拠されているらしい。

「かかれ!」

 敵隊長の号令で、衛兵たちが一斉に襲いかかる。

「……」

 リーシェは無言で、左手を突き出した。

「!?」

 瞬間的に、体が浮き上がるほどの強風が巻き起こる。「バァン!」という大きな音と同時にそこらじゅうの窓が破壊され、リーシェの前にいた数十人の衛兵たちは一人残らず後方へと吹き飛んだ。

「凄い……!」

 ルーシーはリーシェの魔術に舌を巻いた。魔術師の最高峰とされる宮廷魔術師と肩を並べるか、それ以上の魔術を、呼吸するように扱っているからだ。

「ティコはどこに?」

 休憩を終えて馬車から降りてきたソラが、ルーシーに聞く。

「おそらく、この廊下を進んで、左の奥だ。急ごう!」

 ルーシーはハッとしてすぐさま答えると、ショートソードを構え、先頭を駆けて行く。その後をシスティとリーシェが付いて行き、更にその後をミトとソラが付いて行く。


 何人もの衛兵を蹴散らしながら、廊下を進むこと3分。一行は王妃の部屋にたどり着いた。

「王妃様、失礼いたします!」

 ルーシーが一言断りながら問答無用で入室する。

「……!?」

 そこには、3つの人影があった。

 1つは、横たわる王妃の姿。

 2つは、傷だらけで気絶しているティコ姫。

 そして3つは――ルオーン大図書館の司書、アルク。

「姫!」

「動くな」

 ティコに駆け寄ろうとしたルーシーを、アルクが冷たい声で制した。

 アルクの横には、縄で椅子に縛りつけられたティコが人質に取られている。

「……貴様、図書館の」

「そう、その通り。ルーシー・ペオッソ副騎士団長」

 アルクはルーシーから視線を外し、その後方、ソラたちを観察する。

「やあ、ソラ君。久しぶり」

「あなたは……」

「うーん、以前よりマシな顔になったね。さては人を殺したかい?」

「っ……!」

 ソラの心の中を覗き込むように問いかける。ソラは瞬間に天使アガロスの断末魔を思い出し、心臓を大きく鼓動させた。

「さて、長々と話していては邪魔が入る。本題に入ろうか」

 アルクは余裕を演出しながら、ソラに要求を突き付けた。

「ルーシー・ペオッソと、こいつを、交換だ。悪くないだろう?」

 そう言って、ティコを指差す。

「何を――」

「おっと、君に拒否権はないはずだ。今この場でこいつを殺しても、俺には何の損もないのだからね」

 アルクは懐からナイフを取り出し、ティコの首筋に這わせる。その洗練された動きならば、0.2秒かからずにティコに致命傷を与えられるに違いなかった。

 ティコと、ルーシーの、交換。

 その要求の真意は分からないが、応じるべきか、否か――ソラは考える。

 そんな時だった。

「貴方、焦っているわね」

 リーシェの指摘。

「なに……?」

 アルクは片方の眉を上げて聞き返した。

「ルーシー・ペオッソがこちらにいる状況が、貴方にとってはとても良くないことなのでしょう?」

「……」

 図星――。

 アルクの目的は、ルーシーただ一人。

 この戦火の中、“とあるルール”を守りながらルーシーを確保し続けることは無理だと諦めたアルクは、ソラたちが来ることを読み、ティコを人質にとって待ち受けていた。

 ソラが交換に応じなければ、ルーシーを奪われることになる。

 それは即ち、アルクにとって敗北を意味していた。

「……あーあ、これだから嫌なんだ。面倒くさいったらない。王国だって結局こんなことになるしねぇ、最悪だよもう」

 アルクはどこか吹っ切れたような表情を浮かべると、ティコの首筋からナイフを離した。

「――ふッ!」

 ……それは、一瞬だった。

 たった2歩の踏み込み。

 5メートルほどあったはずのアルクとの距離は、システィによって瞬きする間もなく詰められた。

 身体強化されたシスティの、必殺の一撃である。

「っ!!」

 アルクは、間一髪、奇跡的にシスティの居合斬りを躱した。

 鬼丸の鋭い一閃は、アルクの衣服の一部を切り裂き、虚空へと消えた。

「チッ!」

 舌打ち一つ、システィは追撃の準備に入る。

「くそっ!」

「うお!?」

 アルクは魔術で強い風を起こし、システィを吹き飛ばすと、ティコを抱えて後方へ、文字通り「飛んだ」。

「――!?」

 その背中には、いつの間にか“翼”が生えていた。

 目を見開くソラ。

 ……だが、徐々に合点が行き始める。

「お前……天使だな」

 ソラの呟きに、アルクはにやりと笑った。

「正解。権天使アルク、覚えておくといい」

 アルクは壁まで後退し、窓ガラスを割ると、ティコを抱えたまま逃げ去ろうとする。

「逃しません」

 リーシェは即座にアブレシブジェット魔術を放ち、アルクの前方の天井を破壊して退路を絶った。

「やるね、君」

 アルクは呑気な声を出したが、その内心は驚き焦っていた。

 リーシェがたった今扱った魔術は、威力・速度・精度・難易度のどれをとっても常人が使えるような代物ではなかった。

 その上、システィの異常なまでの身体能力の高さも、アルクにとっては誤算だった。

『魔人』はソラだけではなかったのか――アルクの頬を汗が伝う。

 この場から何とか逃げ出して一度体勢を立て直し、ティコを用いてルーシーを奪還する。そのためには、なりふり構っていられない。アルクには「ルーシーをソラに触れさせてはならない理由」があった。

「はッ……!」

 アルクは翼をはためかせると、その場で浮遊した。

 風を巻き起こし、ソラたちの接近を許さない……はずだった。

「……」

 ソラはエネルギー化魔力で仲間を包み込みながら、風を難なく防ぎ切り、アルクへの接近を続ける。

「くっ」

 まさか、ここまでとは――アルクの正直な感想だった。

 ……奥の手を、使うしかない。

 アルクはティコを床へ放り投げると、ソラたちへ両手を向けた。

「!」

 ソラは危険を直感し、前方へ意識を集中させる。

 衝撃は、その直後。

「はあああッ!!」

 アルクの雄叫びとともに、「得体の知れない何か」がソラたちに襲いかかった。

 それはソラのエネルギー化魔力のような、目に見えない大きな力。

「――っ!」

 このままでは競り勝てない――凄まじい威力を感じたソラは、エネルギー化魔力を前方へ一気に押し出し、その一瞬の間で別の魔術を展開する。

 絶対防御魔術。リーシェの発想によって発明されたそれは、振動によってあらゆる物を破壊する極めて攻撃的な魔術。

 ソラは絶対防御魔術を円錐状に設置し、アルクの放った衝撃波へとぶつけた。

「な……!?」

 アルクは驚愕する。

 彼の放った「生命力」そのものの衝撃波は、絶対防御魔術によって雲散霧消して行く。

「……っ!」

 そして。

 アルクは諦めた。

 ソラたちが防御に徹さざるを得ないこの状況。

 自身の放っている生命力も、あと少しで尽きる。

 ティコを回収している余裕はない。

 そのままの状態でじりじりと窓際へ移動すると、最後に一際大きく衝撃波を放つ。

 ぶわりと部屋を衝撃が包み、王宮は轟々と音を立てて揺れた。

「ぐうっ!」

 まるで地震のような揺れに、ソラはバランスを崩す。

 その数秒後、衝撃と揺れが収まった。

 魔術を解いて辺りを見渡すと、そこにアルクの姿はなく、気絶したティコと横たわる王妃のみであった。

「……申し訳ありません。逃がしてしまいました」

 リーシェが謝る。その横には、申し訳なさそうな顔の3人。

 アルクの強大な力の前に、システィとリーシェ、ミトとルーシーは、ソラに頼り切って迫り来る衝撃に耐えることしかできなかった。

「いや、十分な結果だ。それより僕もう体力も魔力もかなりキてるから、後は頼んだよ……」

 ソラはフォローするように言って、そのままふらりとその場に座り込んだ。

 こうして、一行は二度目の交戦を制した。




「はぁっ……はぁっ……!」

 難を逃れたアルクは、翼をはためかせ、低空を飛行する。

「あんなもの……1人で勝てるわけがないっ……!」

 誰に対してでもない言い訳が口をついて出る。

 敵を侮りすぎた。

 魔人一人が相手なら、人質さえ取ればルーシーの奪還など容易いと、高を括っていたのだ。

「……報告しなければ」

 敵の驚異を。

 アルクは海辺のボロ家の前に着陸すると、翼をたたむ。

「――何を報告するというのだ?」

「エクスシャ様! いらっしゃったのですか!」

 家の中から髭面の男が一人出て来ると、アルクに話しかけた。その声を聞いて、アルクは跪きながら口を開いた。

「敵は脅威であります。魔人は少なくとも3人。そして奴は今、2つの至宝を――」

「待て、アルクよ。今、なんと言った?」

「ま、魔人は」

「違う。至宝を……何だ? まさか、渡したとは言うまいな」

「…………申し訳、ございません」

 頭を下げるアルクを見て、エクスシャは嘲笑った。

「やってくれたなぁ。貴様、セラ様の復活祭にも顔を出さなかったではないか。ん?」

「ルオーンから、離れるわけにはいかず……」

「何とでも言えるな。裏切り者が」

「ち、違います!」

 エクスシャはアルクを疑い、軽蔑した。

 偉大なる熾天使セラの復活を祝う場におらず、そのうえ自身が担当し守護していたはずの至宝を見す見す人間に渡し、尻尾を巻いて逃走、助けを求めに来るなど――裏切り者の疑惑どころか、もはや天使の面汚しに違いなかった。

「まったく、情けのない男よ! 死ねい!」

「ま、ま、待って……!」

 右手を振るエクスシャ。

 次の瞬間、アルクはとても大きな何かによって下敷きにされた。

 地面がボッコリと円形に抉れ、アルクは跡形もなく押し潰される。

 ぷちりと、まるで虫を踏み潰したように、アルクは一瞬で息絶えた。

「愚か者が」

 アルクの行いは、エクスシャの逆鱗に触れたのだ。

 残る至宝は1つ――天使たちに、後がなくなった。

「同志よ、そろそろ動くか……」

 髭面の大男、能天使エクスシャ。

 彼はそう呟くと、天空を見つめてカカッと笑った。



――――――――――

【九天使 一覧】

天使:アガロス

大天使:

権天使:アルク

能天使:エクスシャ

力天使:

主天使:

座天使:

智天使:

熾天使:セラ

――――――――――


 お読みいただき、ありがとうございます。



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