63 西の空
<前回までのあらすじ>
ネガロの研究室で実験の日々を過ごすこと2年、ネガロによって遂に予言魔術の暗号が解き明かされた。
そして、エニマが死の間際に残した「予言の日」が訪れる。
予言の指し示す場所、そこでソラたちを待ち受けていたのは「九天使」と名乗る者たちだった。
九天使のリーダーらしき男「熾天使セラ」は、ソラといくつか言葉を交わしたのち、忽然と姿を消した。
「至宝に触れ過ぎた」――その言葉と共に、ネガロの命は天使アガロスによって奪われてしまう。
ソラはアガロスを拷問のうえ惨殺すると、九天使への復讐を誓い、全面戦争の狼煙をあげた。
ネガロの研究室へ戻り、対天使の対策を立てようとするが……「ソラは魔人であり、魔人は天使の敵であり、天使は3つの至宝が集まることを阻止する存在であり、ソラはその3つの至宝に既に触れていて、そのうち1つを正統に継承している」セラから得た大量の情報に、混乱するよりなかった。
ソラは「ルオーン王国で天使についての情報収集を行いつつ、戦闘面の強化を行いながら、学園へ帰還しよう」と計画を立てる。
まだ幼いミトも、姉の仇を打とうと、己の足で立ち上がった。
ソラによって、魔術に関して真っ新な状態のミトへ、ソラ式魔術教育が施されることに。
その効果は如何程か、と思いきや、ミトは保有する魔力量が非常に少ないタイプであり、多くの魔術を扱えないことが判明。
ミト独自の「魔術の数学的理解」が、ソラの教える魔術にどの様に絡み合い、ミトの魔術が完成するのか。それはソラにも予想がつかないが、今はミトのポテンシャルを信じて教育を施すよりなかった。
そんな中、4人を乗せた馬車は、ルオーン王国へと向かう――
馬車を進め、2日ほど経った頃。
その時は、何の前触れもなく訪れた。
「……っ」
ぴくんと何かに反応したミトは、右を見て左を見て、紙とペンを探した。
「……」
書くものを見つけると、とりあえず式をひとつ書いて、それから付け加えるように式を足して……首を傾げながら、加筆を続けて行く。
揺れる馬車の中、ミトはひたすら式を書き続けた。
「わかった」
昼食休憩時、ミトはそう言って、ソラに一枚の紙を差し出した。
「分かったって……ええっと……」
勿論、ソラはそれが何なのか理解できない。
「まりょくの式」
魔力の式――と、ミトは明言する。
それは、つまり、どういうことか。
「……は、はぁ」
ざっと目を通すソラ。やはりと言うべきか、何が何だかサッパリであった。
それがかろうじて数式であることは分かったが、如何せん「ミトのオリジナル記号」ばかりのため、意味が分からないのだ。
「……」
ソラがミトに視線を向けると、ミトは「ドヤァ」と勝ち誇ったような顔をしていた。
「魔力の式」が「分かった」――それがどういうことか。
視線を紙に戻すと、再度考え直す。
答えは一つ。
嘘だろ、と、一度は否定するが。
しかし、魔力の式とは……。
「魔術を計算できる……ってこと?」
「……」
ミトは、こくりと、自信あり気に頷く。
「…………マジっすか」
ソラは開いた口がふさがらなかった。
それはつまり、物理学の公式のように、魔力の運動を計算できるということ。
○グラムの物体を時速○キロで○度方向に打ち出した場合に着地する地点は○である――これと似たようなことが、魔術においても言える。
それがどういうことか。
意識・知識・認識が全てである魔術において、まさに革命的な発見であった。
「すっ……すごいよ! ミトちゃあん!」
ソラは思わずミトを抱きしめ、歓喜した。ミトは「にへらぁ」と笑った。
学園へ帰還したら、早急にこの式を解明しよう――ミトの編み出した魔力式は、ソラの優先順位に大きく食い込んだ。
「……まぁ、これは流石に」
「……」
リーシェはイチャつく2人を見て苛立ちながらも、しかし今回ばかりはミトの功績を加味して、許した。
同じく魔術の研究をする人間として、魔力式という発明がどれほどのものか分かるからだ。
一方その頃、システィは気持ちよさそうに昼寝していた。
国境の街ラウを通過し、今日で3日。
ルオーン王国首都ニッチは、目と鼻の先であった。
「様子がおかしい……」
御者のシスティが呟く。
「……これは」
馬車の窓から顔を出し、前方を見たソラは、その異変をはっきりと目にした。
傾いた太陽が、幾本かの煙柱を照らす。
西の空は、赤く燃えていた。
「内戦……?」
ソラは即座に思い当たった。
2年前。ルオーン王国の情勢は、国王派の騎士団と、王妃派の衛兵団に別れ、互いに小競り合いを続ける対立状態であった。
王女ティコと副騎士団長ルーシーに頼んで図書館を見せてもらえれば、などというソラの考えは甘かった。
よりによって今日かよ――ソラは天を仰ぐ。
「さ、作戦会議~ッ!」
唐突な号令。
システィは慌てて馬車を止めた。緊急事態だと察したのだ。
「どういたしましょう……兄さん」
リーシェは困惑気味に、ソラに指示を仰いだ。
「……」
ミトは魔力切れでお昼寝中。
事態を完全に把握できている者は、まだこの馬車の中にはいない。
「……整理しよう」
ソラは自分に暗示をかけるように呟くと、説明を始めた。
「どうやらルオーンが内戦中らしい。でも僕の目的は変わらない。図書館の本と、王女ティコ、副騎士団長ルーシー。この3つだ」
「……む」
「本ってのは、天使についての本だよな? そりゃ分かるけどよ……」
ティコとルーシーについては納得しかねる――リーシェとシスティの意見は珍しく一致した。
「本は、情報収集。ルーシーさんは、魔人についての伝承や彼女の扱う“破魔”が気になる。ティコは、まぁ……なんとなく」
「なんとなく!?」
「いやなんか、ほら、嫌じゃない? 何の罪もない知り合いが窮地に立たされるのはさぁ」
「うっ……そー言われっとなぁ……」
「少しリスキーではありますが、仕方ありませんね」
このチームのリーダーはソラ。ゆえにそう言われると認めざるを得ない2人は、ルーシーとティコの件を渋々だが了解する。
「優先順位を決めるよ。まず、ルーシーさん。次にティコ。最後に図書館。これで行く」
「分かりました。具体的な作戦はありますか?」
「うん。3人とも、僕から離れないように。エネルギー化させた魔力で周囲を押しのけながら、一気に突破する」
「なるほど。内戦に首を突っ込むわけじゃねーんだな?」
「その通り。いちいち戦っている暇はないからね」
「OK! そうと決まりゃあ、善は急げだ!」
やたらすんなり作戦が決まると、戦火の広がる首都ニッチへ向けて、馬車は勢い良く走り出した。
『副騎士団長・王女奪還作戦』
「2人を戦争から救い出す」皆の共通認識はこうだったが――それはもはや『拉致作戦』であることに、未だ誰も気づいていなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
なんとか復活しました。
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