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59 天使


「予言魔術は、5つの段階によって成り立っている」

 最後のカンファレンスにて、ネガロは厳しい表情でそう切り出した。

 何故そんな顔をしているのか、誰にも理由は分からなかったし、気にもとめなかった。ネガロが全身全霊を捧げた予言魔術の解読というテーマに夢中になり、そこまで気が回らなかったのかもしれない。

「1、対象の設定。

 2、深度の設定。

 3、幅の設定。

 4、要求魔力の支払い。

 5、検索。

 ……この5段階だ」

「深度と、幅……ですか?」

「ああ。予言が深いか浅いか、広いか狭いかを決定している。今回のこの巻物を例にすると、対象はソラ君で、浅く、広い予言となっているな」

「……広い?」

「そうだ、そこがポイントだ。この先の話に続けると……深度と幅が決定できるのだが、深く広い予言となれば、それ相応の魔力を消費する。この巻物の場合は、恐らくは術者の魔力が不足し、広範囲の予言を成せなかったと考えられる」

「なるほど。それで、こんな微妙な予言になってしまったと……」

ネガロの研究によって、予言者エニマ・トゥルグは、ソラのために浅く広い予言を残そうとしたことが明らかとなった。しかし、エニマの最期の搾りかすほどの魔力では、『来訪者』というぼんやりとした予言が一杯一杯だったようである。

「下手をすれば、予言自体が間違っている可能性もあるが……この『2年3ヶ月16日後、エクン王国北の森の川のほとり』という部分は、具体的であるがゆえに信頼性も高いと考えられる」

「その時間、その場所で、何かが起こる可能性が極めて高い……ということですね」

「うむ。来訪者……あまり良い予感はしないな」


 ネガロは顎に当てていた手をどけると、話を戻した。

「予言者エニマがそうであったように、この予言魔術は莫大な魔力を消費する。それは、複雑な術式も影響しているのだが……一番大きな理由は、最後の段階――検索だ」

「あ、確かに。検索といっても、一体何を検索……――っ!」

 ……ソラは検索について考え出すと、即座に一つの単語が浮かんだ。

 それは、ハッとするような、気づきであった。

「気づいたか、ソラ君」

「まさか……いや、でも、そんな……」

「そう、有り得るんだ……予言魔術は、ある“モノ”にアクセスしている」

 あるモノ――ソラは、それに、その存在の概念に、心当たりがあった。

 とは言っても、架空の、仮定の、予想の、理想の範疇に過ぎない。

 しかし、それが実際に存在さえしていれば、簡単に説明がついてしまうのである。

 そして、ネガロは、言い放った。

「――この世界の、過去、現在、未来――全てを知るモノに、アクセスしているんだ……ッ」

「――!!」

 ソラは、思い出す。

 18世紀から19世紀にかけて生きたフランスのある数学者が、似たような存在を仮定し、因果的決定論を唱えたことを。

 因果律の、終着点。

 最早、全知の神とも言うべき超越的存在の概念。

 それは、こう呼ばれた。

 ラプラスの魔――と。


 ネガロは、打ち震えながら続ける。

「そんな存在がいてたまるかと……私も最初はそう思っていた。しかし、巻物を解読するにつれ、だんだんと、そうとしか考えられなくなって行ったよ」

 フッと、呆れるように笑う。

「それは、本のようなものだと予想できた。ページをめくれば、“答え”が書いてあるんだ。つまり、本を読んで、目当ての答えを探し出す……それが検索だ」

「……なるほど」

 ソラは納得した。

 その本を、どれだけのページに渡って、どれだけの量を読み込むか、それが幅と深度なのだろうと考えられた。

 であれば、本のタイトルが対象を指し示し、本をめくる手が支払った魔力ということである。

 つまり、エニマは、『ソラ』というタイトルの本を流し読みする中、ページをめくる途中で息絶えてしまった、ということだろう。

「……あとは、自分の目で、確かめてみてくれ」

 ネガロはそう言うと、暗号表を取り出し、予言魔術の巻物と共に、ソラへと手渡した。

「私には扱える代物ではないから、安心していい。これは、君にしか扱えないさ」

 それは主に、魔力量的な意味だろう。

 エニマは約3日かけて術式を組み、その間つねに魔力を溜め込んでいた。しかし、それでも足りないくらいの魔力である。一般人が、そうやすやすと使えるような魔術ではないのだ。

「ありがとうございます、ネガロさん」

 ソラは暗号表と予言魔術の巻物を受け取ると、ネガロに感謝を伝えた。

「なぁに、私は君との契約通り、自分の仕事を全うしただけさ。報酬として、この2年近い時間で、かけがえのない経験をさせてもらったよ」

「……僕も、ネガロさんのおかげで、とても良い時間を過ごせたと、自信を持って言えます!」

 ソラが満面の笑みでそう言うと、ネガロは眼鏡をキランと光らせて、笑った。

「ありがとう、嬉しいよ……あとは、予言の日を待つばかりだな」

「ええ、そうですね」

 予言の日まで、あと5日。

 運命のカウントダウンは、既に始まっていた。



………


……




「兄さん、お茶のご用意ができま――――兄さんっ!?」

 二日後の朝。

 リーシェがお茶を淹れてソラの部屋を尋ねると、そこには机に突っ伏して意識を失っているソラの姿があった。

「どうされたのですか!? 兄さん! い、息は……っ!」

 リーシェは慌てて駆け寄ると、ソラを揺すり、呼吸を確認した。

「…………よ、よかった……」

 ゆっくりと静かな鼻息。脈の乱れもない。

 どうやら、疲れ果てて眠ってしまったようであった。

 リーシェはへにゃりと脱力し、安堵する。

「……これは」

 ソラの机には、広げられた予言魔術の巻物と、暗号表。

「……」

 リーシェは、思う。

 ソラの豊富な知識は、その勤勉な姿勢によって支えられているのだと。

 この勤勉さを、見習わなければならない。

(……私も、努力しなければ……)

 そう、ソラの役には立てない。

 ただでさえソラより才能がないというのに、努力の量さえも劣れば、ソラの隣にいる資格はいよいよ持ってない――そう考えてしまう。

 リーシェは、ライバルであるシスティが身体強化魔術によってめきめきと成長していることで、若干の焦りを覚えていた。

 絶対防御魔術の研究において、振動という発想をできたことは誇りに思っているが、ソラに発想を与えただけに過ぎず、自分で扱えるわけではない。そこが、システィとリーシェの差となってしまっていた。

「兄さん……」

 リーシェはソラの背中に毛布をかけながら、愛おしげに呟く。

「あっ……兄さんの、匂い……」

 ふわりと香ったソラの匂い。

 ――たった、たったそれだけで、リーシェはそれまでの焦りなどすっかり忘れてしまったかように、とろんとした顔になった。

(兄さんの匂いを感じるということ……それすなわち、兄さん由来の分子が肺を通じて私の体内へと取り込まれているということ……!)

「ふふ……ふふふふ!」

 相変わらずの弩ブラコンぶりであった。

 むしろ、半端な科学的知識による変な解釈が盛り込まれ――進化……否、変態を遂げていた。

 予言の日の、3日前のことであった。



――――――



「多分、このあたりのはずなんだけど……」

 予言の日の朝。

 エクン王国北の川沿いを北上し、森にさしかかると、ソラは呟いた。

「ほとりってんだから、川のそばだろォ? そこらじゅう当てはまるぜ?」

 ソラの後ろで鬼丸を携えたシスティが、業を煮やすように言った。その横にはローブをはためかし颯爽と歩くリーシェ、さらにその後ろにはネガロとミトの姿があった。

 かれこれ一時間……ソラたちは何の変化も見つけられないまま、川べりを探索し続けていた。

「もうちょい上流なんじゃねぇか?」

 何もせず歩き回るだけの時間に飽きたのか、適当なことを言う。

「確かに、下流の方では何も見当たりませんでした。もう少し、森の奥へと入って行ってもいいかもしれません」

 リーシェもシスティの意見に同感のようで、ソラに進言する。

「……うん、分かった。もう少し北に行ってみよう」

 ソラは、少し嫌な予感がしていた。

 根拠はない、だが、何故か森の奥へ行かない方がよい気がしていたのだ。

 しかし、ソラの性格上、科学的根拠の薄いことに関しては、あまり信用できなかった。そのため、二人の意見を聞き入れ、森の奥へと進むことにした。



「…………ん?」

 1キロほど上流へのぼったところで、ソラの索敵、もとい、探知魔術が、何かを捉えた。

「……空洞、か?」

 それは、森の中、それも川の傍では不自然な、大きな空洞の音であった。

 はじめは洞窟かとも思ったが、どうやら様子が違う。

 ソラは気になり、その空洞のもとへと歩を進めた。


「これは……」

「……遺跡、でしょうか?」

 現場にたどり着くと、そこには、地下へと続く遺跡のような建造物の入口が、地面にぼっかりと大口を開けて鎮座していた。

 ソラは直感した。

 予言は、ここを指し示しているのだと。

「……行こう」

 ソラが先導し、第一歩を踏み出す。

 石造りの、苔むした遺跡は、川からの湿気でじめっとしている。

 奥の暗闇では、冷たい風がひゅるひゅると音を立てていた。

「――」

「――【小火】よ」

 リーシェは、無言で、松明代わりの火属性魔術を。ネガロは、発声をしつつ、火属性下級魔術【小火】を発現させた。

 空中でちりちりと燃える火が、辺りを照らす。

「かなり、深いみたいだ……」

 遺跡の奥は、先が見えぬほどに深かった。


「――っ!!」

 そして、唐突に――ソラは捉えた。

 ――誰かの、気配を。


「……誰かいる」

 歩みを止め、息をひそめ、気配を探る。

 外の川の音と、反響が邪魔をして、なかなか上手く探知できない。

「一人……? 深くて、長い呼吸だ……まるで、寝息みたいな……」

 やっと探知できた詳細な音は、生物の寝息だった。

「来訪者……か?」

 ネガロが呟く。

 予言の示す来訪者とは、その寝息を立てている者のことなのだろうか。

「行きましょう」

 実際に、会ってみなければ、分からない。

 一行は、気配に近付くように、遺跡を奥へと進んだ。


「ここは……」

 暫く歩くと、大きな空洞に出た。

 半径10メートル、天井まで5メートルはあろうかという、巨大な空洞だ。

 そして、その中心に。

 彼の者は、いた。


「棺桶……」

 空洞の中心。

 そこに、まるで祀り上げられるように置かれている、一つの大きな棺桶。

 それはおそらく石造りの棺桶なのだが、どす黒く変色し、変に光沢があり、今にも蠢き出しそうな、禍々しさがあった。

「…………来る」

 ソラは、非常に、嫌な予感がした。

 棺桶の中で、気配が、目覚めたのだ。

 ――ズズズ、ズズズ。

 棺桶の蓋が、ずりずりと、内側から開けられていく。

 ゆっくり、ゆっくり、ズズズ、ズズズ、と。

 蓋が、半分ほど開かれたとき。

 その気配は、突如、莫大に変貌した。

「――っ!」

 気圧されるソラ。

 リーシェやシスティ、ネガロ、ミトも、得体の知れぬ恐怖に、体を竦めた。


「――――実に、良い気分だ」


 棺桶の中から現れたのは、ぼろい黒衣を纏った、ぼさぼさの黒髪の男だった。年齢は20代ほどに見えるが、歳を感じさせない顔立ちであるため、もしかすると10代かもしれないし、30代かもしれなかった。

 男はのそりと体を起こし、棺桶をまたいで、地に足をつけた。

「何百年ぶりだろうか、我が愛しの大地よ」

 なんとも愛おしそうに、地面を踏みしめる男。

 そして次に、「すぅ、はぁ」と息をする。

「……くっははは! 空気も美味しいじゃあないか!」

 何が楽しいのか、深呼吸をして、突然笑い出す。

「……」

 ソラは、声を出せずにいた。

 嫌な予感は、増大し続け、ついには警鐘が鳴り響いていたのだ。

 ――この男は、ヤバイ。

 何がどうヤバイか、それは分からないが、とにかくヤバイ、と。

 今すぐここから逃げ出すべきだ、と。

 ソラの本能は、直感は、そう警戒して止まないのだ。

 しかし、口と喉と同じくして、足も、体も、硬直して動かなかった。

 まるで、金縛りにあったように。

 まるで、蛇に睨まれた蛙のように。

「ん……おお! 君は!」

 男が、ソラたちの存在に気付く。

 それまでは、まるで気に留める必要すらなかったかのように。

「“至宝”の継承者ではないか。眠っている間に聞いたぞ。ソラ・ハルノ……だったか」

 至宝とは、何か。

 継承とは何か。

 眠っている間に聞く、とはどういうことか。

 何故、名前が知れているのか。

 突如として、たくさんの疑問が浮上した。

「うーん、まだまだだ。頑張りなよ」

 男は、勝手に納得し、興味を失ったように、ソラから視線を逸らした。

「っ……」

 ソラは、たったそれだけのことで、心臓を握られたような感覚に陥り、冷や汗をかいた。

 この男が、予言に示された来訪者なのだろうか。

 だとすれば、予言の真意は一体なんなのだろうか。

 ……しかし、最早それはどうでもよいことであった。

 この得も言われぬ恐怖から、一刻も早く逃れるべきなのである。

「……貴方が、来訪者だろうか?」

 ネガロが、男に質問を投げかけた。

 この時、ソラは、やっとの思いで、一歩、後ずさることができた状態だった。

 自分の情けなさを、知った。同時に、ネガロの勇気に、感服した。

「来訪者? ……なるほど、予言か。私は今、機嫌が良いから、教えてやろう」

 男は質問を受けると、棺桶の縁に足を組んで座り、こちらを向いた。

「至宝と至宝は引かれ合う。出会うべくして、我々は出会ったのだ。して、予言は?」

「……ここに、来訪者あり、と」

「君が?」

「いえ……エニマ・トゥルグという、エルフの預言者が」

「それで、私が来訪者だと思ったということか。なるほど、それは勘違いだ」

 勘違い――一体どういうことか、その場にいた全員が、男の言葉に注目した。

「来訪者とは、ソラ・ハルノ、君自身のことである。その予言は、今この時、君がここに来る運命だったと、そう示しているのだ」

 ソラの勘は、当たっていた。

 来訪者――それは恐らく、「この世界への来訪者」、そういう意味であった。

「では……僕は、何故ここに来る運命だったのでしょうか?」

 来訪者が明らかとなれば……予言の真意、残るはそれだけだ。

「それは――……む」


 ――その時であった。


 男が腰掛ける棺桶を囲むように、濃いモヤが降った。

 リーシェとネガロの灯す火が、ぶわりと揺らめいた。

「――っ!?」


 悍しき、数多の気配――


 ――モヤの中から、突如として現れたのは、5人の男女だった。


 5人の男女は、黒衣の男の姿を視認すると、その場に跪き、頭を下げた。

「同胞よ、来てくれたか……しかし、三人ほど足りないようだ」

 男が、残念そうに言う。

「権天使様、力天使様、主天使様からは、祝辞のみ預かっております」

「いいさ。捨て置け、アガロス」

 5人のうちの一人、最も下っ端であろう者が、顔を伏せたまま答え、懐から手紙を取り出した。すると黒衣の男は、面倒くさそうに断った。

「はっ」

 アガロスと呼ばれた男は、男の返事を聞くと、即座にその手紙を燃やした。恐らくは、火属性魔術である。

「……恐れながら、セラ様」

 そして、アガロスは、首を捻り、地面から視線を移した――ソラたちの方へと。


 ――――ぞわり。


「ッッ!!!」

 身の毛もよだつほどの、殺気。

 反射的に身構えるソラたち。


「よせ。今、私が、話しているのだ」

「…………申し訳ありません」

 アガロスは、黒衣の男に注意されると、再び視線を地面へと戻した。

「……ソラ・ハルノ。君がここに来るという運命に、理由などない。ただ、私はその運命に感謝をしている」

 男は、先程の話の続きを語り出す。

「感謝……?」

「ああ、そうだ。実に、数奇な運命だ。そして、面白い」

 数奇な運命――それは即ち、「不運」。

「中でも君は飛び抜けて面白そうだから、私は期待しているよ」

 にやりと、笑う。

 まるで、娯楽を嗜むかのように。

「こんなに種類の乏しい君たちが覇権を握るだなんて思いもしなかった。そして、君たちの成長は目覚ましい。ついつい期待してしまうのだ」

 種類の乏しい、という言い方に、引っ掛かりを覚えるソラ。

 ソラたちのことを言っているのならば、種類という表現はしないだろう。

 では、この男の言っていることは、どういうことか。

 答えは、疑問へと行き着いた。

「……貴方たちは、一体、何者なんですか……?」

 ソラは、「種類の乏しい君たち」が、ホモサピエンスを指しているのだろうと予想した。

 だとすれば、である。

 目の前の、この黒衣の男は、人間ではないということ。

 男は、忘れていたとばかりに、口を開いた。

「自己紹介が遅れたようだ。私は、熾天使――名をセラと言う」

 熾天使「セラ」――――男は、そう、名乗った。

「天使……?」

「そうだ。古より至宝を守り続ける、九階級の守護者である。が……」

 不敵に笑いながら、話を続けた。

「……まあ、初めのうちは真面目に守っていた。しかしだなあ、千年も経った頃、私は気づいたのだ。只の人間が、“至宝を揃える”ことなど、不可能だと」

 千年と、軽々しく口にしたセラ。

 つまりは、少なくとも千年以上、生きているということだろう。

「至宝守護は、遊びのようなものさ。むしろ私は、三つの至宝が揃った時、一体何が起こるのか、気になって仕方がないくらいだ。ま、私が直々に集めるということはせんがね」

 やれやれ、といった具合に、首を振る。

「君は、既に三つの至宝それぞれに関わったようだ。しかも、そのうち1つは、正当に“継承”している。今まで、これ程に至宝へと近づいた人間はいない」

 期待の篭った瞳で、セラは再度、伝えた。

「頑張ってくれ給えよ……む、そうだ……権天使が、君のような人間を、こう呼んでいたか。確か、そう……“魔人”、だったか」

 ソラは、思い出す。

 ルオーン王国の図書館で読み漁った、魔人についての文献だ。

 そう、そこには、確か――

「…………魔人は……天使の、敵」

 

「……違いない。そして、敵だからこそ、面白い。だがまだ、君は未熟だ。魔人と認めたくはないな」

 その目に、敵意は込められていない。しかし、ソラと天使は敵同士だということに、異論はないようであった。

「いずれ、戦う日が来よう。そう信じて、待っている」

 精々頑張れ、と。

 遥か高みから見下すように、セラは言った。

 まさに、娯楽――ソラは、その対象だった。

 育成ゲームか、バトルアクションか、RPGか、はたまた映画か、漫画か、小説か……セラにとって、ソラがどのような娯楽なのかは分からない。

 しかし、セラには明らかな余裕と確信があった。

 ソラたちと戦って、負けるはずがない。

 三つの至宝を、集められるわけがない。

 それはセラの中では当然のことであり、疑う余地がない事実だった。

「では、また会おう」

 セラは、簡単に別れを告げると、くるりと後ろを向いた。

 5人の天使が、その後ろに続く。


「……一人、至宝に触れ過ぎた者がいるな」

 ソラたちに背中を向けたまま、セラは言う。

「処理は、アガロスに任せよう」

「――畏まりました」

「カーナよ」

「はっ」

 カーナと呼ばれた男は、両手を広げ、アガロスを除き、自身を含む5人が輪の中に入るよう、モヤを作り出した。

 そして、次の瞬間。

「なッ!?」

 ふわり――と、5人の天使たちの姿は、忽然と消え去った。

 思えば、5人が突然に現れた時も、あのモヤがかかっていた。

 ――瞬間移動。

 その単語が、ソラの頭の中をこだました。

「…………さて」

 その場に一人、残された者。

 天使アガロスは、決意に燃えていた。



「――その命、貰い受ける」



 ――――反応できたのは、システィだけだった。


 アガロスは、ぎゅるりと体を捻り、振り返りざまに、踏み込んだ。


 ――ズンッ

 まるで、石が潰れるような、重い音が響くと同時に――アガロスの姿は、目前にまで迫っていた。

 システィは、阻止しようと手を伸ばす――が、もう、手遅れだった。




 アガロスの右手は――――ネガロの胸を貫いた。




 お読みいただき、ありがとうございます。


 更新遅れまして、大変申し訳ありません。

 予言、天使、魔人……ようやく、物語が動き始めました。


 次回は、VS天使アガロスです。


 Twitterにて色々呟いています。

 ご興味をお持ちの方は、下部リンクからご覧下さい。

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