05 可能性
「こっ……これは水晶か!?」
ダイヤモンドを手に取って見ると、エニマはそう叫んだ。
「いえ、ダイヤモンドです! ……あーっと、金剛石です!」
「金剛石じゃと!?」
この世界で金剛石は固い鉱物として知られているが、研磨の方法が無く宝石としての価値は無い。
エニマはダイヤモンドに対して驚いたのではなく、魔術で鉱石を作り出したことにひどく驚いていた。
空の考えは至って簡単なものだった。
先ず、魔力というオールマイティな物質が術者の認識する元素の何にでも変化できるのではないかと思い、炭素を作り出す実験をした。
次に、分子配列や結晶構造程度の認識で物質を作り出せるか実験した。
実験はどちらも成功した。
炭素を知っている。構造に関する知識が備わっている。この2つだけで、ダイヤモンドを作り出すことは容易だった。
結果、魔力は術者の正しい認識のある限り千変万化する、という説が濃厚となった。
空はこれ以上なく興奮して言った。
「エニマさん! 魔術って凄いですよ!」
空は、魔術の限りない可能性を感じ、震えた。
それから数日、空は様々な魔術の実験を行った。
先ず、本に書いてあった下級魔術や中級魔術を一蹴した。
この下級や中級というのは、火水風土の属性に縛られた考えをして魔術が上手く成功しない者が型にはめて考えるために作ったものではないか、と空は考える。
水属性下級魔術【玉水】を基礎に、水滴程のサイズから直径5メートル以上のサイズに調節可能であることを確かめ、空は満足した。
空の考察する魔術の原理では、下級も中級も上級も無い。
あるとすれば、現代科学の知識レベルの差くらいだろうか。
もしかすると、認識があっても魔力の扱い等で差が出てしまうのかもしれないが、現状それについては実験することはできない。
また空は、この水の球体の大きさを調節して作り出す実験の際に、興味深いことに気が付いた。
それは、一旦魔力を変換して物質に変化させると、元には戻せないということだ。
直径5メートルの水の球体は、魔術を解くと同時に落下し、地面を抉り、辺り一面を水浸しにし、空は流されて溺れかけた。
空は次に、魔術を複合して利用できるか実験した。
地面に小規模な火を燃やし、そこに小規模な竜巻を発生させる。これを同時に行う。
手をかざす必要もなく、ただ強くイメージするだけで魔術は発動した。
実験は成功する。
火は巻き上がり、小さな火災旋風が出来上がった。
空はこれを複合魔術と呼び、火災旋風以外にも様々な複合魔術の実験を行った。
そして、最終的に本来の問題に立ち返った。
それは自衛力である。
魔術を覚えることが目的ではなく、魔術を覚え自衛力を得ることが目的だった。
現状でも敵を燃やしたり水で押しつぶしたりといった具合に戦えるだろうが、空はもっと有効な攻撃方法・防御方法を考える。
空は就寝間際だったが、考えに考えた。
殺すことより無血で解決することを優先した結果、ガスを吸引させることが良いのではないかという案が出る。
空は大学の教授が言っていた事を思い出した。
(ドラマでよくあるクロロホルムで一瞬のうちに気絶するというのは嘘で、本当に気絶させたいならエーテルを吸わせる。とは言っても、30秒くらいかかる……だったっけ)
今思えば教授は中々にマッドなサイエンティストだった。
(エーテルは……ジメチルエーテルでいいかな。しかし30秒か……)
そうすると次に問題になるのは、気絶するまでの30秒をどう耐えるかだ。
(うーん…………バリア、とか?)
空は色々と考えるがいまいちパッとしなかった。
(ガスは駄目そうだな……まあいいや、今日は寝て明日考えよう)
空は横になると布団を被った。
外は雨が降っており、屋根に当たる雨粒の音がけたたましい。
すると突然、ゴロゴロゴロという轟音が鳴り響いた。
(雷か……)
異世界に来て初めての雷雨だった。
……。
…………。
………………。
「―――ッ!! そうかッ!! スタンガンだよ!!!」
その夜、空は目が冴えてあまり眠れなかった。
翌朝。
さっそく空は電気を発生させられるか試した。
結果はあっさり成功。
その後少々手こずったが、スタンガン魔術が完成した。
「うーん、やっぱり電圧と電流の細かい調節は難しいか……」
電気に関して空は専門分野ではなかったので、大雑把な事しか分からない。
だいたいの知識だと、魔術の細かい部分まで行き届かないようだった。
とは言っても、対人を考えれば十分な電撃である。
こうして、空は絶大な自衛力を手に入れた。
お読み頂き有難う御座います。
次回はエニマさんと予言魔術について触れます。
空の旅立ちは近いです。