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47 決闘?

「はいっ、ソラ。あ~ん」

「んあ、ありがとう」

「…………ッ」

「……?」

 早朝。

 清々しい筈の朝食の時間は、何故だか殺伐とした空気であった。

 原因は、起き抜けからソラにべたべたと甘えるティコと、その様子を見て全身から殺気が迸っているリーシェである。

 また困った事に、ソラは子供の遊びに付き合っているつもりであり、システィに関してはティコを少年だと思っているので、全く事態を把握していない。

 そのため、ティコとリーシェの対決は水面下で行われていた。

「――貴方。兄さんに近寄りすぎではないかしら?」

 ぼそりと、ティコにだけ聞こえるように呟くリーシェ。

「リーシェさん……これ知ってる?」

 ティコも同じく囁く。

「……言ってみなさい」

「やりたい事がはっきりしたら、やるべき事は自ずと見つかる筈だ――って。ソラに教わったんだ」

「…………やっぱり、貴方は敵だったようね」

「リーシェさん……ボク、負けないからね。魔術も、恋も!」

「フッ……受けて立つわ」

 熾烈な争いが、ここから始まった。

 この戦いがまさか数年後も続いているとは、誰が予想できただろうか――いや、割と簡単に予想できたかもしれない。

 渦中のソラは、大きい妹に加えて小さい妹までできたようで、嬉しいような困ったような顔で朝食を済ますのであった。



「おおーっ!」

 朝食を終え、馬車を走らせると、すぐに森を抜けた。

 目の前に広がる壮観な光景に、思わず感嘆の声をあげるソラ。

 ソラが目にした風景は、一面に広がる青い海と、海沿いに連なる色とりどりの家々、活気あるニッチの町並み、そして大きな大きな宮殿だ。

 ニッチはルオーン王国首都というだけあって、セロの街と比べるとかなり大規模である。

 スクロス王国首都デキストロに引けをとらないほど大きく、そして賑やかであった。

「うおォ! すっげぇな!!」

「システィ、危ないから座りなさい……でも、そうね。綺麗だわ」

 窓からの景色に興奮のあまり立ち上がり、リーシェに注意されるシスティ。とてもリーシェが年下とは思えない。

 一方ティコは「すぅすぅ」と静かな寝息を立てて熟睡していた。

 馬車の揺れにもシスティの雄叫びにも微動だにせず寝入っている。

 まだ幼いながら2日連続で殆ど眠れていないため、活動限界が訪れたのだろう。

 そんな4人を乗せた馬車は、坂道を下って行く。

 首都ニッチは、目と鼻の先。

 4人は新たな街を前に、それぞれ期待に胸を膨らませる。

 案の定、トラブルが待ち構えているとも知らずに――



「そこの怪しい馬車、止まりなさい!」

 ニッチの手前に流れる大きな川に架かる橋を渡り終えたところ、ニッチの街の入口で、検閲をしていた3人の衛兵に止められたソラ達。

「全員降りて頂く!」

 衛兵にそう言われ、ソラは全身から嫌な汗が吹き出た。

 ティコが熟睡しているからだ。

 衛兵達はニッチに出入りする者に対して常に検閲を行っており、それが行方不明の王女捜索のためであると、瞬時に予想するソラ。

 ティコ自身の弁明が無ければ、ソラ達は誰がどう見ても誘拐犯である。

「お、オルト君!!」

 ソラは馬車に向かって大声でティコに呼びかけた。

「……んぅ~」

 少し唸ったが、起きる気配はない。

 街に到着するまでに起こしておくんだったと、今更後悔するソラ。

「早く降りるんだ!」

 なかなか降りて来ないソラ達を怪しんだのか、衛兵2人が声をかけながら馬車に近付いて来る。

 残り1人の衛兵は応援を呼びに行ったのか、街の中へと駆けて行った。

「り、リーシェ、オルト君を!」

 ソラは御者台からリーシェに指示を出した。

 リーシェはソラの意図を読み取って、眠るティコを揺すろうと手を伸ばす。

「動くなッ!!」

 次の瞬間、衛兵の一人がソラへと剣を突きつけた。

「――ッ!」

 その様子を見たリーシェは、伸ばした手を引っ込めて、その衛兵に魔術を放とうとする。

「ちょっ、リーシェストップ!」

 ソラは焦りに焦ってリーシェを止めた。本気と書いてマジな殺気を感じたからである。殺してしまっては大事だ。

 その時、馬車後部の扉がもう一人の衛兵によって開けられた。

「何やってる、さっさと降り――ッ!! 動くな!!」

「……あぁ? 何だァ?」

 衛兵は眠っているティコの姿を確認した瞬間、抜剣してシスティに突き付けた。

 システィは衛兵から視線を外さず、ゆるりと腰に引っ提げた鬼丸に手をかける。

「わああシスティ! ダメダメ!」

 御者台から下ろされたソラは、今にも抜刀せんというシスティを見て青ざめた。殺してしまっては大事だ。あんなに狭いところで一太刀浴びせたならば、馬車の中がスプラッタハウスもいいところである。

「降りろ!!」

「お願い! 二人共、従って!」

 衛兵と、ソラの懇願もあってか、リーシェとシスティは渋々といった表情で馬車から降りて来た。

「――間違いない、姫だ!」

 馬車の中から、そう叫ぶ衛兵の声が響いた。

 次の瞬間、ソラの首元に突きつけられていた剣が横に向けられ、あと数ミリというところまで近付けられる。

「どういう事だ、言えッ!!」

 緊張が走った。

 門の方からは、応援に駆けつけた騎士の姿が5人ほど見える。

「…………仕方ないか」

 ソラはこの状態で会話する意味が無いことを悟り、エネルギー化魔力を展開すると、衛兵を押さえつけた。

「――な、何だ!?」

 体が全く動かないと感じた衛兵は、何一つ抵抗できずに、ソラに剣を奪われる。

「リーシェ、システィ。近くに」

 ソラは2人を呼び寄せ、奪った剣を地面に捨てると、衛兵と近付く5人の騎士達から距離をとった。

「に、逃げる気か!」

 衛兵はソラの半径3メートルのテリトリーから出ると、虚勢を張ってそう叫ぶ。

「いや、違う。ちょっと待って。話せば分か――」

「問答無用! かかれ!」

「――る、って! やっぱりか!」

 騎士のうち一人の号令と共に、5人の騎士は一斉にソラ達を取り囲み、斬りかかった。

「このっ!」

「ぐあッ!?」

 ソラはエネルギー化魔力をぐるりと一周回転させると、5人の騎士達は横薙ぎの力によって訳も分からぬ内にぶっ倒された。

 騎士達は慌てて起き上がると、攻撃の手を休めずに、次々とソラへと斬りかかる。

 しかし、ソラとの距離が近付くことはなく、立ち上がっては転ばされの繰り返しであった。

「……なぁ、ソラ。こりゃどういうこった?」

「兄さん。ご説明を求めます」

「たはは……」

 流石にこの状況が気になった2人は、ソラにそう質問する。

 ソラは騎士達をあしらいながら苦笑いしつつ答えた。

「簡単に言うと……オルト君は実はルオーン王国のお姫様で、僕たちはその誘拐犯と疑われてる……ってところだね」

「…………はぁ?」

「ひ、姫……そう、ですか」

 システィはいまいち理解できていないようで、リーシェは新たに現れた恋敵が一国の姫と知って少々衝撃を受けている、といったところであろう。

 一方5人の騎士達は、突破を諦めたのか剣を構えつつソラ達から距離を取った。

 依然ソラ達を取り囲む騎士達は、どうやらソラ達を逃がさない事に徹するらしい。攻撃して来る気配はないため、エネルギー化魔力を解くソラ。

 ちらりと馬車の方を見ると、傍に衛兵が2人いるだけであった。ソラはまだ馬車の中にティコがいるようだと判断する。

「よし。とにかくティコを起こして、弁明してもらおう。このまま馬車に近付いて行けば――」

 そう考え移動しようとしたとき、ソラはこちらに駆け寄る一人の騎士の姿に気が付いた。

 身長170センチほどの騎士にしては小柄な者の正体は、光り輝く長めのブロンドヘアに、革と薄い鉄板でできた軽鎧とマントを身に纏い、腰にはショートソードが提げられている。

 その顔は綺麗に整い、所作は気高く、そしてとても美しい。

 しかし、その目は敵を射貫くかのように鋭く、ソラ達を見据えていた。

「ふ、副団長!?」

 5人の騎士のうちの一人が、その姿を発見すると、そう叫んだ。

「――全員下がれ!」

 副団長と呼ばれたその女騎士は、透き通った凛々しい声でそう号令した。

 すると、騎士達は急いで後方へと引く。

 それを見て、女騎士はソラ達の前に歩み出ると、こう言った。


「ルオーン王国騎士団副団長、ルーシー・ペオッソ。貴様らに、決闘を申し込む!」


 至って真面目に、である。

 ソラは「何とも律儀な人だなあ」と感心した。

 リーシェは、普段からのジト目を更にじとりとさせている。

 そしてシスティは、何故か目の奥がメラメラと燃えていた。

「おう! 気に入ったよ、あんた! あたしの名前は、システィ・リンプトファートだ。先ずはあたしからだぜ!」

「ちょ、システィ!?」

 独断専行、一歩二歩と近づいて行くシスティに、ソラは思わず声を掛ける。

「大丈夫、殺しゃしねーよ。”峰打ち”ってやつだ」

「いや全然安心できないよ!? やめときなって!」

「ちょっと鬼丸を試してみたいんだ。実戦経験の良い機会だしな。あたしの戦闘スタイルは、対人戦で真価を発揮する筈だろ?」

「そ、そうだけど、やっぱり危険だ。まだまだ修行不足だと思うし……」

 システィは、ソラの忠告を無視して進んで行く。

 途中で立ち止まり振り返ると、何とも情けない顔でこう言った。

「……あ、危なくなったら、助けてくれよな?」

「…………分かったけどさぁ~」

「わりぃ、ソラ」

 ばつが悪そうに笑い、そう言うシスティ。

 少々の弱音を漏らしつつも、ルーシー・ペオッソの前に到着した。

 ソラは全てを諦め、来る時に備える。

 確かに、システィの戦闘スタイルであれば、対人の実戦経験が何よりも糧となるだろう。本当に良い機会かもしれない。そう考えると、少し気分が和らいだソラ。

 一方リーシェは、ソラが不意を突かれて攻撃されないように周囲を警戒しつつ、ルーシーの動向を伺っていた。

「3人同時でもよいのだがな。正々堂々、一対一か。面白い」

 ルーシーは余程の自信があるのか、はたまた挑発か、そう言ってショートソードを抜き放つ。

 システィは少し距離を取って、対峙した。

 互いに構え合ったまま、緊迫した時間が過ぎる。

 先に動いたのは、システィの方であった。

「オラッ!」

「――なッ!?」

 ルーシーの足元に、爆燃魔術を放つ。

 ルーシーはそれを華麗なステップで躱しながら、システィとの距離を詰めた。

 見事な動きである。

 しかし、その顔には驚きが浮かんでいた。

 規模は小さくあれど、火属性超級魔術【炎爆】に近いものを扱う魔術師――並の冒険者ではない。

 ルーシーのショートソードを握る手に、余分な力が入る。

 また、この時誰も気が付いていないのだが、システィが放った爆燃魔術は、もしも足に直撃したならば、骨肉を靴の上から抉りとる程の威力を持っていた。

 峰打ちどころの話ではない。

 システィ本人は最大限手加減しているつもりだったのだが、全く上手くいっていなかったようである。

「まだまだァ!」

「ふっ! はっ!」

 システィはルーシーの足元を狙って、恐ろしい事に爆燃魔術を連発する。

 ルーシーはダンスを踊るかのように華麗に舞い、全て避け切った。

「……ん?」

 ソラはその一挙手一投足を見て、違和感を覚える。

 ルーシーの動きが、まるで魔術の発生位置を全て把握できているかのように、計算されていると感じたからだ。

 もしや……と考えようとしたとき、システィはルーシーとの詰まった距離を離すため、少し大きな爆燃魔術を地面に放ち、砂埃をたてた。

 ソラは思考をやめ、そちらに集中する。

「へっへ、どうしたよォ? パツキン」

 挑発するシスティ。

「――少々、遊びが過ぎたようだ。本気で行く」

 ルーシーはそう呟いた次の瞬間、地面を蹴り勢い良く駆け出した。

 速い。

 その場にいた誰もがそう思った。

 一瞬にして、システィとの間合いの半分を詰める。

「らァッ!」

 システィは爆燃魔術をルーシーの眼前に向かって放った。

 ルーシーはそれを回避する素振りを見せない。

 直撃――それは即ち、ルーシーの顔面が吹き飛ぶ事を意味する。

「――はぁッ!!」

 一歩大きく踏み込み、ショートソードを一閃した。

 ルーシーが何をしたのか、分かった者はまだいない。

「――――ッッ!?」

 0.3秒後、システィは途方もない違和感に襲われた。


 魔術が、発動しないのである。


「なん――ッ!?」

 何で、と思った瞬間には、既に目の前にルーシーが迫っていた。

 そこからは、ほぼ反射である。

 今出来得る最速で鬼丸を抜き放ち、ルーシーのショートソードにぶつけたのだ。

 金属のぶつかり合う、甲高い音が鳴り響く。

「む。私の剣を受け止めるとは……良い剣だ」

「……けっ。当たり前だぜ」

 ルーシーは努めて無表情にそう言う。

 内心は、システィの抜刀に驚きと恐怖を抱き、警戒が足りなかったと反省していた。

 もしもシスティの抜刀の技術が高ければ、この一瞬で確実に命を落としていたのである。

「システィ、終了! 戻って来なさい!」

 そこで、ソラが口を挟んだ。

 一度抜刀してしまえば、後は純粋な剣術勝負。そこでシスティの勝目は薄いと判断したためである。

 また、この時ソラにはある仮説が浮かんでいた。それを自分で確認するためにも、システィを引っ込める。

「チッ……命拾いしたな、パツキン」

 システィは鍔迫り合いを弾き返すと、ガンを飛ばしながらゆっくりと後退りをし、納刀する。

「ふん。そちらこそ、怖気づいたか?」

「あぁ!? ンだとコラァ!」

「ハウス! システィハウス!」

 相変わらず煽り耐性ゼロのシスティ。

 システィがソラ達の所に戻ると、ルーシーは3人へ剣を向けこう言った。

「次は誰だ? 姫を誘拐した罪は重いぞ」

 罪が重いのならば決闘している場合ではないのでは、と思ったソラだが、このルーシーという副騎士団長は余程曲がったことが大嫌いらしい。それとも、これが彼女の騎士道と言うものなのだろうか。

「……誘拐などしていないわ。保護していたのよ」

 リーシェがルーシーの言葉に反論する。

「信じられんな」

「そもそも本当に誘拐したのならば彼女を連れてここへ来る意味が――」

「ごめん、リーシェ」

 ソラは弁明していたリーシェの肩に手を置いてやんわり止めると、一歩前に出た。

 先程のシスティの戦闘中に気になった事を、どうしても確認したい――そのため、少々危険ではあるが、この機会を逃したくなかったのである。

 ソラはルーシーと対峙すると、少し恥ずかしがりながらも、はっきりとこう言った。


「――次は、僕だ」


 お読み頂きありがとうございます。


 新ヒロインが満を持しての登場です。


 次回は、ソラvsルーシー。彼女の特殊能力が明らかに。



 ツイッターで執筆の進捗などについて呟いております。

 ご興味をお持ちの方は、下部にリンクが御座いますので、そちらからご覧下さい。

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