46 やりたい事、やるべき事
今夜の野営地は、山裾に広がるモーン湖を抜け、草原を渡った先にあるもう一つの小山の裾あたりだ。
この小山の裾を進んで、その先に広がる森を抜ければ首都ニッチである。
所要時間は、まる2日程。
ティコにとってそれは、ソラ達に付いて行く限り、この冒険が残り2日しかない事を意味する。
ティコが行方不明という情報は、既に早馬で王宮へと連絡が行っている事だろう。いくら変装していると言えど、ニッチに滞在すれば流石にバレてしまうに違いない。
そんな不安を胸に、夕食を済ませたティコ。
辺りは暗闇、焚き火だけが薄暗く馬車と地面を照らしている。
ティコはゆらゆらと揺れる焚き火の炎を見つめて、「はぁ」と一つため息をついた。
「オルト君。どうしたの?」
物憂げな様子のティコを心配し、ソラが声をかける。
「…………」
ソラを見つめ返すティコ。
言葉が出ない。
ソラの瞳は、何の打算も下心も感じない、純粋な物だと分かる。
ティコが長年の王宮暮らしで得たものといえば、こういった強い猜疑心と、ぬるい魔術くらいであった。
そんな自分が、生活が嫌になり、王女を捨てて冒険へと飛び出したというのに。
何度も夢見た冒険物語、主人公オルトのようになりたかったのではないのかと、自問する。
「……オルト君?」
様子がおかしいため、再度呼びかけるソラ。
何か答えなければ。そう考えるティコ。
だが、それでも言葉が出なかった――いや、出す言葉が見つからなかった。
ここでソラに向かって、自分は王女だと告白して、何になるというのか。
逆に王女という事を隠し、連れて行ってくれとせがんでも、ニッチで大きな迷惑をかけてしまう。
ならば、自分はどうしたら良いのか。
終わりのない思考の中、突如強烈な視線を感じたティコは、ソラの後ろを見やる。するとそこには、凍てつくような眼光でティコを見据えるリーシェの姿があった。
「――な、なんでもないよ! ちょっと食べ過ぎただけ! もう寝るねっ!」
逃げるように馬車へと引っ込む。
考えはまとまらず、どうするべきか、何をしたいのかさえあやふやのまま、布団を被るのだった。
翌日。
ソラの操縦のもと、馬車はひた走る。
道中、ゴブリンと呼ばれる人型の魔物をちらほらと見かけたが、襲って来る気配は無かった。
ゴブリンは群れをなし、集団で人を襲う知能の高い魔物である。
おそらくは、高速で走り抜ける馬車を相手に取っては損害が大きいと踏み、襲って来なかったのだろう。
そのため、非常に順調な旅路となった。
そんな中、ティコは馬車の中も食事中も心ここにあらずといった感じ。
昨晩よく眠れなかったため、うとうとしながら、ぼんやりと「この先どうしよう」と考え続けるばかりで、思考はそこから先へとなかなか進まなかった。
ソラに相談しようにもリーシェの監視の目が怖く、リーシェとシスティには怖くて近寄れない。
独りで考え込めば考え込む程、ネガティブになって行くティコ。
そして、この日の夜。
思いつめた末、ティコはソラ達と共にする事を諦めた。
「ん、何処行くの?」
夜中。
焚き火の前に腰掛けて見張りをしていたソラの前に、ふらりとティコが現れた。
「ちょっと、トイレ」
「おお、じゃあ男同士連れションでもするか」
「つれっ――!? 馬鹿っ! 絶対ついて来ないでね!」
「……ご、ごめん」
思ったより強く拒否されてしょんぼりするソラを尻目に、がさがさと茂みをかき分け森の奥へと入って行くティコ。
奥へ奥へと、止まる事なく駆け足で進んで行く。
ティコの目的は、トイレではなかった。
では、一体何なのか。
それは、逃走。
このままソラ達と一緒にニッチへ行けば、確実に迷惑をかけてしまう。下手をすれば、王女誘拐容疑で捕まってしまうかもしれない。
そう考えた末、夜逃げするという行動に至ったのだ。
また何より、このメンツで今後冒険を続けて行く自信がティコには無かった。
王宮育ちで世間知らずなティコにとっては、物凄い刺激を与えてくれる3人であり、正直言って逃走中の今でさえ興味をそそられ続けているくらいに3人の事が気になるティコであったが、リーシェには敵視され、システィには怖くて話しかけられないという現状。
ティコにとっては認めたくない事だが、自分の居場所が無いようにも思えた。
これは如何ともし難い。
打ち解けられない自分が悪かったのだと、きっぱりと諦めたつもりになるティコ。
ソラ達から離れて、何処へ行くか。それはまだ決まっていない。
魔物への対抗策も、確固たるものはない。
持ち物は、腰に巻きつけてある金貨の入った巾着袋と、懐に忍ばせてある護身用の短剣のみ。
殆ど思いつきで飛び出してしまった事を今更ながら後悔する。
嫌気が差した日常から逃げ出すように飛び出した事でさえ、ただの思いつきのような、とても幼稚なものに感じてきてしまうティコ。
真っ暗な森の中、己の弱々しい魔術で辺りを照らし、ただただ歩む。
何とも惨めな、何とも無力な自分。
冒険に出ればきっとオルトのようになれると信じ期待していた自分が、愚かしく感じる。
今のこの状況も、ここまで至る行動も、全てがとても愚かしく感じる。
このままここで膝を抱えてうずくまり、泣き出したくなる気持ちを必死に抑えながら、前に進む。
――がさり、と左右の茂みが音をたてた。
魔物だ。
複数の魔物が自分を取り囲んでいる事をティコは即座に感じ取った。
ティコは山火事など厭わず、あたり一面に火属性中級魔術【砲炎】をぐるりと放った。
「ギィィイイイイ」
ティコを囲むように、半径3メートル程の円形に燃え盛る炎が、20匹あまりのゴブリンを照らし出す。
ゴブリン達は雄叫びをあげ仲間同士でコミュニケーションをとりながら、炎の回りを取り囲むと、土を蹴り被せて消火活動を始めた。
まずい――そう思ったティコは、追加の【砲炎】をゴブリン達に放つ。
「ギィイイアアッ!」
「――っあ!!」
雄叫びの直後、ティコは後頭部に大きな衝撃を感じた。
土をかけて消火していたゴブリン達は、囮。
ティコが気を取られている隙に木を登り、後ろ上方から炎を越えて飛び掛ったのだ。
「う……あぁ……」
痛みで気が遠のく。
ティコにとって、生まれて初めての激痛だった。
それもその筈である。
王宮の中で、怪我という怪我をせずにここまで生きてきたのだから。
これ程痛いのだから頭皮が抉れて血が出ているかもしれない、と考えると、半ばパニックに陥ったティコ。
ぐらぐらと視界が揺れる。
その視界の端に、追撃を加えようと襲いかかって来るゴブリンを捉えた。
「――――くぅっ!」
力を振り絞り【砲炎】を放つ。
「ギギャ!」
火で炙られたゴブリンは、慌てふためいて後ずさりし、そのまま炎の中に突っ込み焼死した。
ティコは、その光景をぼんやりと見届ける。
直後、ズキンズキンと後頭部が痛み出し、ぼうっとしていた頭はその痛みで現実へと引き戻される。
「――っ!」
ゆっくりと背後を振り返ると、消火を終えたゴブリン達が近付いて来るところであった。
冒険に出て、二度目の絶体絶命。
一度目は3人に助けてもらえたけれど、流石に今回は助かりそうもない。
今度こそ、死んでしまう。
まるで他人事のようにそう考えるティコ。
頭はどんどんと痛みの奥深くへと沈んで行き、視界もぼやけ始める。
目の端から、涙が溢れ落ちた。
「馬鹿だったなぁ……ボク」
自然に出た最後の台詞は、後悔にも似た自虐だった。
「オルト――ッ!!」
誰かの大きな声で、ティコの意識は突如覚醒する。
ぶわりと熱風が顔を包んだと思った瞬間、目の前に迫っていたゴブリン達は血肉をまき散らしながら跡形もなくミンチになって行く。
地獄絵図だ。
ティコは頭の中に氷水を注がれたような感覚の中、そう思った。
この世のものとは思えないその光景は、ものの数秒で終わる。
舞い散った血しぶきが晴れると、そこにはゴブリン20匹相当の肉片が転がっているだけであった。
「すごいなぁ……」
あまりにも率直な感想が口をついて出たティコは、ソラの胸の中で、安堵したように気絶した。
「――――んぅ」
「オルト君、気が付いた?」
ティコを背負い、野営地に戻って来たソラ。
「……ん? ボク…………」
焚き火の灯で目を覚ましたティコは、状況がよくつかめていないようであった。
「――ああっ! そ、ソラ……ボクの頭がっ!」
まず真っ先に、ゴブリンによって後頭部に強い衝撃を受けた事を思い出し、さっと触って確認する。
「…………あれ?」
「たんこぶが出来てたから、これで冷やして。あと、それだけ元気なら大丈夫だと思うけど……念のため安静にね」
ソラはキンキンに冷やした濡れ布を手渡す。
「あ、うん……」
ティコは拍子抜けといった感じで、濡れ布を受け取ると、後頭部に当てた。
ひんやりと心地良く、たんこぶの持つ熱がどんどんと奪われて、楽になって行く。
ティコはお礼を言おうとソラの方を向くと、ソラの目が鋭く自分を射抜いている事に気が付いた。
「……さて、オルト君。腹を割って話そうじゃないか」
場の空気が一変する。
「どうしてあんなに遠くにいたのか、話してくれる?」
「そ、それは……」
言葉につまるティコ。
「話さないっていうのは、無しだよ。トイレに行っていたという言い訳も、道に迷ったという言い訳も通用しない」
「…………」
俯いて、閉口する。
ソラは「うーん」と呟いて、暫し思案すると、こう続けた。
「……僕はね、後悔してるんだ。君と出会った日から、無理矢理にでも君とコミュニケーションをしておくべきだったとね」
それはどうして、と思い、顔を上げるティコ。
「セロで君を拾った瞬間から、僕は一時的に君の保護者なんだ。それを失念していた」
保護者。
そう聞いて、ティコは自分がまだまだ子供だという事を知らしめられる。
「君がニッチの何処に住んでいて、ご両親はどんな人なのか。君の性格や、好きなものとか、趣味くらいは知っていた方が良かった。正しく、コミュニケーション不足だった……」
自分に言い聞かせるように、整理するように言うソラ。
ティコはソラが何を言いたいのか分からず、少し苛立った。
「……つまり?」
催促するように聞くティコ。
「反省さ」
ソラはそう返すと、続けざまにこう言った。
「オルト君は、何か反省、ある?」
ティコはそう聞かれて、即座にいくつもの反省点が浮かぶ。
中でも特に、無鉄砲に飛び出した、いや、逃げ出した事が大きく頭に残った。
「……うん。いっぱい、あるよ」
自嘲するように、呟く。
続きの言葉は、出てこない。
「…………君は、色々と一人で抱え込んでいるようだけど。それは間違ってる」
ソラは、諭すように、静かに怒った。
その声の震えと、瞳の鋭さで、自分が怒られているのだと初めて自覚したティコ。
それは衝撃だった。
13年の王女人生の中で、人に怒られた事など無かったからである。
一人の人間が、自分に真剣に向き合い、ぶつかって来るという事。それが、とても怖くなった。
同時に、「間違ってる」というソラの言葉に対して、自分は間違っていないという反感が湧いて出て、すぐさま消える。
その感情を自覚したとき、ティコは自分が情けなくなった。
悪いのは自分である事は、嫌というほど分かっている。
それなのに、こんなにも真面目にティコ自身を見つめてくれているソラに対して、反射的にでも反感を抱くなど、最低だと感じたのだ。
「――ボク、隠してたこと、ぜんぶ話すよ」
ティコは意を決した。
いや、ソラに委ねたと言ってもいい。
2度も命を救ってくれたソラに対して、変に気を使う事もなく、子供らしく、全てを洗いざらい話して楽になってしまおうと、甘えたのだ。
それこそが、ソラに求められていたものでもあった。
悩んで分からない事があれば、誰かに相談するのが筋である。
子供ならば、尚更の事、大人を頼るべきである。
簡単な事のように思えて、全くそうではない。
大きな回り道を繰り返し、ここでやっと、ティコは秘密を打ち明けた。
「……ボクの本当の名前は、ティコ・ロレス・ルオーン。ルオーン王国の、王女なんだ」
「…………え゛っ!? ……あっ……うん。ごめん。続けて」
ソラは、ティコが実は女の子、しかも王女であるという突然のカミングアウトに、座った体勢でありながらも半ば腰が抜けた――のだが、威厳を保つためにも黙っていた。
「……ボクは王女としての生活が嫌になって、昔から憧れてた冒険に出てみたくなったんだ。それで、セロの別邸から考えなしに飛び出して……」
「あ、ああ。それで僕らに出会ったんだね」
「うん。咄嗟にニッチに家があるって嘘をついちゃって、でもこのままニッチに到着するとソラ達に迷惑をかけちゃうし……」
「悩んだ結果が、今夜……と」
「…………うん」
ばつが悪そうに、俯きながらそう返事をするティコ。
「はぁ~……まったく、こいつめ!」
「うぇえっ!?」
ソラは安心したように笑いながら、ティコの頭を掴むと、前髪を巻き込んでわしわしと乱暴に撫でた。
「わわわっ! ソラっ! もっと優しく!」
「あぁー、良かった。もっと深刻な問題かと思ってたよ」
さらさらの前髪をとかしてやりながら、そう言う。
「し、深刻って、ボクにとってはっ!」
本人にとっては一大決心、とても深刻な問題であったため、ソラの言葉に反発する。
ソラはその言葉を軽く受け流すように、話し始めた。
「そうだなぁ……ティコ。いくつか大事なことを教えるよ」
ソラは小規模であれど過去に似たような経験をしている。
それは多くの人が青春時代に味わうような、今となっては他愛のない挫折や挑戦。それを乗り越え、学んだ事。
過ぎてしまえば、どうって事はない当たり前の事。
王女であってもそれは同じだろうと、何となく感じる。
良きアドバイスになれば重畳と思い、語り出した。
「ティコ。先ず、ティコは王女が嫌になって逃げ出したんだよね。それはやっちゃ駄目な事だ。僕は過去のいつを見返しても、何かから逃げ出して事態が好転した覚えはないよ」
レポートとか試験とかね、と心の中で呟くソラ。
「でも! あんなの耐えられない!」
「うん。それでも逃げる事は駄目だよ。もっと苦しくなっちゃうんだ。もし一時的に上手く逃げられても、いつか必ず我が身に降りかかって来る。そういうものだ」
「……じゃあ、どうすればよかったの?」
「ティコのやりたい事を見失わない。これだけだよ」
ソラは日本にいた頃、研究者を目指していた。
そのために単位を取り、研究室に足繁く通い、日々勤勉に学んでいたのだ。
確固たる目標がある限り、その足元が揺らぐ事はないと知っているのである。
「ボクの……やりたい事?」
「そう。ティコは冒険をしたかったんだよね。だったら、どうして王女をやっているか考えた事はあるかい?」
ソラは、高校3年生の頃の担任が言っていた「目標が無い奴は大学へ行くな」という言葉を思い出す。
大学入学後、その言葉の大きさを知った。
ソラの同期生に数多くいた”こいつ何しに大学来てるんだ?”という輩。
目標もなく、ただただ「卒業できればいいか」くらいの気持ちで大学に来ている奴は、尽く就職で失敗する。
ソラは”意志のある人間は強い”という事を身をもって知っていた。
「何でって……ボクが王族だから?」
「それは、ティコの意志じゃないよね。……冒険がしたいのなら、ご両親としっかり話をつけて、それから冒険に出なさい。逃げずに、自分で解決するんだ」
「…………」
表情を曇らせるティコ。
両親と話す事が怖いのである。
幼い頃よりあまり会話をして来なかったためか、両親と言うよりも国王と王妃というイメージが強いのだ。
「自分が何をしたいのか考えて、何の為に何をするのかをはっきりとすれば、道が見える筈さ。本当に、本当に冒険がしたいのなら、魔術をもっと訓練して、体力もつけて、魔物の事も勉強して……やるべき事は自ずと見つかる筈だよ」
「――っ!」
――やるべき事は自ずと見つかる。
ソラのその言葉で、ティコは理解した。
冒険に出たいという思いさえ、日常から逃げ出したい言い訳に過ぎなかった事を。
逃げるために理由を見つけ、嫌な事から逃れ続け。
結局、自分は逃げる事しかしていなかったのだと、気がついてしまった。
ソラの言う通り、本当に冒険に出たいのなら何をすれば良いかを考えたとき、無鉄砲に飛び出す事など以ての外だという事が分かる。
今回も、ソラ達に迷惑を掛けてしまうと言い訳をし、ただただ逃げ出しただけだ。
そう気がついたとき、様々な負の感情がどっとティコに押し寄せた。
「ティコのやりたい事は、何だい?」
ソラにそう問われ、頭に浮かぶ単語はただ一つ――冒険。
だが、本当にそうなのだろうかと逡巡する。
王女の生活が嫌なだけで、本当は外に出られれば何でも良いのではないだろうか、と。
――ティコは、気が付いた。
自信を持って「冒険に憧れている」と言えなくなっている自分に。
もしもそう言い切ったと考えたとき、恥ずかしくてたまらないのだ。
ただただ冒険に憧れ、何の努力もしていない、何も考えていない、逃げてばかりの自分を恥じたのである。
「ボク……ぁ、いや……わたしは……」
主人公オルトに憧れ、ボクと言う事さえ、恥ずかしい。
「……ん。無理に自分を変える必要はないよ。でもその様子だと、反省点は見つかったようだね?」
優しげな表情でそう言うソラ。
「…………うん」
ティコはこくりと頷く。
「なら、それでいい。これからどうするべきか、それを決めるのはティコの自由だ。思う存分に、悩みなさい。きっと、君の未来は明るいよ」
ソラはティコの頭をぽんぽんと撫でながら、そう伝えた。
――それでいい。
ティコにとって、それは救いの言葉であった。
全てが許されたような気がして、不思議とやる気が漲って来る。
冒険に出るために、何をするべきか。
それを考えるだけで、胸が踊る。
そこに、ちょっぴり恥ずかしさは残るものの、不安は一つも無かった。
「ソラ、ありがとう。……ボク、何だか分かった気がする」
スッキリとした顔のティコは、そう言ってソラを見上げた。
ソラはその顔を見て一つ頷くと、頭を撫でる手を引っ込める。
すると、ティコは少し寂しそうな表情を見せた。
「本当はこのままソラ達について行きたいけど……逃げちゃ、駄目だよね」
それは、もっとソラに撫でていて欲しいという気持ちと同じくして、ティコに芽生えた自立心。
「……未来の可愛い冒険者さんに、アドバイスをあげよう」
ソラは微笑みながら、まるで餞別のように語りかける。
ティコは視線をそらさず、耳を傾けた。
「ニッチに帰ったら、もっともっと視野を広げてみるんだ。そして、いろんな人といろんな会話をしてごらん。今のティコなら、王女様というのはなかなかどうして悪い事ばかりではないって気付ける筈だよ」
「視野を……うん。わかった」
「よーし、良い子だ。そしたら、明日も早いから寝ようか」
「うん。ありがとう、ソラ!」
時刻は深夜3時。
憑き物が落ちたような表情で馬車へと戻って行くティコ。
その姿を見送って、ソラは「ふぅー」と大きなため息をついた。
「まさか、王女様だったとは……」
脱力し、ずずずと座っていた丸太からずり落ちる。
ティコの手前、普段の3倍は格好つけていたソラだったが、我慢の限界が訪れたようだ。
「……でもまあ、王女様も同じ人間なんだよなぁ」
嫌な事からは逃げたいし、ままならなければ自棄になる。
9年の歳の差は、大きい。
アドバイスする事が出来て良かったと、そう思うソラであった。
お読み頂きありがとうございます。
ティコの成長と、ここぞとばかりに大人ぶるソラでした。
次回は、新ヒロイン登場です。女騎士!そういうのもあるのか。
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