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39 食糧

第二章、始まります。

第二章のキーワードは、「ワクワク感」と「萌え」の予定です。

 ソラ達の目指すエクン王国は、スクロス王国北に位置する。

 だが、両国の間には大きな山岳地帯が連なり、直線で移動することはほぼ不可能であった。

 ではこの両国の国交はどの様にして行われているのかというと、両国の西側、広範囲が海に面している縦長の海洋国家ルオーン王国を経由して行われている。

 山岳地帯を迂回した陸路は、このルートの他無い。

「という事で、先ずは西の森のドワーフの里を目指す。次に、ルオーン王国のセロの街、そこから北上して首都のニッチ、そこから北東方向に進んで、エクン王国に入国って感じかな」

 ソラは地図を広げて、説明する。

 現在、冒険は初日。デキストロを出て、西の森に入り暫く進んだ所で日が暮れたため、野営をしていた。

 焚き火が燃えゆらゆらと揺れる光の中で、地図を見て改めて今後の予定を確認する3人。

 焚き火の上には鍋が置かれており、ぐつぐつと煮立って美味しそうな匂いを漂わせていた。

「なるほど、先ずはドワーフの里ですか」

 リーシェはソラの説明を受け、地図を見ながらそう呟いた。

 システィは、先程から鍋を見つめて微動だにしていない。

 ――それもその筈、この鍋だが、具材がとんでもないのである。

 ソラは大学の食品工学の講義で学んだ知識を活かし、旅の為に独自に缶詰やレトルトパウチ食品をいくつか製造し準備していたのだ。

 それは食材だけではなく、中にはカレー的なものや、ハンバーグや肉団子、煮魚に焼き鳥などもある。

 全て加圧加熱殺菌し密封してあるため、食中毒の心配も無い。

 缶詰の密閉性も、缶と蓋との間に二重巻締という技術を用いているため、隙はなかった。

 また、パッケージのポリエチレンやポリプロピレン、アルミニウムは加熱処理し土に埋めた。ごく少量ということもあり、環境には然程問題ないだろうと考えている。

 そして、何より重要な開発をソラは密かに行っていた。

 それは”麹”である。

 試しに米っぽい作物と麦っぽい作物を発酵させたところ、奇跡的に上手くいったのだ。温度管理などかなり苦労したのだが、長い試行錯誤の末、何とか麹を完成させた。

 麹が出来たという事は――もうお分かりだろう。

 今回の冒険においてソラは、酢・醤油・味噌という和食調味料の三大巨頭を引っさげてのご登場なのである。

 砂糖と塩は魔術で生成出来るため、現状で”料理のさしすせそ”がばっちり揃っていた。

 正直言って、日本の調味料と比べると酷い出来だが、それでもこちらの世界の食事事情を見れば、正に救世主の如き活躍であった。

 システィが遂にはよだれを垂らし出すのも頷ける。

 鍋からは味噌のホッとする香りが立込めて、鶏もといヤイケのモモ肉や野菜からの出汁の香りが実に食欲をそそった。

「そろそろ頃合かな」

 ソラはそう言って鍋の蓋を開けると、リーシェは「まあ!」と一言、システィは「おおお!」と雄叫びをあげて待ってましたとばかりに身を乗り出す。

「お取り致しますね、兄さん」

 リーシェがソラの取り鉢にお玉を使って具材を取った。

 味噌で程良く濁った汁に透き通った鶏の油が浮き野菜に絡む。

 見慣れたソラでさえ、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 リーシェとシスティが各々具材と汁を鉢に取ると、ソラが音頭をとる。

「初日は何事も無く順調に終える事が出来ました。明日からは、ドワーフの里へ向けて本格的に森の中を進んで行きます。魔物との戦闘も十分に予想されるので、沢山食べて力を蓄えましょう。それでは、頂きます」

「頂きます」

「おう!」

 ソラの頂きますと同時に、三人は三様に食べ始めた。

 一口、野菜と鶏肉をぱくりと頬張ると、思わず口角が上がる。

「美味しいです!」

「うんめぇなオイ!」

 リーシェは珍しく大きなリアクションで、システィはいつにも増してオーバーなリアクションでそう言った。

「そっか! 良かった、どんどん食べてね」

 ソラはにっこり笑って、こっそりガッツポーズをとる。

 旅の為に地道に準備して来た食糧。

 努力が報われるという事は何とも嬉しい事である。

 ――およそ旅とは思えないこの食事。リーシェとシスティの二人は初日だからという事で特別に豪勢なのだと思い込んでいたが、翌日の朝昼晩、その翌日の朝昼晩と、この先ずっとクオリティーの高い食事が続く事をまだ知らないのであった。



 食事が終わり、暫く談笑した後、就寝。

 馬車の中に2人、見張りが1人である。それを2時間ずつの交代制で行う。今後も野営の際にはこの方式が用いられるだろう。

 この日は、リーシェ、システィ、ソラの順番で見張りを行った。

 ソラだけは、夜中の3時頃から2人が起床した7時頃まで見張りを続け、うら若き乙女達の寝顔を楽しみつつ朝食の準備をしたのだった。

 一方、リーシェとシスティはと言うと、隣にソラが寝ているという事実に興奮し、若干の寝不足であった。


 朝食は、五目ご飯的なものと味噌汁だ。

「……なあ、ソラ。これ食えんのか?」

 寝起きのシスティが指摘したのは、器に入れたカサカサの何だかよく分からない塊である。

 見た目は、とても美味しそうには見えない。

「兄さんの事です。きっと、これも美味しいのだわ」

 リーシェがフォローするようにそう言った。

 ソラは2人の反応に笑いながら教える。

「これはお湯をかけて暫く待つと、美味しく食べられるんだよ」

 実は、この五目ご飯と味噌汁は、凍結乾燥、所謂フリーズドライ製法によって作られたソラ特性のインスタント食品なのだ。

 調理した食品をマイナス30度で凍結させた後、減圧する事で昇華(個体から直接気体に変わる現象)を起こし、食品の形を崩すことなく水分を抜く。それを窒素ガスと共に密封する事で、風味や栄養素を損なう事無く長期保存も見込める軽量なフリーズドライ食品を作る事が可能なのだ。

 この世界の保存食や携行食の概念を大きく覆すものである。

 ソラは魔術で熱湯を作り出して、五目ご飯と味噌汁の器に適量注ぎ、蓋を閉めた。


 ……数分後。

「じゃーん、完成」

 ソラはそう言いながら蓋を開け、器の中身をシスティとリーシェに見せる。

「おおぉ! ちゃんと料理とスープになってるぜ!」

「不思議だわ……兄さん、これも魔術によって作られたのですか?」

 2人は驚嘆しながらも、ひどく疑問に思った。

 味噌汁はまだ何とか理解できるのだが、お湯を入れて何故五目ご飯が出来上がったのかがどうにも理解できなかった。しかしそれは、日本人でさえ不思議に思うところなので、無理はない。

「作る過程では魔術を使ったけど、実はお湯を入れてから完成するまでの間に魔術は一切関係ないんだ」

 ソラがリーシェの問いに答えると、リーシェは目を丸くして器に見入った。

 システィは早く食べたいのか、ソラの方を見つめてそわそわしている。

「よし。それじゃあ、今日の道中の安全と、一日の活力の為に。頂きます」

「頂きます」

「おう!」

 ぱくりと五目ご飯を一口食べる。

 五目ご飯の食味は全く変化無く調理直後の様な味わいだが、食感にはお湯の分量の問題かほんの少しの違和感があった。一方味噌汁は、食味食感共に素晴らしく、むしろ一般的なインスタント味噌汁より具材の食感が確りしていて大変良い出来だった。

 日本で食べればインスタント食品の中でも平均点以下の味だが、この世界で食べれば80点は下らない味である。

 ソラはぼちぼちといった風に食べ進め、リーシェとシスティは満足気にぺろりと平らげてしまった。


 朝食後の食休み中、システィがソラに問いかけた。

「……ソラ。昨日今日とすげぇ豪華なもん食ってっけど、先は長ぇんだろ? 大丈夫なのかよ?」

 尤もな心配である。

 そこで、その質問を聞いたリーシェが口を挟んだ。

「馬鹿ね、生ものは早く食べてしまわないと腐ってしまうからよ。兄さんが考慮していない筈が無いわ」

 システィは舌打ちを一つして、こう返す。

「でもよ、荷物にゃ干し肉も塩壺も見当たんねぇぞ?」

 そう言われて、リーシェは黙った。

 長期の旅においては、一般的には乾燥させたり塩漬けにした保存性の高い食糧を馬車に積んで行うため、塩壺等の積載物があって然るべきなのだ。

 だが、今回の旅では、馬車にその様な荷物は積んでいない。

 理由は単純である。

「食糧については3ヶ月程は心配無いよ。ほら」

 ソラが積荷の大きな袋を開くと、そこには手作りの缶詰やレトルトパウチ食品、インスタント食品がぎっしりと詰まっていた。

 リーシェとシスティは、唯々絶句するより無かった。


 お読み頂き有難う御座います。


 食糧については相当に充実した旅になりそうです。


 次回は、ドワーフの里を目指しての道中です。


☆追記、その1

ツイッターで執筆活動や進捗について呟いております。

ご興味をお持ちの方は、下部にリンクが御座いますので其方からご覧下さい。


☆追記、その2

『元大学生の僕は魔術師界の鬼才だそうです』という題名を変更しようと思います。

読者の皆様に何か良いアイディアを頂ければ、とても嬉しいです。


☆追記、その3

近々、新連載作品の投稿を予定しております!

どうぞ宜しくお願い致します。

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