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35 後援者

※32・33・34話を大幅に修正致しました。

※本35話の前に、32話からお読み頂けると幸いです。

「ソラ、済まなかった」

 朝11時。

 オニマディッカ公爵家別邸。

 ソラに宛てがわれた部屋の中で、アルギンは深々と頭を下げ謝っていた。

「許して貰えるとは思っていない。お前のお陰で存続したこのオニマディッカ公爵家、その当主であるアルギン・ロイス・オニマディッカの全てを賭して謝罪する。私怨を晴らすために、お前を騙し、危険な目に合わせてしまって、本当に済まない」

 あの後事後処理に奔走した為か、アルギンの目の下には隈ができている。

 普段の高圧的なアルギンとはまるで思えないその態度に、面食らうソラ。

「……顔を上げて下さい」

 そう言うと、アルギンはゆっくりと顔を上げる。

「確かに、勝手に騙されて利用された事には憤慨しました。……ですが、それ以上に同情もしました」

 アルギンの表情が険しさを増した。

「……私はお前を餌にした挙句、それ自体を敵に利用され、お前やリーシェ、侍女達を危険に晒してしまったのだぞ」

 同情の余地はないと暗に主張する。

 最早許される道理はないと考えている風な表情だ。

「では、こうしましょう」

 ぽん、と手を一つ叩いて言うソラ。

 こちらから提案しなければ話が進まない事は分かっていたため、昨晩から予め考えていた条件を話し出す。

「学園の長期休学の権利と、魔術の練習が出来る位の大きな広場の提供と、えーと……お金を要求します」

 それだけか、と呆気にとられて聞いていたアルギン。

 少し間を置いて返事をする。

「…………分かった。休学は今すぐか?」

「いえ。1年半年後から1年間の休学期間が欲しいです。お金は1年旅をできる程であれば」

「承知した。広場については、兵士達の演習場を使えるようにしておこう。森で囲まれているから、人目は気にしなくていい」

「有難う御座います」

「よせ、当然だ」

 元より、アルギンはソラからどの様な要求が来たとしても断るつもりは無かった。

 予想を遥かに下回る要求に吃驚したが、要求に応えるのは勿論の事、その他にも出来る限りの事を尽くそうと心に決める。

 それはアルギンにとっては当然の事であり、ソラに感謝される事ではない。

「それに加えて、今後度々お願いを聞いて頂ければ……僕は、今回の件に関して許そうと思います」

 目を丸くするアルギン。

 ソラとしては、騙され利用されて危険な目に合ったものの、無償で学園に通わせて貰い、一軒家を貰い、研究室を貰い、その他様々な便宜を図って貰っており、既に十分に助かっている。

 野心を全く持ち合わせていないソラは、一晩考えたが、これ以上の要求を特に思いつかなかった。

「……そう、言って貰えて嬉しい。お前の為に最大限の事をしてやれればと思っている。……しかし、私としては気持ちの整理がつかん」

 急に許すと言われても、その気持ちが即席の様に感じ、謝罪しきれていないもどかしさも感じる。

 アルギンは煮え切らない様子だ。

「僕が許すと言ってるんですから、それでいいじゃないですか。いつものアルギン様みたいに堂々としていて下さい」

 苦笑いでそう言うソラ。

 しおらしいアルギンを見ていると、調子が狂うのである。

「そうは言ってもな……いや、お前が言うんだ、それも"お願い"か。……誠心誠意、応えよう」

 アルギンは頷き、そう言った。

 するとそこで、ノックの音と共に声が聞こえる。

「ご昼食の準備が整いました」

 侍女が知らせに来たようだ。

「ではお話の件、宜しくお願いします」

「ああ。勿論だ」

 2人はそう交わすとダイニングルームへ向かう。

 ――こうしてソラは、オニマディッカ公爵家という大きな後ろ盾を手に入れた。



「…………あ、あの……リーシェ?」

 食事中。

 そこには異様な光景が広がっていた。

 大きなテーブルには色々な料理が運ばれており、ソラの隣にはリーシェが、その向かいのアルギンの隣にはシスティが座っていた。

 ソラの隣にリーシェ――それだけならば別に何の問題もないのだが、隣といっても身を寄せ合うほど隣なのである。

 昨晩、リーシェはソラに対して散々に感謝の言葉を述べ、熱い抱擁をした挙句、様々な感情が入り乱れ号泣し、最終的にソラの胸の中で泣き疲れて眠ってしまったのであった。

「兄さん、お口を開けて下さい」

 混乱するソラを余所に、スープを掬いソラの口元に運ぶリーシェ。

 一体どの様な心境の変化があったかは不明だが、以前のリーシェとは劇的に違う事は明らかである。

「……あ、む」

 ソラが渋々リーシェの差し出したスープを口に含むと、リーシェは何とも嬉しそうな顔をした。

「リーシェ…………ど、どうしたの?」

 堪らず聞く。

「兄さんに救って頂いたこの命、出来る限り兄さんのお役に立たせたいのです。どうかお側でお世話をさせて下さい」

 すすす、と体を寄せるリーシェ。

 それとこれとどう関係があるのか問い質したい気持ちに駆られるソラだったが、そこで口火を切ったのは向かいの席に座る人物であった。

「て、テメェ……ソラの何なんだよ、あぁ?」

 兄さんと呼ぶ声が聞こえていなかったのか、単にメンチを切っているだけなのか、恐らく後者であろうシスティがリーシェに声を掛けた。

 その額には怒りマークが浮かんでいるように見える。

「っ……貴方こそ、どなたかしら?」

 システィのあまりの目つきに一瞬怯んだリーシェだったが、譲るまいとメンチを切り返す。

「……あたしは、システィ・リンプトファートだ。ソラとは師弟の関係で、もう3ヶ月になるなァ」

 ドヤ顔でそう告げた。

 リーシェはむっとした顔で言う。

「ご丁寧に有難う。私の名前はリーシェ・ロイス・オニマディッカよ。ソラ"お兄様"の"義妹"にさせて頂いて、彼此3ヶ月だわ」

 2つの単語をやたら強調して言うリーシェ。

 それを聞いて、システィはギリリと奥歯を鳴らした。

 睨み合う二人。

 一人涼しい顔で食べるアルギン。

 食事が全く喉を通らないソラであった。


 お読み頂き有難う御座います。


 更新遅れまして申し訳ないです。


 次回は、ソラが修行を開始します。

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