33 展開
7/19(土)修正しました。
「突撃!」
号令と共に、20人の兵士が正面入り口へと押し寄せる。
一網打尽にならないよう分散し、タイミングをずらしての突撃。
ソラは玄関から少し出て、風魔術で抵抗した。
風速250m/s超の、想像を絶する暴風が兵士を襲う。
「うわああああああ!!」
20人の兵士は一瞬で地上数メートルまで巻き上げられ、十数メートル後方の地面に叩きつけられた。
打ち所が悪ければ死亡、良ければ骨折や打撲。
迂闊な行為であったが、他の兵士達が動く好機ともなった。
20人の兵士は沈黙、30人の弓兵は暴風のため弓を射れずにいる中、残り50人の兵士は混乱に乗じて散開する。
兵士達は持久戦に持ち込むべく動く。
敷地に点在する松明を倒し、灯を消した。
屋敷内から漏れ出す蝋燭の灯だけがその場の光源となる。
暗闇に身を潜め、前進する50人の兵士達。
風魔術と得体の知れない水魔術を警戒し、屋敷正面の壁によじ上る事の出来るように身を寄せる。
弓兵は暗闇の中、弓を引き絞り狙いを定めた。
ソラは危険を感じ、風を発生させながら玄関の奥へと下がる。
そこで、ふと気がつく。
「時間を稼がれているのか……?」
松明を消して姿を隠し警戒させることで、時間を稼がれていると感じたソラ。
正面で時間を稼ぐという事は、本命は正面ではないという事。
つまり、リーシェや侍女達の負担が大きい可能性がある。
加勢に行きたいが、敵に背を向けるわけには行かない。
「どうする……?」
考える。
真っ先に、扉の代わりに大量の鉄を作り出し埋め立てる案が浮かぶ。
魔力の消費は大きいがやるしかない。
水や土を作り出す際と比べて、鉄を作り出す際の魔力消費量はかなり高い。
原因は研究を重ねた現在でも不明。
ソラはここで魔力を消費する事はかなりのハンディキャップになると分かっていた。
それは、ソラの奥の手である溢れ出た体内魔力のエネルギー化に弊害が出るからである。
体内魔力のエネルギー化は、互いに可逆的な関係であるため魔力の消費は極めて少ないのだが、元々の魔力量は大きく影響する。
体内魔力を消費することで、溢れ出る体内魔力の量が減り、有効範囲が狭まるのだ。
今回の場合、おそらく半径3メートルから2メートル半程にまで減少するだろう。
「……仕方ないか」
ソラは諦めて、念じる。
正面入口の部分に、厚い鉄の壁が生成されていく。
扉があった時とは打って変わって、扉が外れがらんどうになっているため、全体を目視できる。
空洞をぎっちりと鉄で埋め立てると、ソラは一目散にその場を後にした。
目指すは側面と裏口。
特に魔術という手段を持たない侍女達の苦戦が予想できる。
正面屋外にいた兵士50人と弓兵30人は、目の前で起きた事に暫し唖然とし、入口がびくともしないと分かると、急いで屋敷側面へと回った。
しかし、彼らの任務である時間稼ぎは、ほぼ達成されていたのである。
「くっ……」
屋敷裏口。
扉は既に破壊され、入口付近での攻防が繰り広げられている。
リーシェは2分以上の間、風速50m/sの暴風に砂利や砂を混ぜた、【砂嵐】と名付けた複合魔術を使い続けていた。
敵兵は200。
うち10人の魔術師がリーシェの魔術に真っ向から対抗して来る。
魔術師達は、リーシェの【砂嵐】の中心から縦方向に風をぶつけ、威力を左右に分散させていた。
互いに力勝負の状況に陥ってしまう。
先に魔術を解いた方が吹き飛ばされる状況である。
また、隙を伺って190人の兵士達が前進して来る。
リーシェは【砂嵐】を放ちながらも、敵の足元に水分を多く含んだ泥を撒くなどして抵抗を続けた。
「――――っ!」
目眩を覚えるリーシェ。
風速が少し弱まる。
複合魔術【砂嵐】に加え、土と水の複合魔術を同時に使ったことで予想以上の魔力を消費してしまった。
魔力枯渇まであと少しという状況。
敵兵はもう目前まで迫っている。
「兄、さん……っ」
風速を立ち直らせようと踏ん張る。
直後、リーシェの視界は暗転した。
ソラは玄関奥のロビーを駆け抜け、長い廊下を走り抜ける。
中庭に差し掛かると、外庭から侵入した兵士が16人の侍女と剣戟を交わしていた。
兵士の数は100近いにも関わらず、侍女達はギリギリ持ち堪えている。
やはりこの侍女達、只者ではない。
並の兵士より武に優れていると見える。
庭から屋敷内に入れないように、防戦一方ではあるが連携を駆使し上手に立ち回り、敵の数を減らしてすらいた。
敵兵の剣筋もそれで優秀なものであったが、侍女達の技量には遥か劣っている。
ソラは、目に付く敵兵を全てスタンガン魔術で蹴散らして行った。
正面玄関側から裏口側までの移動の過程で、70人以上の兵士を気絶させた。
この侍女達ならば、残り20人程度の鎮圧は容易いだろうとの判断である。
「助かりました。後はお任せ下さい」
ソラの助太刀に、侍女長が応えた。
「他に数十の兵士と弓兵が来るかもしれません。出来るだけ室内での戦闘を」
忠告するソラ。
「承知致しました」
頷く侍女長は、額に汗を浮かべているものの、息は乱していなかった。
本当に只者ではない。
ソラは気休め程度に安心すると、裏口へと走り出した。
リーシェの無事を祈って。
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