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27 知られざる過去

 3ヶ月経った今、システィには目を見張る成長があった。

「ジョイヤー!」

 世紀末覇者の様な掛け声と共に、ダイアウルフに斬りかかるシスティ。

 その剣は、大きな炎を纏っていた。

 火炎斬と名付けられたそれは、ダイアウルフに刀傷を与えながらその表面を容赦なく焼く。

 皮膚が焼け爛れ、そこに斬撃が加わり、更にその傷口を焼き切る。

 凶悪な技であった。

 システィが火炎斬を3発ほどお見舞いすると、ばたりとダイアウルフは倒れて息絶えた。

「もう火炎斬はお手の物だね」

 後ろで見ていたソラがそう声を掛ける。

「ああ、ソラのお陰だぜ」

 はにかみながらシスティは答えた。

 ――あれから3ヶ月。

 ソラは火についてのありとあらゆる知識をシスティに教え込み、今やシスティは火属性魔術においてかなりの熟練者と化していた。

 火炎斬を始め様々な火属性魔術の応用を身に付け、火力に関しては6~7メートル程の巨大な炎を生み出すことができるまでになった。

「よし、じゃあ今日はこれで帰ろう」

 ダイアウルフの尻尾を切り取り、袋に入れる。

 ここ最近は実践演習と題してダイアウルフ狩りを行っていた。

 今のシスティであれば、捨て身のダイアウルフ3匹を相手にするなど造作も無いであろう。

「あ、あのよ、ソラ……」

 システィはこの日、ソラにあることを話そうと決心していた。

「……家に帰ったらよ、話したい事があんだ」

 それは、彼女の過去の話。

 何故ハンターになり、何故強くなりたいのか。

「……うん、分かった」

 ソラはシスティの覚悟のようなものを感じとり、頷いた。



 ソラとシスティはギルドに立ち寄りダイアウルフの尻尾を換金すると、商店街で肉と野菜を買った。

 ソラの家に到着した頃になると、日没し辺りは薄暗くなっていた。

 蝋燭に着火し、料理を始めるソラ。

 二人分のステーキと付け合せのサラダを作り終え、コップに水を注いで、食卓につく。

「頂きます」

「い、いただきます」

 実践演習が始まってから2週間、演習後は夕食を空の家でとることが自然な流れとなっていたのだが、未だにシスティは慣れない。

 頂きますという言葉もソラが言うので真似して言っているだけで、意味は未だに分かっていなかった。

「あ、そうだ」

 ソラは何かを思い出し、目を瞑って5秒程念じた。

 かと思うと、また食事に戻る。

 すると数秒後、涼しい風がシスティの体を撫でた。

「んおっ!?」

「最近暑くなってきたからね、冷房魔術」

「……ほぇー」

 やはり3ヶ月間ソラといると、驚き慣れるのだろうか。

 冷房の効いた涼しい部屋の中で、二人は夕食をとった。


 夕食を食べ終え、一息つくと、二人の間に静寂が訪れる。

 普段は取り留めのない話や魔術の話を小一時間程してからシスティは家に帰るのだが、この日は違った。

 ソラはシスティが話し出すのをゆっくりと待つ。

 システィは決意した面持ちで口を開いた。

「ソラに魔術を教わって、もう3ヶ月になる」

「そうだね」

「お陰であたしはかなり強くなれた、と思う。ありがとよ」

「うん。どういたしまして」

 がばっと頭を下げるシスティに、ソラは和やかに頷く。

 顔を上げたシスティは、ソラの目を見据えた。

「……あたしが、どうして強くなりたかったのか。ソラ、お前を信用して話そうと思う。じゃねぇとよ、失礼だからな」

「…………分かった。聞かせてくれ」

「ああ。あれは、9年前の話だ――――」

 そうしてシスティは、ぽつりぽつりと語りだした。


 ――9年前。

 システィは当時10歳。

 父親と母親と共にデキストロ郊外の小さな家に暮らしていた。

 父親は名の通った凄腕のハンターで、母親は一般的な農家の女性である。

 ある日、父親が依頼を受けて仕事に出掛けた。

 その晩の事。

 システィの家は何者かによって襲撃された。

 気がついた時には10人余りの手練に家を囲まれ、逃げ場は何処にもなかった。

 母親はシスティを樽の中に隠した。

 母親は連れ去られたが、システィは気付かれなかった。

 家は放火され、システィは命辛々樽から這い出て逃げ出した。

 その後、両親は二度と帰ってくることはなかった。

 システィは一日にして両親と家を失ったのである。


「――そしてあたしはハンターになった。父さんに教わった剣術と少しの魔術で何とかやっていけた。全ては……復讐のため」

 システィの目に怒りの炎が灯る。

「死に物狂いで調べた。9年間ずっとずっと調べた。あの日あたしの家を襲った奴らについてな」

 常人とは思えない眼光が鋭さを増した。

「分かった事がある。当時のギルドは腐っていた事、9年前にオニマディッカ公爵家を襲った雇われのハンター集団がいたという事、そして…………そこに私の父さんもいたという事」

 ソラはその話を聞き、目を見開いた。

 現在のオニマディッカ公爵家についてソラの知っている事は、当主のアルギンと一人娘のリーシェの二人しか血の繋がった人間は居ないという事である。

 公爵家としては不自然極まりない。

 アルギンたった一人で公爵家を立ち行かせる器量を持っている事は確かだが、過去に何かあった事は間違いなかった。

 ソラはあえて知ろうとはしていなかったが、今ここでその原因を知ることとなる。

「その事件で当時のオニマディッカ公爵家当主だったデスモ・ロイス・オニマディッカを含めた数人が殺されてる。参加したハンターは皆殺しだった」

 誰によって。

 それは生き残った人物を見れば明らかだろう。

「システィは……アルギン様を恨んでいるの?」

 ソラは恐る恐る聞く。

「いや……あの方も被害者だと、あたしは思ってる」

 システィは腕を組むと、忌々しげに喋り出した。

「当時のギルドは裏で何者かが暗躍していて、莫大な金が動いてた事が調べたら分かった。8年前にアルギン様がギルドを傘下に入れて更正した事で、ギルドは今みたいなしっかりした組織になったけどな。問題は、その腐ったギルドと繋がって腕利きのハンター達を雇った黒幕だ」

 今のギルドはオニマディッカの傘下にある事をソラは今初めて知った。

 しかしギルドと繋がってハンターを雇うといっても、ハンターにも拒否権が有るわけで――。

 ソラはそこまで考えて、はたと気が付いた。

「ハンター達を雇ってオニマディッカ家を襲った黒幕は、この話を聞き拒否したハンターの家族を人質にとって強制的に協力させたんだ」

 最低だ。

 つまり、システィの両親も、そういう事だろう。

「ハンター達は皆殺しと言ったけど、中には生きて帰った奴も居たみたいだ。そいつらは皆口封じで何者かに殺されてる。勿論、人質も皆殺しだぜ?」

 はは、と乾いた笑いを浮かべるシスティ。

 その目は怒りと悲しみで濡れていた。

「……主犯については、まだ分からないのか?」

「ああ……ハンター達を雇ったのは、主犯の部下の配下の手下の雇ったチンピラだろーよ。ただまあ、エスホ侯爵家が怪しいとは思ってる」

 エスホ侯爵家。

 この間、ソラとリーシェが学食で食事していた時に、リーシェに挨拶して来たいけ好かない男の名前がダトス・ニケフーダ・エスホだったことをソラは思い出した。

 あれ以来ダトスは、ここ3ヶ月の間ちょくちょく学食に現れてはリーシェに話しかけている。

「エスホはオニマディッカの実権掌握に一番積極的だ。黒い噂もかなりある。だけど……証拠がねぇ」

 腕を組み顔を歪めて呟くシスティ。

 ソラはシスティの話を聞き、同情していた。

 3ヶ月間頑張ってきた可愛い弟子に何としても協力してあげたかった。

 復讐という事が果たしてシスティにとって良いことなのか、ソラには分からない。

 だが、そういった悪党が今も尚のうのうと暮らしていることに、ソラ自身堪らなく腹が立った。

「……システィ、話してくれて有難う。とても許せない話だ。僕も協力したい」

 ソラの言葉を聞いて、システィは嬉しそうな悲しそうな複雑な表情をする。

「…………お前ぇならそう言うと思ってたけどよ、これはあたしの問題なんだ。悪いがあたし一人でやる」

 システィはソラに協力してもらうために話したわけではない。

 魔術を教えてくれたソラに筋を通すために話したのだ。

 しかし、ソラは引き下がらなかった。

 何としてもシスティに協力したいという、彼女に対する愛着のようなものがあった。

「僕の名前は、ソラ・ロイス・オニマディッカ。これでも無関係と言えるかい?」

 システィは絶句した。

 俄かには信じられない。

 だが、何故かシスティはソラの言葉に説得力を感じていた。

「システィの復讐に物申すわけではないし、僕が直接的に事を起こすつもりもないけど、調査や情報の提供くらいはさせてくれないか。どうしても、そいつらを許せない」

 ソラの真っ直ぐな視線を受け、システィはその眼光を揺らす。

 公爵家の公子に頼まれては、ただのハンターであるシスティは断れない。

「……分かり、ました」

 システィは頷くしかなかった。

「やっ、やめてよシスティ! 僕にも事情があるんだ――」

 敬語のシスティというとてもレアなものを見て動転したソラは、慌てて自分がオニマディッカである経緯を話した。


「――ということなんだ。だから僕には普通に喋って欲しい」

「そうだったのか……」

 ソラの話を聞き、納得するシスティ。

 とは言っても、ソラが事実上公爵家の人間ということに変わりはないのだが。

「僕が今知ってる情報は、ダトス・ニケフーダ・エスホという奴がリーシェを狙っているという事くらい、かな」

 システィはソラの口からリーシェという名前が出て少々むっとしつつも、ダトス・ニケフーダ・エスホの名前に心当たりがあることに気が付く。

「そいつはエスホ侯爵家現当主のボリゴの長男で、次期当主候補筆頭だ」

 前からエスホ家を怪しんで目をつけていたシスティは、エスホ家の情報をかなり得ていた。

 そんな中で一つもボロを出さないのだから、エスホ家が黒幕だとすればかなりのやり手だということが分かる。

「要注意だね」

「ああ、エスホ家がオニマディッカ家を狙ってる事は明らかだからな。気をつけろよ、ソラ」

「うん。また何か分かったらシスティに知らせるよ」

「……助かる」

 そう言うと、システィはぎこちなく笑った。

 その後、いくつか言葉を交わし、二人は別れた。



―――



「首尾はどうだ」

「は、父上。あの娘を狙い続けるのは最早無駄かと存じます」

「ちっ……無能が。男の方はどうだ」

「あのソラという男は養子。もしもエスホの者と関わったとて、オニマディッカが切り捨てれば無意味です」

「……やってくれるな、あの女狐」

「放っておいても良いのでは?」

「いや、あの男が無能ならば放っておけば良い。だが、有能ならば……」

「消す方が無難、と?」

「そうだ。今後は男をマークしておけ」

「はっ」


 お読み頂き有難う御座います。


 今回はシスティのお話。

 学園編の本筋に触れ出しました。


 次回、魔術祭。この次も、さーびすさーびすぅ

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