24 理科の実験
「さっぱりわかんねぇよオラァアアアアアア!!」
「ひぃいいいい!」
空は教養の授業を終え帰宅し、魔力に関する本を読んでいる最中。
ドバンという音と共にドアが開いたかと思うと、システィがそう言って怒鳴り込んできたのだった。
「さっぱりわかんねぇ」
「あ、あー……やっぱり?」
システィの手には空が書いた理科のプリントが握り締められている。
空はそれを見ると、案の定といった顔をして眉をハの字にした。
「て、テメェ……分かっててやったのかよ、お? コラァ」
口の端をぴくぴく震わすシスティ。
「ち、違う違う!」
「じゃあやっぱりって何だよやっぱりって!」
「言葉の綾といいますか……」
鬼のように鋭い目つきのシスティを何とか宥め、椅子に座らせる。
空はそこへ蝋燭とガラス製の透き通った花瓶を持ってきた。
「システィはその紙に目は通したよね?」
「あぁ? 通したよ」
まだ少し機嫌の悪いシスティ。
「火の特徴、覚えてる?」
「おう、確か……酸素ってやつと、燃料と熱がないと燃え続けないんだっけ?」
「そう。先ずは、燃料について実験していくから見ていて」
そう言うと、空は何もない空中に火属性魔術を使って小さな火を発生させた。
「今、この火は魔術で燃えているけど、魔術を解くとどうなると思う?」
「そりゃ、消えるだろ」
「うん。消えるね」
フッと火が消える。
「何故か分かる?」
「…………あ、燃料?」
「正解。火の特徴その1、燃料がないと燃え続けない」
空はそう言いながら、蝋燭に火をつけた。
「この火は何故燃え続けていると思う?」
「あー、分かったぜ。蝋燭が燃料になってんだろ」
「正解」
正確には芯と蝋の関係や揮発などを絡めてもっとややこしい話になるのだが、それを言ってしまうとシスティの頭がパンクしてしまう。
「じゃあ、次の実験だ」
空はガラス製の透明な花瓶を逆さにすると、蝋燭にすっぽりと被せた。
花瓶の先が机に付き、そのまま暫く経つと、中の蝋燭の火が消える。
「おおっ、消えたぜ!?」
「うん。なんでだと思う? システィはこれが一番理解が難しかったんじゃないかな」
「うーん……」
腕を組んで考えるシスティ。
たわわな胸が腕によって押し上げられ強調されて――――それ以上いけない。
空の良心がアームロックをかけて思考を止めた。
「酸素……そう、酸素ってのがポイントだろ?」
「ん、オッケー。そこまで分かれば良いと思う。あとは僕が解説するね」
空は紙に絵を書き出した。
蝋燭の火と、空気中に丸で囲んだ酸素マークがいくつか飛んでいる絵だ。
「この僕らが今呼吸している空気の中には、酸素っていう小さな粒が含まれているんだ。その酸素は火が燃え続けるのに必要だというのは分かっているよね?」
「おう、書いてあった」
コクコクと頷くシスティ。
「火が燃えると、その周囲の酸素は消費されるんだ。つまり……」
そう言って、空は絵の火の周りの酸素マークをいくつか消した。
「火の周りの酸素は消える。でも、空気は流動する……つまり酸素が足りなくなれば他の空気中から取れば大丈夫だから火が消えることはない」
次に、絵に花瓶を書き足した。
「今度は花瓶で囲った場合。花瓶の中の空気は入れ替わることはない、つまり?」
「……あっ、花瓶の中の酸素が全部なくなっちまうってことか!」
システィは気がついたようだ。
「そう。花瓶の中の酸素を全て使い果たしてしまうと、花瓶の中に酸素が無くなって火が消える。これが理由だ」
「ほぇー、なるほどなぁ……」
納得、といった表情である。
空は最後の実験のため、大きな鍋を用意した。
魔力をそこに溜め込み、一気に冷却するイメージをする。
「――っ」
成功した。
鍋の中が瞬時に冷たくなった。
「何してんだ?」
「システィ、この中に手を入れてみて」
何だろう、といった表情でシスティは鍋に手を入れる。
ひんやりという次元ではない、刺すような冷気がシスティの手を襲った。
「うぉおおつめてぇっ!!」
即座に手を引っ込めるシスティ。
空はそれを見て微笑みながら、蝋燭を持ち上げる。
「最後の実験は、これだ」
蝋燭を鍋の中に入れると、火は消えた。
「何故消えたと思う?」
システィは暫し考え、回答した。
「熱が冷気で奪われた、から?」
「正解!」
正確には、発火点より温度が下がったためだが、混乱を招いても仕方ないので黙っておく空。
ほっとしたような顔で安心するシスティ。
笑顔で空に言った。
「すげぇな、ソラ。お前に教わったらすぐ分かっちまったよ」
「実験のおかげだよ。うん、よかったよかった」
「……で、これが何の役に立つってんだ?」
システィは特に文句も言わずに空の言う勉強をして来たが、魔術らしい事はまだ一つもしていない。
そこを少し疑問に思いそう問いかけた。
「よーし、そしたらウッドデッキに出ようか」
ウッドデッキに出た空とシスティ。
「じゃあ、この前と同じように【炎火】より大きな炎をイメージしてやってみて」
「いいけどよ……」
言われるがまま、システィは庭の中心に【炎火】を放った。
「おおっ!?」
前回は2メートル程だった炎が、なんと3メートル程の大きさにまでなっていた。
「あ、な、なんだこれ!? どういうことだよオイ!」
「システィ、もっと大きくできる?」
「え!? お、おう……えぇ!?」
空に言われ、システィがより大きい炎をイメージした。
すると、炎は4メートル程の大きさにまで成長する。
「マジかよ……」
システィは口をあんぐりと開けてその炎を見つめるのだった。
燃料、酸素、熱。
この3つの特徴を理解するだけで、火属性魔術の効率は飛躍的に上昇する、というサンプルが取れ空はウハウハだった。
システィはたったこれだけの事だが格段に強くなれたうえ、空とも沢山喋ることができた。
見事なwin-winの関係が出来上がっていた。
お読み頂き有難う御座います。
この”理科の実験”というアイデアはとあるご感想で頂きました。
この場を借りて感謝致します。
今回は、システィの成長回でした。
次回は、研究にグリシーが参戦です。
水と油、グリシーとリーシェ……うむむ。




