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23 魔力伝達

 棋聖戦見ながらまったり書いてたら遅くなりました。

 御免なさい。

 ゆるしてくだちい……。

 空とリーシェが学食に到着すると、沢山の視線に囲まれた。

 空一人でも注目の的だが、学園長の一人娘も一緒となると話は更に大きい。

 また、ソラ・ロイス・オニマディッカという名前。

 これはオニマディッカの動向を伺う貴族達に2つを予想させた。

 1つは、養子を取り新しい家督として育て上げるというもの。

 そしてもう1つは、リーシェへの婿入りである。

 貴族たちはオニマディッカの実権を握るため、一人娘であるリーシェを虎視眈々と狙っていた。

 もし後者だとすれば、その貴族たちにとって空は邪魔者でしかない。

 窓口で料理を注文し、それを受け取り、二人が席につくと、一人の男子生徒が近づいてきた。

「リーシェ様、ご機嫌麗しゅう存じます」

「……ええ、そうね。貴方は誰です?」

 流れるような動作で一礼するその男。

 180センチほどの大柄な男だが、その所作はゆるやかで貴族の風格がある。

「ダトス・ニケフーダ・エスホと申します。以前もお会いしましたが……」

「何の用でしょう」

 ダトスと名乗ったその男は、エスホ侯爵家の長男であった。

 ダトスは空を一瞥し、リーシェに向き直る。

「リーシェ様ともあろうお方が、何やら胡散臭い男と一緒にいるので、ご注意に参った次第で御座います」

 空はむっとした。

 それをリーシェに言う意味が分からなかった。

「私のお兄様です。以後お見知り置きを」

 リーシェは至って無表情にそう返した。

 ダトスは一瞬目を見開いたかと思うと、今度は薄ら笑って返す。

「まさか、リーシェ様の御令兄とは露知らず……」

 そう言って頭を下げるが、その目はリーシェを向いていた。

「もういいかしら?」

「はい。お食事中失礼致しました」

 リーシェが忌々しげに言うと、ダトスは一礼し去っていった。

「……何だったの? 今の」

 空は事情がよく分からず、リーシェにそう問う。

「あの様にオニマディッカの名前を狙う輩が多いということです。もしかすると今後は兄さんも言い寄られるかもしれません」

 リーシェはそう言ったが、その可能性は低かった。

 空が養子としてオニマディッカ家に入ったことが本当かどうかの確証が取れず、婿入りしたとあれば側室は取らない。

 空についての情報はアルギンが全て握っている為、不確定要素が多すぎるのだ。

 つまり、どの貴族もこれまで通りリーシェを狙う方針だろう。

「なるほど、お互い気を付けよう」

「私は慣れていますが……兄さんは危なっかしいです」

 4歳も年下の女の子にそう指摘される空。

 確かに危なっかしい。

「き、気を付けます」

 反論できなかった。



 午後。

 学食から研究室へと戻る途中、二人は図書館へ寄り本を借りた。

 図書館に現存する魔力の特性について纏められている本全て、その数12冊。

 研究室につくと、リーシェと空で手分けをして片っ端から読み漁った。

 数時間後、空は唐突に閃いた。

「ああっ!」

 空の声にビクッと体を反応させたリーシェが本から顔を上げた。

「ど、どうしました?」

「実験実験!」

 実験大好きっ子の独壇場である。

 空は研究室の椅子やテーブルを隅に寄せて、端に立った。

「リーシェはそこの、もうちょっと向こう側の、そう、そこで見てて」

 端から端まで約10メートルの距離。

 リーシェをその中間の5メートル地点に立たせる。

「今から僕が向こう側の壁に魔術を発生させる。白いモヤを出しながらね。リーシェは僕と魔術の発生地点の間の軌道を観察していて」

「分かりました」

 そう言うや否や、空を中心に半径3メートルの白いオーラが包む。

「いくよー。3、2、1」

 0、と同時に空が魔術を放つ。

 コンマ何秒後に、反対側の壁に水滴が発生した。

「…………凄い」

 リーシェは、ぽつりとそう呟く。

 1秒に満たない間の出来事だったが、リーシェはその光景に目を奪われた。

 それは空の魔術ではなく、リーシェがたった今目の前で見たものに対してである。

「どうだった?」

 白いモヤを解き、空がリーシェに近づく。

「凄いです! ええっと、今、絵に描くので少し待って下さい!」

 興奮したリーシェが紙に絵を描き出す。

 その絵は、例えるならば有髄神経における興奮伝導。

 ランビエ絞輪を跳躍伝導する様に、白いモヤが空気中の何かを伝わり直線上に伸びて行く様子だった。

「やっぱり、思った通りだったな」

「これは一体どういうことでしょう?」

 空はリーシェに説明した。

 まず、空が立てた仮説はこうだ。

 術者の魔力が空気中の魔力に作用して魔術が起こる場合の魔力の伝達は、空気中の魔力を伝って行くのではないか、というもの。

 これは、魔術を発生させる場所の距離に比例して発生時間は遅くなる、という事について書かれた本を読んでいる時に思いついた。

 その予想の通り、空気中の魔力を伝わっているかはまだ分からないが、空気中の何かを跳び跳びに伝わって魔術発生箇所まで伝達していることが実験によって判明した。

「つまり……術者の魔力が魔術を発生させたい所まで空気中の何かを伝わって移動し、その場所に到達したら自動的に魔術が発動するということですか?」

「うん。そう考えていいと思う」

 顎に手を当てて考えるリーシェ。

「……ということは、兄さんの仰る術者の認識が重要だという説に信憑性が増しましたね」

「そうなる、かな。術者が”あの場所で魔術を発生させたい”と思って魔術を放ち、その結果その場所で魔術が発生するように作られた魔力が空気中を伝達する……やっぱり術者の思い通りに魔力は練れると考えたほうが自然だね」

 空はそう言って一つ伸びをした。

 長時間に渡って読書していたこともあり、かなり疲労が溜まっている。

 それはリーシェも同じだろうと思い、切り出す。

「今日はこのくらいにしておこうか」

「はい、分かりました」

「じゃあ、今日の成果を紙に書いて纏めよう」

 本来なら、実験の過程から何から全てを紙に纏めて行きたかったのだが、それには人手が足りない。

 グリシーが来れば解決なので、とりあえず今は二人でやるしかなかった。

 成果を紙に纏めると以下のようになった。

 ・空の魔力は体から溢れ出ており、溢れ出ている魔力に関しては可視化出来る。

 ・溢れ出ている魔力の有効範囲は半径約3メートルで、魔力を消費するとその範囲は狭まる。

 ・術者の魔力は空気中の何かを伝わり魔術発生箇所まで移動する。

 ・魔術発生箇所まで術者の魔力が移動しようとするのは術者の思考に起因する。

「これってもう既に大発見では……」

 後者2つは空の魔力が可視化できるからこそ分かったことである。

 そう考えると、術者の魔力の可視化は偉大だ。

「いや、まだ魔力の特性について少し分かっただけだからなぁ」

 空はまだまだと考えているが、初日にしては異常な成果だった。

「よし。今日はお疲れ様。また明後日よろしくね」

 そう言ってリーシェを外に出し、自分も外に出て施錠する空。

「はい」

 返事をするリーシェの右手には、本が2冊。

 それを見て、空は嬉しくなった。

 二人は挨拶をし別れ、帰宅した。

 こうして、空の研究が始まった。



―――



「ダトスよ、どうであった」

 エスホ侯爵家。

 大きな椅子にふんぞり返る大きな腹の当主、ボリゴ・ニケフーダ・エスホは長男であるダトスにそう問う。

「は、父上。当人は兄と申しておりました」

 ダトスはそう報告をする。

 ボリゴはそれを聞くと、口の端を歪めた。

「そうか。益々謎だな……」

 ぐびぐびとワインを飲み干す。

「ダトス。お前は継続して小娘を狙え」

「はっ」

「よし、下がれ」

 ダトスは一礼して下がった。

「女狐め、何を考えておる……」

 そう呟くボリゴの目は、野心に満ち溢れていた。


 お読み頂き有難う御座います。


 今回は魔力の伝達についてでした。

 かなり簡略化して書いております。


 次回はシスティでち。

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