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22 魔力の可視化

「……お母様が兄さんを認めた理由が分かりました」

 最早嫉妬すら沸きません……と呟くリーシェ。

「正しい認識だって分かってもらえた?」

 空は苦笑いでそう問いかけた。

 リーシェは、はぁと一つため息をついて、空に向き直った。

「ええ。こんなものを見せられては信じざるを得ません。きっと兄さんの知識こそが正しい認識であり、正しい認識の限りなら魔術の可能性は私の想像もつかない程大きいのでしょう」

 そう言うと、またしてもため息をつく。

 アルギンが空に肩入れする理由を垣間見て、自分が遠く及ばないことを痛感したリーシェ。

「科学、勉強してみる?」

「お、教えて頂けるのですか!?」

 空のその提案はリーシェにとって驚愕であった。

 空の言う魔術理論が正しければ、その科学の知識がどれ程重要なものかは一目瞭然。

 門外不出、一子相伝して然るべき貴重な知識である。

「元より教えるつもりだったけどね」

 にっこりと笑う空。

 きっとリーシェのためになる――空のその言葉は嘘ではなかった。

 リーシェは空の大盤振舞に感動すら覚えた。

「誠に有難く存じます。ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します。兄さん」

 椅子から立ち、恭しく一礼。貴族の正式なお辞儀である。

「あ、いや、そう畏まらないで。リーシェは同じ研究チームなんだから」

「その科学の知識は、研究チームだからと、そう簡単に教えてしまっていいものでは無いと思います。それと、兄さんはいずれオニマディッカ家をお継ぎになられるお方ですから……畏まりもします」

 そう反論するリーシェ。空は困ったように言う。

「でもなぁ……やっぱりチームワークは大事なんだ。だからお堅くなりすぎるのは無し。兄だからと言うのなら、これは兄からの命令だ。いいね?」

「…………はい」

 リーシェはそれでもまだ納得いかないようだが、口を尖らせて一応の了承見せながら渋々椅子に座り直す。

 空はその様子を見て、リーシェは中々の頑固者だと思った。


 ポンと手を叩いて、仕切り直し。

「さて、早速だけど研究の第一段階を考えていこうと思う。それは、魔力について」

「魔力について、ですか」

「うん。魔力の特性について色々と実験して明らかにしたい。とりあえず今日は、空気中にどういう形で魔力が存在するか調べたいんだけど……うーん」

 リーシェは興味深げに聞いている。

 空は顎に手を当てて考え込んだ。

 空は、何がどういう形で存在するのかというのを調べるのは染色が一番だと知っていたが、問題は空気中の魔力をどうやって染色するかだった。

「リーシェ、魔力を染色するにはどうしたらいいと思う?」

「なるほど、染色…………兄さんなら、そういった染色する物を魔術で作り出せるんじゃないですか?」

「いや、魔力を染色できる物質は知らないなぁ……」

 うーん、と二人共考え込んだ。

 魔力を可視化して動きを調べられればいいのだが、その方法は中々思いつかない。

 そして30分程考えて、動きがあった。

「……私、図書館でそういった文献がないか調べて来ます」

 椅子から立ち上がりそう言うリーシェ。

 自分から言い出して行動してくれるだなんて全く良い助手を持ったもんだ、と思う空。

(ん、自分から……?)

 そこで、空は閃く。

「あっ!」

「ど、どうかしましたか?」

「色つきの魔力を出せるかも!」

「…………はい?」

 魔術の腕は既に一流の域のリーシェだが、魔力を出すということには馴染みがなかった。

 この世界のどこを探しても馴染みのある人などいないので仕方がない。

 一方空は、魔力で岩を振り回すことが出来る程度には魔力を魔力として扱うことができた。

「よし、白いイメージで魔力を放出してみよう」

 空が右手をかざすと、一瞬でそこから白いもやが広がる。

「し、白いのがいっぱい出てきました!」

 リーシェが興奮して叫ぶ。

 注釈しておくが、白いのとは可視化した空の魔力のことである。

「ん……?」

 すると、少し不思議なことが起きた。

 右手を中心に広がっていった白いもやは、重力や風に従うことなくどんどんと広がっていったのだが、空から3メートルほど離れると散ってその色は薄くなっていったのだ。

 空はそのまま暫く白いもやを出し続けた。

 結果、白いもやは空より3メートルほど離れると自然消滅へと向かい、その範囲なら自由に動かせることが分かった。

「どうやってるんですかそれは……」

 リーシェが呆れた顔で問いかける。

「どうって、魔力を白色のイメージで出しただけだよ」

「そもそも私は魔力を出せないんですが……」

 そう言ったリーシェは虚空に手をかざし、色々とイメージして頑張っているようだ。

 空はそのリーシェの言葉に引っかかった。

(リーシェはかなり魔術が上手い部類だから魔力の扱いには長けていると思うけど、それでもできないとなると……僕の方がより扱いに長けているのか、もしくは、魔力量の差か、知識の差か……)

 後者の二つはありそうだ、と思った空は、研究室の棚に置いてあった水晶玉を取り出す。

「リーシェ、ちょっとこれやってみて」

 魔力量の測定である。

 空はこの水晶玉の仕組みも気になっていたが、それは魔力について判明してからだと、今は忘れることにした。

 リーシェが水晶玉に手を置いて念じると、中心に白いもやが現れる。

 空はそのもやが大きいのか小さいのかがわからなかったが、少なくとも空よりは全然小さいと判断できた。

「他にも色々と要因があるかもしれないけど、もしかしたら、魔力量が少ないと扱えないのかも」

「…………これで足りないんですか?」

 リーシェの魔力量は一般人に比べてかなり多い方であった。また、もやを濃く大きく出せているので、魔力の扱いについてもかなり上手い部類である。

「ん? うん、多分。もしくは、知識の差もあるかもしれない」

「……ちょっとやってみて下さいませんか、兄さん」

 ずいと水晶玉を差し出すリーシェ。

 空がそこに手を置くと、水晶玉は瞬時に真っ白になる。

 リーシェ、本日三度目の驚愕であった。


「兄さんは体から魔力が溢れ出ているんじゃないですか?」

 机に向かって二人。

 長々と検討していた中、リーシェが何気なくそう言った事をきっかけに、空はまたしても閃いた。

「そうか! なんで僕は右手だけしか試してなかったんだ!」

 空はガバっと立ち上がると少し離れて、全身の魔力を白くイメージし放出した。

 すると、まるでオーラのように空の周りを白いもやが包んだ。

「凄いです、兄さん! 白いのがこんなにたくさん!」

 注釈しておくが、白いのとは可視化した空の魔力のことである。

「すごい! けどこれ何も見えない!」

 リーシェに協力してもらい、白いもやの最終到達地点を測ると、空を中心にやはり3メートルほどが限界のようだ。

「ふぅ…………あ、そうだ」

 空は暫く集中してイメージしていたので少し疲労を感じたのだが、またそこで一つ思いつく。

「僕の魔力を減らして実験してみよう」

 そう呟き、空は何かを魔術で作り上げようとした。

「リーシェ、何か作って欲しいものない?」

 あまり良い物が思いつかなかったので、リーシェに質問した。

「作って欲しいもの、ですか? ……ええと、それでは、花瓶を。この研究室は殺風景ですし、お花を飾るのが良いかもしれません」

「オーキードーキー」

 空は机の上に花瓶を念じた。

 シンプルな縦長の形で、ガラス製である。

 少々形や材質が歪な部分もあったが、難なく花瓶が完成した。

 同じ具合に更に4つ作る。

 5つ目の花瓶を作り終えたところで、空はリーシェを呼び、またオーラの距離の測定を行った。

「兄さん、距離が短くなっています」

 結果は、空の思った通りだった。

 花瓶を作り出し魔力を消費したことで、体外に発散されていた魔力の量が減ったのである。

「よしよし、これでなんとなく見えてきたな」

 つまり、空のように魔力で岩を持ち上げたりというのは、体内に魔力を大量に持ちその大量の魔力が体外に溢れ出ている者でないと扱えないということだ。

「兄さんのように馬鹿みたいな魔力を持っていないと出来ないという事ですね……」

 残念そうに悔しそうに言いながら、花瓶を窓際に置きに行くリーシェ。

 ちらりと窓から外を眺めると、生徒たちが学食に向かうのが見えた。

 この研究棟は本館と学食の間に立地しているからである。

 空もリーシェの方を見やると、それに気が付いた。

「あ、もうお昼だね。リーシェは学食で大丈夫?」

「ええ、いつもそうしています」

「そっか。じゃあ実験は一旦止めて、学食に行こうか」

「はい。ご一緒致します」

 研究は中断し、昼食休憩に学食へと向かう二人。

 午前中では、元々の目的の空気中の魔力を染色して可視化する事には到達しなかったが、体内の魔力を可視化させることを実現し、その特性もある程度判明した。

 半日の成果としては上々、と空は考える。

 このペースで研究が進捗すれば、年度終わりには良い成果が出せそうであった。


 お読み頂き有難う御座います。


 体内魔力の可視化に成功しました。

 今後も色んな魔力の特性について判明していきます。


 次回は、リーシェと昼食です。


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