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13 授業開始


「やあ、おはようソラ君」

 早朝。

 空が1組の教室に入ると、グリシーは待ってましたとばかりに声を掛けた。

「おはようグリシー。早いんだね」

「ソラ君に会うのが待ち遠しくてね」

「そ、そうか」

 グリシーは至って真面目なので、空は引きつった笑顔でそう返すよりなかった。

「ところでグリシー、一つ質問していいかな?」

「僕の3サイズかい?」

「……いや、僕って昨日入学したばかりだろ? 今日は質問攻めにあうんじゃないかと思って覚悟して学園に来たんだけど、誰も話しかけて来ないんだ。なんでだと思う?」

 空は呆れ顔でそう問うと、グリシーは簡単といった感じで答える。

「それはソラ君がオニマディッカ公爵家の人だからじゃないかな? 並の貴族は話しかけられないよ。同じ公爵位を持った家の人なら普通に話しかける事が出来ると思うけど……1組にはリーシェ様しかいないね」

「なるほど、有難う。グリシーは物知りだな」

「いやあ、それ程でも」

 空が感謝を述べると、グリシーは照れ笑いした。

「物知りついでにもう一つ聞いてもいい?」

「何でも言ってよ。3サイズかい?」

「……いや、この1組って授業はどのくらい進んでるのかな?」

「ああ、心配しなくて大丈夫だよ。この1組は……正確には1年1組は、初年度カリキュラムのまだ前半の内容だから」

「ここって1年生のクラスだったのか」

「そうだよ。とは言っても、この学園では授業のカリキュラム以外に学年の意味はあんまりないから、気にしないでいいと思うよ」

「わかった。有難う」

 そう交わしたところで、担任のプロン・ヒーチが教室へと入って来た。

 空とグリシーを含めた生徒達は速やかに席に着く。

「皆さん、おはよう御座います」

 ヒーチはそう言うと、手に持った本を開く。

「本日は午前に魔術学の授業、午後に実技の授業です。では先ず、6ページの内容を解説します」

 HRも何もなく、いきなり授業を開始するようだった。

 空は慌てて6ページを開く。

 そこには、魔術の基本属性の火水風土について書かれてあり、その内容は、空にとっては物足りないものだった。

 古代ギリシアの四大元素の考えに似た考察が書いてあり、それぞれの属性の特徴についても触れられている。

「魔術には基本属性と呼ばれる4つの属性があり、それぞれ火・水・風・土と分けられ……」

 ヒーチは解説を始める。

 暫く解説が進むと、区切りの良いところである生徒が挙手をした。

「セルロさん、どうぞ」

 セルロと呼ばれたその女子生徒は立ち上がり、ヒーチに質問を投げかけた。

「基本属性以外の魔術は存在しないのでしょうか?」

 その質問は空が気になっていたことでもあり、空は答えを知っていることでもあった。

 では、空が一体何を気にしていたかというと、空以外のこちらの世界の人々はその事実をどう認識しているか、その一点だった。

「良い質問ですね、セルロさん。実は、基本属性以外の魔術は存在します」

(――やっぱり、か)

「私が聞いたことのある特殊な魔術は、氷魔術・熱魔術・音魔術……くらいでしょうか。そのいずれも原理はおろか発動方法すら解明されていません。ああ、それと、皆さんがよくお知りの異言語が通じる現象も、実は特殊な魔術ではないかと言われています」

(氷や熱は応用として、音……か。なかなか良い事聞いたかも)

「有難うございました」

 セルロはヒーチの語りを聞くと、そう述べて座った。

(音……つまり振動。ってことは、魔力の波を作るのか?)

 空は授業そっちのけで考え出す。

(空気中の魔力に作用させて、音波を作り出すのか。イメージすればできそうだ)

 実験したい気持ちで一杯になる空であった。


「以上で魔術学の授業を終わります。昼食後、実技の授業ですので、グラウンドに集合してください」

 ヒーチは本をパタンと閉じてそう言った。

 そこで、手をぽんと叩き、ふと思い出したように付け足す。

「そうでした。ソラ君は学園長がお呼びですので、この後学園長室に行って下さい」

 空は露骨に嫌そうな顔をしたが、ヒーチはそれを伝えるとすぐに教室を出て行った。

「ソラ君。早く行ったほうがいいんじゃない?」

 グリシーが空に近寄り言う。

「グリシーか。昼食は君と一緒にもっとゆっくり取りたかったよ……」

「おおっと、愛の告白かい? 喜んで受けるよ」

「違うよ。まあとにかく行ってくる」

「次の昼食は是非一緒に、ね」

「そうだね」

 空は重い足を引きずって学園長室へと移動した。


「来たか」

 空が学園長室の扉を開くと、センターのテーブルに料理が並び、そのテーブルを挟むように椅子が2つあり、その片方にアルギンが座っていた。

 空は侍女に案内されもう片方の椅子に座る。

 数名の女中が料理を運んだり飲み物を運んだりと忙しい様子だった。

「それでは食べよう」

 アルギンが料理を口に運ぶ。

 空はそれを見て、「頂きます」と呟き食べ始めた。

 料理の味は、日本には劣るものの中々の味だった。

 暫く料理を堪能すると、アルギンが喋り出す。

「座学の授業はどうだった」

 空は、途中から音魔術のことについてしか考えていなかったので、これは少し答え辛い質問である。

「ええっと、基本属性以外の魔術がないかという質問に対して、ヒーチ先生が仰った音魔術というものに興味が湧きました」

「そうか」

 アルギンはくいっと飲み物を煽ると、また口を開く。

「では質問を変えよう。お前があの授業で学ぶことは何かあったか?」

 空は考えた。

 確かに、音魔術という発想の収穫があったが、基本属性の話は元々知っていた。

 空は授業中、少しだけ教科書を先に読み進めてみていたのだが、魔術の発動方式や考え方、下級魔術などについて書かれており、為になりそうなことは一つもなかった。

「……正直に申しまして、極少ないと思います」

「ふっ、だろうな。あの様な魔術を使う者が今更初年度カリキュラムを受けても仕方がない」

 アルギンの言うあの魔術とは、スタンガン魔術のことである。

「お前の座学の出席は免除してやってもいいが、どうする?」

 アルギンは空にそう問いかけた。

 空は、予てより考えていた事を提案するチャンスだと思った。

「一つ、お願いがあるのですが」

「何だ。言ってみろ」

「はい。この学園には研究者の様な方がいると聞きました。僕も魔術の研究をしたいのですが、そういった環境を整えて頂くことはできますか?」

 言い終えると、少し厚かましかったかと反省した。

「魔術の研究、か」

 アルギンは腕を組み考える。

 そして、ゆっくりと口を開いた。

「いいだろう。座学を免除する代わり、その時間を研究に当てろ。だが、それには条件がある」

「はい」

「今年度中に必ず研究の成果を出せ」

「分かりました。有難う御座います、アルギン様」

 空が感謝を述べると、アルギンは機嫌良く笑った。

 そこで、空はふと疑問に思う。

「あの、ところで……結果を出せなければどうなるのですか?」

 そう聞くと、アルギンは口の端を釣り上げて、椅子の背もたれに背を預けながら言った。

「どうなるのだろうなぁ」

 空は絶対に成果を出そうと決意したのだった。


 お読み頂き有難う御座います。


 魔術学の授業は空には少し物足りなかったようです。


 次回は、実技の授業です。嫉妬に狂った女が動き出します。


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