さくら
静かに、花びらが散っていく。
一枚、一枚、また一枚。
なまぬるい風に乗せられて、
ふうわり
ふうわり
ふうわりと
ひいらり
ひいらり
ひいらりと
音も立てずに散っていく。
その一枚に、あの一枚に、
懐かしい記憶が映っている気がして、
一枚、一枚、散っていくたびに、
心のおくが、スカスカになっていくような、
大事なものを取られていくような、
そんな切なさを感じるから、
無性に、なにかを抱きしめたくなる。
儚げな、薄紅色の花びらに混じって、
青々とした緑の葉が、ところどころに突き出ていた。
生き生きとした葉があちこちに、
儚い過去を塗り替えるように、
そこかしこで芽を、出していた。
そわそわする。
どきどきする。
目の前に迫ってくる新しいことに、
圧倒されて、押しつぶされそうで。
「時間よ止まれ」と、
「花びら止まれ」と、
けれども時は止められない。
――ほら、わたしの心にも、
もうこんなにも緑の葉が、そこかしこで、突き出ている。




