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天蓋

チャリティ電子書籍企画「プロジェクトうりゃま」発行の「Pure&Happy」(2011/7/1刊行)に寄稿した短編です。

 

 

 

「忘れてた!」


 寝入りばな、思わず声を上げて、有馬志紀(しき)はベッドから飛び起きた。


 ――化学概論のレポート提出日って、いつだっけ?


 大学生活初めての夏休みを控えて、少し浮かれてしまっていたかもしれない。やばいやばい、と机の灯りを点け、スケジュール帳をめくる。


 ――うわー、明日じゃん。


 頑張って仕上げたレポートも、出し忘れては意味がない。安堵の溜め息一つ、本立てからファイルを取り出し鞄に入れる。

 これでよし、と頷いてから、志紀は、もう一度スケジュール帳に目を落とした。

 七、八月の見開きには、バイトやサークルといった文字が所狭しと乱舞している。そんな中、カレンダーの両サイド、土曜と日曜の欄だけは、対照的に空白が並んでいた。


「あ、そうだ」


 そう小さく呟いて、志紀はボールペンを手に取った。そうして今週末の日付を丸で囲む。まるで、宝の地図に印をつけるかのように、ゆっくりと、丁寧に……。

 それは、ついさっき決まった予定だった。志紀はにんまりと微笑んで、ベッドの枕元に置いたケータイを振り返る。

 おやすみ。

 おやすみなさい。

 耳に残る彼の声が消えないうちに、と、志紀はいそいそとデスクスタンドを消した。


 


 


 


 待ちに待った週末。

 水の都という名にふさわしい、川に挟まれた都心一等地、そこに建つ市立科学館の前に志紀はいた。

 真夏の太陽に追い立てられるようにして、親子連れが次々と館内に吸い込まれていく。数百円の入館料で、空調の効いた部屋の中、終日遊具で遊び放題なのだ。小学生の頃、ああやってよく親に連れて来られたなあ、と、志紀はそっと笑みを浮かべた。


 


 彼は、約束の時刻の少し前に姿を現した。

 シャツの裾をひるがえしながら、颯爽と風を切って、彼は広場を抜けてきた。手を振る志紀に、少し照れ臭そうに右手で応える。その拍子に、眼鏡が陽光を映し込んで、きらりと光った。

 彼、多賀根(ろう)は、志紀が卒業した高校の化学教師である。同時に、志紀の通う大学のOBでもあり、未だにチームの一員として週末ごとに大学の研究室に出入りしている、根っからの化学バカだ。

 ……そして、志紀の彼氏でもある。


「先生! おはようございます!」

「おはよう」


 志紀の呼びかけに挨拶を返すも、朗は何となくそわそわした様子で、辺りに視線を巡らせている。


 ――周りが子供ばかりで、落ち着かないのかな?


 だから言ったのに。志紀はそう嘆息しながら、先日の電話を思い返した。


 


 今度の週末、どこかへ行かないか? と問われて、志紀はケータイを握りしめたまま、しばし考え込んだ。


『……どこか行きたいところがあるようだが……』


 彼が怪訝そうな声を出すのも、(もっと)もだろう。具体的な目的地を告げるか、「どこでもいい」と丸投げするか、どちらにしても、普段の彼女ならすぐに答を返していたはずだから。


「え、まあ、あるにはあるんですけど」

『珍しいな。何を遠慮しているんだ?』

「遠慮してるわけでもないんですけど、デートで行くのはどうだろう、とか思ったりして……」

『カップルで行ってはいけない場所?』

「いえ、そんなわけは、全然」

『私には合わない場所だとか?』

「いいえ。むしろ、嗜好的にはバッチリかと」

『ならば、遠慮することないだろう?』


 


「……確かに、誰が誰と訪れようと問題はないし、我々の嗜好にも思いっきり合致している場所だな」


 電話口で志紀に行き先を告げられた時と、全く同じ台詞を吐き出して、朗が苦笑を浮かべた。


「でしょ? でも、ちょっとデートというには騒々しすぎる場所かなー、って」


 凹む朗の姿が珍しくて、ついつい志紀の声が弾む。

 それを恨めしそうに見やって、朗がまた溜め息をついた。


「だが、来たかったんだろう? ここに」

「そうなんです」


 そう言って志紀は、吹き抜けのロビーを振り仰いだ。


「高校の時は、友達と、全天周映像の新作がかかるたびに来てたんですけど、大学でばらばらになっちゃって、なかなか予定も合わなくて、今回は無理かな、って諦めかけてたんですよ」


 全天周映像とは、プラネタリウムのドームスクリーン全面を使って上映される、臨場感抜群の映画のことである。


「まぁ、たまには童心に返るのも悪くない」

「童心って、またそんな大げさな」


 今度は志紀が苦笑を浮かべる番だ。

 と、先刻の意趣返しだろうか、朗がにやりと口角を上げた。


「まあ、デフォルトが童心なら、返るもなにもないか」


 志紀は、一瞬、ぐ、と言葉に詰まったものの、ほどなく満面の笑みで朗を見上げた。


「分かりました。じゃあ、せっかくだから徹底的に童心に返ることにしましょう!」

「え?」

「全天周映像だけにするつもりだったんですけど、プラネタリウムも、あと、展示室もフルセットでいきましょう!」

「えっ?」

「じゃあ、早速チケット買ってきます! 先生も早く!」


 いつもいつも先生のペースに乗せられてばかりだけど、もしかしたら今日は勝てるかもしれない。そんなことを思いながら、志紀は軽い足取りでチケットカウンターへ向かっていった。


 


 


 最初は「なんで今更」と、ぶつぶつ文句を言っていた朗だったが、いざ展示室を回りはじめると、彼の瞳は明らかにその輝きを増したように見えた。おそらく「先生」としてのスイッチがオンになったのだろう。そこはかとなく楽しそうに展示物を解説する朗を、志紀は頼もしげに見つめ続けた。


 


 やがて、プラネタリウムの上演時間が近づいてきた。

 良い座席を取るために、二人は早めに会場入口へと向かった。地下にあるプラネタリウムの扉の前には、開場までまだ二十分あるにもかかわらず、既に十人ほどの先客が列をなしていた。


「プラネタリウムなんて、小学校の遠足以来かも」


 志紀が懐かしそうにそう言うと、朗が小さく鼻を鳴らした。


「科学館の一般投影なんて、小学生向けと大して変わりがないからな。どうせ、夏の大三角形の話を聞かされるんだろう」

「でも、星空紹介のあとに、面白そうな番組をするみたいですよ」


 受付で貰ったチラシの、提供・アメリカ自然史博物館、という文字を示されても、朗の眉間の皺は一向に緩む気配がない。


「わざわざここで見なくとも、なあ。丁度寝不足なことだし、ゆっくり休ませてもらうとするか」

「ええええ? 寝る気まんまんですか」


 思わず抗議の声を上げる志紀に、「悪いか」と朗が小さく片眉を上げた。


 


 扉が開かれ、人々は心持ち早足で会場へと進む。薄暗い通路の向こう、大きな丸天井が、一同を静かに迎えてくれた。

 まるで東雲の空のような、薄明かりに満たされた天蓋は、その人工的なフォルムにもかかわらず、不思議と柔らかい空気を纏っていた。おそらくは、シアター特有の音響設備の賜物であろう。人々のざわめきや耳障りな雑音が、ふんわりと那辺へ吸い込まれてゆく。そうして残った音は、どこかおぼろかで、とても懐かしい気配がした。


 志紀は、期待に胸を高鳴らせながら、前の人のあとを追うように中央の通路を登っていった。傾斜型のドームは、上部の席ほどスクリーンが見易いからだ。

 正面、最上段の解説ブースでは、制服を着た若い男が、せわしげに機器の点検をしているようだった。あの人が解説をしてくれる学芸員さんかな、そうぼんやりと考えながら段を登る志紀を、朗がやけに慌てた声で呼びとめた。


「もうその辺りでいいんじゃないか? 一番上だと、視点が高くなり過ぎて、少し見づらいかもしれない」


 それもそうかもしれない、と思い返し、志紀は素直に足を止めた。朗が登って来るのを待って、一番中央寄りの席に腰掛ける。


「気持ちいー」


 全身を柔らかく受け止める、リクライニング式の椅子。ずっと立ちっぱなしで展示室を回っていたせいだろう、ふかふかの背もたれに身を沈めた途端、どっと疲労感が志紀の身体にのしかかってきた。

 これはマズイかも、と志紀は口を引き結んだ。いつもの全天周映像と違い、プラネタリウムには臨場感も迫力も期待できない。ほど良い空調に静かな音楽、これで灯りが消されたら、まず間違いなく夢の世界へ連れていかれてしまうだろう。


「よく眠れそうだろう?」


 まるで志紀の心を読んだかのように、朗がにやりと笑う。

 志紀はなんだか悔しくなって、「寝ませんよ」と頬を膨らませた。


 


 絶対に寝るもんか、と決意を固める志紀の前に現れた敵は、朗だけではなかった。プラネタリウム上映の最初に表示された『当館プラネタリウムの特長』の二つ目に、なんと科学館自らこんなことを書いていたのだ。


『イスがフランス製! 気持ちよく眠れます……』


 会場のあちこちから、笑い声と「寝たらアカンやん」とのツッコミが上がる。

 それ見たことか、と得意げな眼差しを投げてくる朗に、断固たる視線を返して、志紀はスクリーンに向き直った。

 こうなったら、頼みの綱は、特長の三番目。


『学芸員によるライブ解説! ……ときどきトチリます』


 どうか、そのノリツッコミで、眠気を吹き飛ばしてください。志紀は心の中で祈りを捧げた。


 


 志紀の思いが通じたのか、学芸員のお兄さんの語りはとても面白かった。おフランス製の椅子から放出されていた睡眠オーラは、見事にかき消され、昼寝をすると宣言していた朗までもが、今や解説に聞き入っている。


『では、ここで街の灯りを全て消してみましょう。場内が暗くなりますので、皆さんご注意ください。ああ、真っ暗だからって、隣の人にイタズラをしてはいけませんよ』


 スクリーンの下部を彩っていた、ビルや橋の画像が暗転する。入れ替わりに訪れる漆黒の闇に、あちこちからざわめきが湧き上がった。だが、それはほどなく感嘆の声に席を譲る。

 満天の星空が、頭上に現れたのだ。

 なんという星の数だろうか。どこまでも遠く、どこまでも深く、暗黒を背景に広がりゆく煌き。


 これが、宇宙だ。志紀は息を呑んだ。

 上も、下も、右も左も分からない空間に、志紀は独り放り出されていた。

 あの小さな光る点一つ一つが、途方もなく莫大なエネルギーを放出しているのだ。にもかかわらず、どこまでも希薄で、空虚な世界。全ての来し方であり、全ての行く末である、時間すら呑み込んだ、真の闇……

 息苦しさを感じて、志紀は身じろぎした。ここは地上で、これは紛い物の(そら)。そう自分に言い聞かせて、必死で深呼吸を繰り返す。

 その時、何か温かいものが志紀の手に触れた。

 朗の、指だった。


『……そしてこれが、午前二時ごろの夜空で……』


 周囲の音が、ゆっくりと志紀の耳元に戻ってくる。そう、志紀は帰ってこれたのだ。深宇宙から。


 ――先生……。


 志紀は、そっと朗の手を握り返した。

 実験で、板書で、次々と色んなものを生み出す魔法の手。この手とこうやって触れ合える日が来るなんて、一年前は思いもしなかった。


 ――先生、大好きです。


 口に出して言うのはあまりにも恥ずかしいので、志紀はひっそり胸のうちで呟いた。途端に両の頬が、燃えるように熱くなる。

 胸の高鳴りを気取られたくなくて、志紀は繋いだ手を静かにほどいた。

 ほどこうとした。

 だが、志紀の動作よりも早く、朗が、今度は彼女の手首を捕らえた。


 ――せ、先生?


 慌てて手を引こうとするも、朗の手はまるで万力のごとく、志紀を捕まえて放さない。掴まれたところから伝わる熱が、じわじわと彼女を侵食し始める……。

 とにかく手を振りほどかなければ。我に返った志紀の手を、朗のもう一方の手が、そっと包み込んだ。そして、壊れ物を触るように、優しく彼女の手のひらを撫で始めた。

 予想もしなかった柔い刺激に、志紀は知らず身を震わせた。

 熱の籠もった逞しい指が、肌のきめを確かめるかのように、ゆっくりと、じっくりと、手のひらを這い回る。指の付け根を探り、そのまま指先へと滑り、愛しそうに指の腹を撫でて、今度は僅かに爪を立てて、また手のひらへと戻る。


 志紀は歯を食いしばった。

 くすぐったいような、気持ちいいような、えも言われぬ感触に身体を揺さぶられ、志紀はもうプラネタリウムどころではない。ただ目をつむり、手を振り払うこともできずに、背中を這い上がる甘やかな刺激をこらえるばかりだ。

 朗の手は、執拗に志紀の手をまさぐり続ける。

 指と指を絡ませ、そっと握り、また緩め、揉みほぐすように擦り、また絡め……。


 ――先生、一体、どういうつもりなの……!?


 志紀が、耐えきれず声を上げそうになった、その時、辺りが急に明るくなった。


『本日は、当プラネタリウムにご来場いただき、ありがとうございました。お帰りの際は……』


 すっかり上がってしまった呼吸を持て余しながら、志紀は呆然と周囲を見回した。

 人々が次々に立ち上がって、出口へと向かっていく。プログラムが終了したのだ。


「さて、行こうか、志紀」


 涼しげな声に驚いて顔を上げれば、朗が何事も無かったかのような表情で志紀を見下ろしていた。

 志紀は、しばしまばたきを繰り返した。


「完全入れ替え制だからな、あまりもたもたしているわけにはいかないだろう?」

「……あ、はい。そう……ですね」


 まだ暴れ続ける心臓を、なんとか深呼吸で誤魔化しつつ、志紀はふらりと立ち上がった。ゆっくりと背を向ける朗のあとを追って、ドームを出る。

 来た時と同じ薄暗い廊下を進みながら、志紀は少し非難めいた口調で朗に突っかかった。


「先生、一体どういうつもりなんですか」

「何って、君のお手伝いをだね」


 すまし顔でわけの分からないことを言ってのける朗に、志紀の両眉が跳ね上がる。


「お手伝いぃ?」

「絶対に寝ない、って頑張っていたから、寝ないですむように手伝ってあげたんだよ」


 ぽかんと口を開け、思わず立ち止まる志紀を、朗が満足そうにねめまわす。

 が、次の瞬間、彼の眉が思いっきりひそめられた。


「ああ、やっぱり多賀根やん。久しぶりー」


 どこかで聞いたことのある声に志紀が振り向くと、科学館の制服を着た男が、朗らかな笑みとともに駆け寄ってくるところだった。

 胸元のネームプレートには、『学芸員・瀧和明』と書いてある。先ほどのプラネタリウムの解説員だ。


「もしや、って思うて見てたんやけど、やっぱり多賀根やったなー。何、お前、デート? えらいカワイイ彼女さんやん」


 先刻の、流れるようなナレーションとは大違いの訛りっぷりに、志紀はひたすら目をしばたたかせた。


「お前、俺の顔見て、席上がるの止めたやろ。むっちゃ感じ悪ぅって、思っとったんやでー」


 言葉の内容とは裏腹に、瀧学芸員はカラカラと楽しそうに笑う。

 おお、と志紀は心の中で合点した。上の席を目指して段を登る志紀を、朗が呼び止めたあの時、確かに彼は何か酷く慌てていた様子だった。

 一体この人は、先生とどういう関係なんだろう、志紀がそう二人を見比べていると、朗が渋々といった調子で口を開いた。


「彼は、(たき)和明。高校の時の友人だ」


 続けて志紀のことも紹介するのかと思いきや、なんと朗はさっさと口をつぐんでしまった。あからさまに怪訝そうな顔を作る瀧に、志紀は慌てて頭を下げる。


「は、初めまして。有馬志紀といいます」

「こちらこそ初めまして。瀧と申します」


 と、解説員モードで挨拶を返してから、瀧はにっこりと相好を崩して朗をみやった。


「どこぞのひねくれもんには勿体ない、ええ子やん。でも、まだ学生さんなんちゃうん? って、まさか多賀根の教え子やったりしてなー」


 あまりの直球ぶりに、志紀は息を呑むことしかできなかった。


「え? まさか、マジで教え子なん?」


 ふう、と、これ見よがしな溜め息ののち、朗は憮然とした表情で頷いた。

 目と口をまん丸に開いて、瀧がしばし絶句する。


「……うーわ、ちょっとこれ、凄いニュースやん。えー? 池辺とか沢渡とか知ってんのー?」

「まだ言ってない」

「なぁ、いつ言うん? てか、俺言ってもいい? むっちゃ言いたいんやけど」

「黙っとけ」


 もしかして、と志紀は思った。今日、朗が妙にそわそわしていたのは、この瀧学芸員に出くわすのが嫌だったからなのかもしれない、と。


「まさかお前、在学中に手ぇ出したりしてへんやろなー? って、こんな質問したところで、立場上、『出してない』ってしか言われへんもんなあ。無駄なこと訊いたわー」


 見事な独りボケツッコミを披露した瀧が、今度は志紀のほうに向き直った。


「こいつ、愛想悪いし、ドSやけど、肝心なところヘタレでなあ。あんじょうしたってなー」

「ヘタレがヘタレとか言うな」

「じゃあ、ドSは否定せぇへんのや?」


 漫才か何かを観ている心地で、志紀は黙って二人を見守り続ける。


「しっかし、科学館でデート? 相変わらず、って感じやなあ」


 聞き捨てならない単語に、志紀の目元に力が入った。

 それに気づいたのか、瀧がにこにこと両手を振る。


「ああ、デートについては俺は知らへんよ。デートは。ソコはあとでこいつを問い詰めたって」


 諦め顔で肩を落とす朗を、楽しげに肘で小突いてから、瀧は志紀に片目をつむってみせた。


「いやあ、俺ら、高校時分にしょっちゅうココに遊びに来てたから。小学生に混ざりながら、恥ずかしげもなく、手回し発電機で高得点狙ったりしててんで。こいつ、今はこんな涼しげな顔ですましてるけど、ルームランナーの発電で激走して、拍手喝采のチビッコ達に向けて、ガッツポーズ決め……」

「瀧!」


 


 


 今度は飲もなー、と去っていく瀧を見送ってから、志紀と朗は同時に息をついた。


「……ガッツポーズ、決めたんですか」

「子供相手だからこそ、真剣に向き合う必要がある」

「私を子供扱いしておいて、結局先生だって似たようなものだったんじゃないですか」


 その時、すとん、と最後のひとかけが志紀の腑に落ちた。


 


 プラネタリウムにて、何の前触れもなく、突然手を握ってきた朗。


『……真っ暗だからって、隣の人にイタズラをしてはいけませんよ……』


 


「本っ当に、先生達ってば、子供みたいですね……」

「何だ、その溜め息は」

「何でもありませんー。さ、次の全天周映像まで、展示室に戻りましょ。噂のハイパー発電技、見せてくださいね」


 こぼれる笑みを抑えきれなくて、志紀は先導するふりをして朗に背を向けた。

 

 

 

    〈 了 〉


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