第七章 過ぎゆく時
「おかけになった電話番号は・・・。」
聞き飽きたその言葉が聞こえた数秒後、携帯の電池が遂に切れた。
徹は机にそれを置き、立ち上がった。
軽く伸びをしてドアを開け外に出る。
もう夜だ。
徹は回想した。
絵里と歩いたあの道を。
クラブの帰りに寄るコンビニも、
絵里の悩みを聞いたあの公園も、
二人で宿題の答え合わせをしたあの教室も、
もうそこへは戻れないような気になった。
「絵里。」
そっと、口に出して言った。
口から漏れた息は白く、しばらく宙を漂い、
そして、消えた。
もう彼女をもう呼ぶことはできない気がした。
徹は寒さを思い出した。
一体、何分ここに立っていただろうか。
気がつけば一時間を軽く過ぎていた。
時はゆっくり流れるようで、とてつもない速度で流れる。
その流れは止めることは出来ず、逆らうことも出来ないだろう。
知らず知らず年を取り、知らず知らず子供から大人へ
そして、気がつくと体は動かなくなっているのだろうか。
その、それの大切さは、いつも失ってから初めて気がつく。
そして、喪失感と焦燥感だけが残る。
再び寒気を思い出す。
部屋の中へ入った。
ここは何もかも充実しているようで結局何もない。
絵里は俺の全てだ。
絵里が居ないこの部屋など皆無に等しいだろう。
ああ、もどかしく日が上り、そして沈んでいくだけの毎日。
意味をなさないただ、たんたんと過ぎていく毎日。
こういうのを無駄遣いというのだろう。
もう戻ってこないかけがえのない時間。
絵里の顔ってどうだっけ。
頭の隅で、絵里の顔がぼやけて焦って絵里の写真を探す。
「そうだ携帯の中に・・・」
だが携帯は肝心の電池が切れて横たわっていた。
こうして記憶は日々削られていく。
こんなに好きなのに。
いつかは、全て削り取られ、なにもなくなっていくのだろうか。
早く逢わなければ。
絵里。