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奴の名前は…

作者: amo

次に書く小説の練習用に書いたものです。

かなりお粗末な文章ですが、一人称視点は初めてなので、どうかお勘弁ください。

 俺の名前は東郷仁。勉強は並みだが、運動は少しばかり得意な、どこにでもいるごく普通の高校生だ。そんな普通の俺には、少し変わった幼馴染みがいる。西岡愛だ。奴は隙あらば俺にかまってもらおうと、いろいろスキンシップを図ってくる。しかも、俺がどんなに嫌がっても、奴には関係ないと来たものだ。

 噂をすれば何とやらで、隣のクラスのホームルームが終わったのか、荷物を片づけている俺に向かって、その小さい体で必死に飛び跳ねて、最高に眩しい笑顔で飛びついてくる。奴は幸せそうに頬を擦り寄せてくるが、ここは俺の教室なのだ。勿論ホームルームが終わって時間も浅い教室には、まだ多くのクラスメートが残っている。また今日もだ、という言葉とともに、クラスメートから浴びせられる生温かい視線は堪ったものではない。勿論俺はそれを振り払おうとするのだが、奴は子供が嫌々するように首を振り、意地になってしがみ付いてくる。奴には周りから浴びせられている言葉や視線など、意識の外にあるのだろう。

 そんな事だから、無駄だと分かった俺の抵抗が止むと、奴はこんな事を言い出すのだ。


「ねえ、仁君。どうしてそんなに難しい顔をしてるの?そんな顔してたら、皺が増えちゃうよ?」

「そうか。お前が降りてくれれば皺がつかなくなる。だから、さっさと降りろ。」


 口ではそう言うものの、どうせ奴が降りる訳が無いのは分かっている。形だけでも抵抗しているのは、周りのクラスメートがいらぬ誤解を生まない様にするためだ。だが、周りから掛けられる言葉は、その作戦が上手くいっていない事を示すものばかりだった。


「じーんー!とっとと素直になって、付き合っちまえよー!」

「そうだぞ!そんなに可愛い女の子に抱きつかれて羨ましいぞー!」

「いいよな、お前は。そんなかわいい女の子と一つ屋根の下だろ?俺だったら間違いの一つや二つくらい…」

「何言ってるのよ。朴念仁の仁が、そんな事する訳ないじゃない。」


 周りの生徒がにやにや笑いながら、好き勝手に囃し立てている。もうこの学校での名物にもなっている俺達のこの絡みは、完全に見せ物になってしまっている。ある事情で奴の家に居候させてもらっているのだが、それも噂話に拍車をかける材料となっている。止めるべき立場の教師までそれに加わっているのだから、もうどうしようもないだろう。っていうか、いいのかこれで?俺の学校よ。


「えへへ。可愛いって言われちゃった!仁君、私可愛いって。」

「はいはい、よかったな。」


 俺の耳元で嬉しそうに笑っている奴に軽く頷いて返してやると、それに満足したように抱きつく力を込め直してくる。気分も、支えなければならない重量も重くなった俺は、よろよろと足を引き摺り、周りから浴びせられる野次を浴びながら校門を後にした。







 学校から歩いて五分ほどの場所にある奴の家に着き、俺は預けてもらっているスペアキーで家の中へと入る。


「ただいまー!」

「今帰りました。」

「あら、お帰りなさい。」


 奴の威勢のいい声と、俺の気だるそうな声に合わせて、よく通る澄んだ声が返ってくる。声の主は、奴の母親の美雪さんだ。どう遺伝子を弄ったら、奴が生まれるのかというくらいお淑やかな女性である美雪さんは、俺の家主でもある。

 俺の両親が海外出張しているせいで、小さい時から家族ぐるみで仲良くしている西岡家に世話になっているのだ。奴の父親は単身赴任で家におらず、今は三人で暮らしている。


「今日も仲良く二人で下校?本当に仲がいいわね。」


 リビングでテレビを見ていたらしい美雪さんが、俺達の姿を見るなり穏やかに微笑みかけてくる。俺は学校から帰っても、この生温かい視線からは逃げる事が出来ないらしい。


「えへへ。仲がいいだって。嬉しいね。」

「はいはい。それは良かったな。」

「うふふ。仁くんったら照れちゃって。」


 これもいつも通りのやり取り。美雪さんと奴の唯一の共通点は、俺の皮肉が全く通じない事だ。俺がどんな皮肉を言っても、二人は言葉の意味をそのままに受け取ってしまう。おかげで、今では美雪さんの中では、俺と奴との関係が恋人同士になっているらしい。奴もなかなか異次元な考え方をするが、美雪さんもそれに負けてはいない。

 これ以上ここにいて会話をしても、また勘違いを深めてしまうだけだと、俺は二階の自室に着替えに行く。


「あっ!?待ってよぉ!」


 奴が俺の後についてくるのを横目で見ながら階段を上り、着替えの為に部屋の前で一旦別れる。一旦というのは、すぐに私服に着替えた奴が、俺の部屋に押し掛けてくるからだ。どうせ何も無いのに、どうして俺の部屋に来るのか理解に苦しむ。口数の少ない俺と一緒にいても、楽しくないだろうに。

 そんな事を考えながら着替えていると、日課になったノックが部屋に響く。


「仁君、入っていい?」

「今着替えてるから、少し待…」

「入るよー。」


 了承も得ずに入ってくる奴を見て、何で質問したんだ、と疑問に思う。俺の言葉を意に介さずに、にこやかな顔で部屋に入って来た奴は、いつも通りベッドに腰掛け、床に着かない足をぶらぶらさせている。どうせ何を言っても聞かないに決まっているから、仕方なくそのまま上着を着て、脱いだ制服をクローゼットにかけておく。


「ん~っ、いい匂い!今日は肉じゃがかな?」

「昨日そう言っていただろ?もう忘れてるのかよ…」


 こんな言葉のやり取りのどこがおもしろいのか、いつもにやけている顔を更に破顔させて、奴はけらけら笑っている。

 どうせやる事も無いのだし、明日の予習でもするとしよう。そう思って、筆記用具を取り出そうとすると、浴びせかけられる強烈な視線。その視線のもとにいるのは、当然奴だ。


「……なんだよ?」

「勉強するの!?仁君だけ頭がよくなるなんてずるいよ!」


 どうも俺が勉強するのが気に入らなかったらしい。奴の唇がアヒルのようだ。いつもテストが迫る度に俺に泣きつき、仕方なく教えてやっているが、いつもより厳しいだの何だの言って、真面目に話も聞かず、どう教えてやっても赤点ぎりぎりを取っているのは俺のせいではない筈だ。

 だが、この家でお世話になっているのも事実なのだから、ここで断るのも宜しくないだろう。


「じゃあ、教えてやるから勉強道具持ってこいよ。」

「ちーがーうーのー!そう言う事を言ってるんじゃないの!」


 今日だけで何度も思ったが、俺に奴の言葉が理解できる日は来るんだろうか。同じ日本語を話している筈なのに、全く話が噛み合っていない。例えるなら、キャッチボールで球を投げているのに、それを無視して他の球を投げられている気分だ。これなら、まだ外国人とボディランゲージで会話する方が通じる気がする。


「だったら、どうすればいいんだよ?」

「これだから、仁君は駄目なんだよ。空気読めない様じゃまだまだだね。」


 普段はあまり感情を表に出す事がない俺だが、それでも人間だ。言った人間が奴で無くとも、こんな言い方をされれば少し頭にくる。もう構ってやるのも面倒くさくなり、視線を落として机に教科書を広げる。

 するとどうだろうか、急に会話を打ち切った俺を見て、奴が顔を伺う様に覗き見てくる。


「………………仁君、怒ってる?」

「……お前は空気が読めるんじゃないのか?」


 少し仕返しのつもりで言った俺の言葉に、まるで世界の終りとでも言わんばかりの顔をしている奴を見て、思わず噴き出してしまった。こんな些細な言葉遊びに振り回されている奴がおかしくて、口元を抑えてうずくまっていると、からかわれたと気付いた奴が、痛くもない拳でぽかぽかと背中を叩いてくる。


「もう!仁君、騙したね!」

「はははは、悪い悪い。あんな情けない顔、初めて見たぞ。」


 必死で俺の背中を叩いている奴の顔は真っ赤で、よっぽど恥ずかしかった事が分かり、また吹き出してしまう。俺が笑うのを止めない事に頬を膨らませて、奴はベッドの上に寝転がって足をばたばたし始める。


「むーーーー!仁君が意地悪だ!」


 締め切られている部屋の中でそんな事をすれば、埃が充満するのは逃れられない。一気に埃っぽくなった空気を換気する為に窓を開けていると、不意に先程までの騒がしい音が消える。


「…………仁君は私の事嫌い?」


 今日以外にも何回されたかも分からない質問に、思わず口から息が漏れる。奴はまだ枕に顔を埋めて表情が見えないが、きっとさっきと負けず劣らずな顔をしているに違いない。またあの言葉を言うのが妙に気恥かしく、窓の外から見える夕陽をひたすらに見る。


「俺は嫌いな奴を部屋に入れるほどお人好しじゃない。」


 自分で自分が素直じゃないと分かってはいたが、これは言ったのはどうかと思う。

 だが、これで奴の機嫌は直ったようだ。その証拠に、俺が言い終えるか終わらないかぐらいのタイミングで、また無防備な俺の背中に飛びついて来る。窓から落ちたらどうするんだ、と言おうと振り返ると、そこには夕陽にも負けないくらい晴れ晴れとした奴の笑顔があった。泣きそうな顔を浮かべていたのが嘘のようで、さっきまでとはまるで別人だ。ここまで表情をころころ変えさせる人間は、そうそういないと思う。


「じゃあじゃあ、仁君は私の事が好き?」

「………………どうだろうな?」


 やはり、もう少し灸を据えておいた方がよかったのかもしれない。奴が、泣きそうな顔をしたかと思えば、次の瞬間には笑みを浮かべて俺に抱きついてくるような人間だという事を失念していた。狙ったのかそうではないのかは知らないが、俺が抵抗できないように両手ごと抱きついているので、何かしたくてもされるがままだ。まあ、奴にはそんな事を考える頭なんて無いから、おそらく偶然だろうが、それでも始末に悪いのに変わりは無い。

 そんな俺の心境も知らずに、奴は相変わらず嬉しそうに、頬ずりまでしてくる。


「えへへー。仁君、大好きー!」

「………そうかい。」


 いつも聞かされているこの言葉。これに答えれば、奴はどんな顔をするだろうか。気にはなるが、なぜか素直に返す事が出来ない。こんな状況でも素直になれないのは、もう性分なんだと諦めよう。

 結局、背中に抱きついている奴から解放されたのは、美雪さんから夕食の呼び出しを貰った時だった。

 今のような俺と奴の関係は、きっといつか終わりを告げるのだろう。それは、俺が素直になるのが早いか、奴が俺の気持ちに気付くのが早いのかは分からない。だが、その時の奴の、愛の顔は、生涯ずっと忘れないような気がした。

いつもヒロインがつんけんしていたので、今回はデレデレにしてみました。

自分で書いてて恥ずかしくなるような、青臭い内容でした(笑)

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