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さよならの陽炎を、追いかけて  作者: 七瀬 澪
第四章 「さよならの陽炎」

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46.またねの季節

3月。


中学校の廊下は、いつもより少しだけ騒がしかった。


卒業式まで、あと三日。


「ねえ、ボタンどうする?」


結衣が、お昼休みに聞いてきた。


「ボタン?」


「第二ボタンだよ。好きな人に渡す、あれ」


奏が、少しだけ困った顔をする。


「結衣ちゃんは、誰かに渡すの?」


「私? 渡す相手、いないよ」


結衣が、笑いながら言う。


「でも、もらえたらいいなとは思う」


「誰に?」


「秘密」


結衣が、いたずらっぽく笑った。


でも、その視線が一瞬だけ、僕の方に向いた気がした。


気のせいかもしれない。


「廻くんのボタンは、奏ちゃんが貰うんでしょ?」


「……そうなの?」


奏が、照れたように僕を見る。


「欲しい?」


「……うん」


奏の頬が、赤くなった。


「じゃあ、渡すよ」


「本当?」


「うん。約束する」


結衣が、二人を見て微笑んだ。


その笑顔に、少しだけ切なさが混じっていた。



卒業式の朝。


僕は、いつもより早く目が覚めた。


窓の外を見ると、快晴だった。


青い空に、白い雲。


春の光が、部屋を照らしている。


(今日で、中学生が終わる)


そう思うと、不思議な気持ちになった。


リビングに行くと、奏がすでに制服を着ていた。


「おはよう、廻くん」


「おはよう」


奏の目が、少し潤んでいた。


「泣いてるの?」


「泣いてない」


「泣いてるよ」


「……少しだけ」


奏が、目元を拭う。


「なんか、終わっちゃうんだなって思ったら」


「大丈夫だよ。高校も一緒だから」


「うん。でも、結衣ちゃんとは……」


奏の声が、かすれた。


「結衣ちゃんとは、違う学校だから」


「会えなくなるわけじゃないよ」


「……うん。わかってる」


母さんが、朝食を運んできた。


「二人とも、今日で中学卒業ね。おめでとう」


「ありがとう」


「感慨深いわ。あの夏に出会った二人が、もう高校生になるなんて」


母さんが、目を潤ませる。


「泣かないでよ、母さん」


「泣いてないわよ」


でも、明らかに泣いていた。



卒業式は、体育館で行われた。


クラスごとに並んで、入場する。


先生が卒業証書を読み上げるたびに、名前が呼ばれる。


「相沢廻」


「はい」


僕は、壇上に上がった。


校長先生から、卒業証書を受け取る。


「空乃奏」


「はい」


奏が、凛とした表情で壇上に上がる。


銀色の髪が、体育館の光を浴びて輝いている。


美しかった。


式が終わり、教室に戻った。


担任の先生が、最後のホームルームを始めた。


「みんな、三年間よく頑張りました」


先生の声が、少し震えている。


「それぞれの道で、精一杯輝いてください」


クラスのあちこちで、すすり泣く声が聞こえた。


奏も、静かに涙を流していた。


僕は、奏の手を握った。


その手が、少し震えていた。



式が終わった後、僕たちは校庭に出た。


桜が、満開に咲いている。


花びらが、風に舞っている。


「結衣ちゃん、どこ?」


奏が、周りを見渡す。


「あ、いた」


僕が指差すと、結衣がB組の友達と写真を撮っていた。


「結衣ちゃん!」


奏が、手を振る。


結衣が気づいて、こちらに走ってきた。


「二人とも、卒業おめでとう!」


「結衣ちゃんも、おめでとう」


三人で、抱き合った。


「写真、撮ろう」


奏が、スマホを取り出す。


「三人で」


三人が並ぶ。


桜を背景に、制服姿で。


パシャッ。


「いい写真だね」


「うん。大切にする」


結衣が、写真を見ながら言った。


その目に、涙が浮かんでいた。


「結衣ちゃん、泣いてるの?」


「泣いてないよ」


「泣いてるじゃん」


「……ちょっとだけ」


結衣が、涙を拭う。


「なんか、終わっちゃうんだなって思ったら」


「私も同じこと思った」


奏が、優しく笑う。


「でも、終わりじゃないよ」


「うん。わかってる」


結衣が、深呼吸をした。


「私ね、美術科に行って、本当によかったって思う」


「うん」


「自分の夢に向かって歩けてる。それが、すごく幸せ」


結衣の目が、輝いている。


「でも、やっぱり二人と離れるのは寂しい」


「私たちも、寂しいよ」


奏が、結衣の手を握った。


「でも、結衣ちゃんは私たちの大切な友達だから。それは変わらない」


「うん……うん」


結衣が、泣きながら笑う。


「ありがとう。二人とも、ありがとう」


三人で、また抱き合った。


桜の花びらが、三人の肩に降り積もっていく。



その後、僕と結衣は二人で少し話した。


奏が、クラスの友達に呼ばれてその場を離れた隙だった。


「廻くん」


「うん?」


結衣が、僕の方を向いた。


「あのね」


「うん」


「私、廻くんのこと、ずっと好きだったよ」


その言葉に、胸が締め付けられた。


「知ってる。小学生の時に、ちゃんと言ってくれたから」


「うん。そうだね」


結衣が、笑顔になる。


「でも、もう一回だけ言いたかったの。最後に」


「……結衣ちゃん」


「大丈夫。未練じゃないから」


結衣が、空を見上げた。


桜の花びらが、風に舞っている。


「ただ、廻くんのおかげで、私は強くなれた気がする」


「僕が?」


「うん。廻くんに振られて、悔しくて、悲しくて。でも、それがあったから、自分の夢を見つけられた

気がするの」


結衣が、僕を見た。


その目は、もう涙を浮かべていなかった。


真っ直ぐで、力強い目だった。


「だから、ありがとう」


「……こっちこそ、ありがとう」


「奏ちゃんを、幸せにしてあげてね」


「うん。絶対に」


「約束ね」


二人で笑い合った。


そこへ、奏が戻ってきた。


「何してるの?」


「内緒話」


結衣が、いたずらっぽく笑う。


「廻くんのボタン、ちゃんと奏ちゃんに渡してあげてね」


「あ、そうだ」


僕は、制服の第二ボタンを外した。


奏に、差し出す。


「はい」


「……ありがとう」


奏が、ボタンをそっと受け取った。


両手で、大切そうに握りしめる。


「大事にする」


「うん」


結衣が、二人を見て微笑んだ。


「じゃあ、私も行くね。B組の子たちと写真撮る約束してるから」


「じゃあ、またね」


「うん。またね」


結衣が、手を振りながら駆けていく。


その背中が、とても清々しかった。


「結衣ちゃん、頑張れ」


奏が、小さく呟いた。


「うん」


僕も頷いた。


桜の花びらが、風に舞っている。


春の光が、校庭を照らしていた。


三人の中学生活が、今日で終わった。


そして、それぞれの新しい春が、始まろうとしていた。


挿絵(By みてみん)

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