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さよならの陽炎を、追いかけて  作者: 七瀬 澪
第四章 「さよならの陽炎」

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45.二人のサンタと、一匹のトナカイ

それからあっという間に、僕たちは中学二年生になった。


今年も、僕と奏は同じクラスだった。


結衣は、また別のクラス。


でも、お昼休みは相変わらず三人で一緒に食べていた。


「ねえ、聞いて」


ある日、結衣が嬉しそうに言った。


「美術部、県のコンテストで入賞したの」


「え、本当?」


奏が、目を輝かせた。


「すごいじゃん、結衣ちゃん!」


「えへへ。先生も褒めてくれてさ、すごく嬉しかった」


結衣が、照れたように笑う。


「どんな絵を描いたの?」


「夏の川の絵」


その言葉に、僕の胸がざわついた。


川。


なぜだろう。


その言葉を聞くと、いつも胸が騒ぐ。


「廻くん、どうしたの?」


奏が、心配そうに僕を見る。


「ううん、なんでもない」


僕は首を振った。


「結衣ちゃん、おめでとう」


「ありがとう!」


結衣が、嬉しそうに笑う。


その笑顔は、以前より自信に満ちていた。


美術部での日々が、結衣を成長させているんだと思った。



梅雨の季節。


放課後、僕と奏は傘を一本しか持っていなかった。


「相合傘だね」


奏が、少し恥ずかしそうに笑う。


「うん」


僕は、奏の肩を引き寄せた。


雨の音が、静かに響いている。


「ねえ、廻くん」


「うん?」


「最近、変な夢を見るの」


奏の声が、少し不安そうだった。


「変な夢?」


「うん。雨の中を、一人で走ってる夢」


「どこへ?」


「わからない。でも、すごく急いでる。誰かを探してる気がする」


奏が、眉をひそめる。


「目が覚めると、胸がドキドキしてて……なんか怖いの」


「それ、いつから?」


「最近。……梅雨になってから、かな」


雨が、傘を叩く音がする。


「大丈夫だよ」


僕は、奏の肩を抱いた。


「夢だから」


「……うん」


奏が、僕に寄り添う。


でも、その表情はまだ不安そうだった。


僕も、実は同じだった。


最近、眠ると夢を見る。


誰かの声が聞こえる夢。


何かが燃えるような夢。


そして、目が覚めると、なぜか泣いている。


でも、それを奏に言うことはできなかった。


心配させたくなかった。



秋。


中学二年の文化祭が終わった後、結衣が僕と奏を呼び止めた。


「ちょっといい? 二人に、話があるの」


「うん、どうぞ」


三人で、誰もいない教室に入った。


夕日が、窓から差し込んでいる。


「あのね」


結衣が、少し緊張した様子で言った。


「私、高校は美術科のある学校に行こうと思ってる」


「美術科?」


「うん。コンテストで入賞してから、本格的に絵を勉強したくなって」


結衣が、真剣な顔をしている。


「二人とは、違う高校になっちゃうけど……」


「すごいじゃない、結衣ちゃん」


奏が、目を輝かせた。


「夢ができたんだね」


「……うん。笑う?」


「笑わないよ」


僕は、首を横に振った。


「応援するよ。頑張ってね」


「廻くん……」


結衣の目に、涙が浮かんだ。


「ありがとう」


「違う学校になっても、友達だよ」


奏が、結衣の手を握った。


「それは変わらないから」


「うん……わかってる」


結衣が、涙を拭う。


「でも、言っておきたかったの。二人に背中を押してもらいたくて」


「押せた?」


「うん。すごく」


結衣が、笑顔になった。


夕日が、教室を金色に染めていた。



冬。


クリスマスが近づいてきた。


「ねえ、今年のクリスマスはどうする?」


ある日の昼休み、結衣が聞いてきた。


「去年は廻くんと奏ちゃんは二人でデートだったじゃん」


「……そうだったね」


奏が、少し申し訳なさそうに言う。


「今年は、三人で過ごさない?」


「三人で?」


「うん。どうせなら、パーティしようよ。うちで」


結衣が、目を輝かせた。


「いいね!」


奏が、嬉しそうに頷く。


「廻くんも、いい?」


「もちろん」


こうして、結衣の家でクリスマスパーティをすることになった。



クリスマスイブ。


僕と奏は、結衣の家に向かった。


「これ、プレゼント」


奏が、リボンのついた袋を抱えている。


「わたしも」


僕も、プレゼントを持っている。


インターホンを押すと、すぐにドアが開いた。


「いらっしゃい!」


結衣が、満面の笑みで出迎えてくれた。


でも、その格好を見た瞬間、僕と奏は固まった。


「……結衣ちゃん、それ」


「サンタさん!」


結衣が、得意げにポーズを取る。


赤いサンタクロースの衣装。


白いふわふわの縁取り。


帽子まで被って、完全にサンタさんだった。


「似合う?」


「す、すごく似合ってる」


奏が、笑いをこらえながら答える。


「でしょ! 二人の分もあるよ」


「え?」


「こっちがサンタで」


結衣が、赤い衣装を差し出す。


「こっちがトナカイ」


もう一つは、茶色のトナカイの衣装だった。


頭に、小さな角がついている。


「どっちがいい?」


僕と奏は、顔を見合わせた。


「……じゃあ、私がトナカイ」


奏が、トナカイの衣装を受け取る。


「僕がサンタか」


「廻くんはサンタさんね!」


結衣が、嬉しそうに笑う。


三人で、衣装を着替えた。


「わあ、廻くんかっこいい!」


「奏ちゃん、トナカイかわいい!」


「角が……恥ずかしい」


奏が、頭の角を気にしている。


でも、その姿が、あまりにも可愛くて。


「似合ってるよ」


僕が言うと、奏の頬が赤くなった。


「もう……」



三人で、料理を作った。


チキンを焼いて、サラダを作って、ケーキを飾る。


「結衣ちゃん、料理上手だね」


奏が、感心したように言う。


「えへへ。お母さんに教えてもらったの」


結衣が、嬉しそうに笑う。


「奏ちゃんは?」


「私は……廻くんのお母さんに教えてもらってる」


「いいなあ。廻くんのお母さん、優しいよね」



「うん。すごく」


三人で、テーブルを囲んだ。


「じゃあ、乾杯!」


結衣が、ジュースのグラスを持ち上げる。


「メリークリスマス!」


「メリークリスマス!」


グラスを合わせる音が、部屋に響く。


チキンを食べて、サラダを食べて、おしゃべりをした。


学校のこと、将来のこと、くだらない話。



笑い声が、絶えなかった。


ケーキを食べた後、プレゼント交換をした。


結衣には、奏がスケッチブックと絵の具のセットを贈った。


「わあ! すごく嬉しい!」


結衣が、目を輝かせる。


「美術科に進むから、使ってね」


「うん! 大事にする!」


僕は、結衣に可愛い手帳を贈った。


「日記でも書いてね」


「書く書く! ありがとう、廻くん」


結衣から僕へのプレゼントは、手作りのマフラーだった。


「編み物、始めたんだ」


「すごい。ありがとう、結衣ちゃん」


「奏ちゃんには、お揃いのやつ」


奏にも、同じデザインのマフラーが渡された。


「ありがとう……結衣ちゃん」



奏の目が、潤んでいた。


「二人でお揃いで使ってね」



結衣が、笑顔で言う。


その笑顔の奥に、少しだけ切なさが混じっていた。


でも、それよりも、温かさの方が大きかった。



夜、帰り際。


玄関で、三人で並んだ。


「楽しかったね」


「うん。すごく」


奏が、幸せそうに微笑む。


「来年も、やろうね」


「もちろん!」


結衣が、明るく言った。


「でも、来年は高校生だから……どうなるかな」


「それでも、クリスマスは三人で」


「うん。約束ね」


三人で、小指を絡ませた。


「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」


「指切った」


外は、雪が降り始めていた。


白い雪が、夜の闇に舞っている。


「綺麗だね」


奏が、空を見上げる。


銀色の髪に、白い雪が降り積もる。


まるで、絵の中の世界みたいだった。


「写真、撮ろう」


結衣が、スマホを取り出した。


「三人で」


サンタが二人と、トナカイが一人。


三人が並んで、カメラに向かって笑う。


パシャッ。


「いい写真だね」


「送って」


「うん、後で送る」


僕たちは、並んで雪を眺めた。


静かな冬の夜。


遠くで、教会の鐘が鳴っている。


(この時間が、ずっと続けばいいのに)


そう思った。


でも、時間は止まらない。


来年は高校生になる。


結衣は、違う学校へ行く。


三人で過ごせる時間は、少なくなっていく。


でも、この絆は変わらない。


そう信じていた。


「じゃあ、メリークリスマス」


「メリークリスマス」


「また明日ね」


結衣が、手を振る。


僕と奏も、手を振り返した。


雪の中を、二人で歩く。


奏が、結衣からもらったマフラーを巻いている。


僕も、同じマフラーを首に巻いた。


「あったかいね」


「うん。結衣ちゃんの気持ちが、入ってるから」


奏が、柔らかく微笑む。


「……うん」


僕も頷いた。


雪が、静かに降り続けている。


白い世界の中を、二人で歩いた。


お揃いのマフラーをして、手を繋いで。


この温もりを、ずっと忘れないでいよう。


そう思った冬の夜だった。


挿絵(By みてみん)

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