44. 巡る季節
春。
僕たちは中学生になった。
三人とも、同じ中学校だ。
クラスは違った。
僕と奏は1年A組。
結衣は1年B組。
「クラス、離れちゃったね」
入学式の後、結衣が少し寂しそうに言った。
「でも、お昼は一緒に食べようね」
奏が、優しく微笑む。
「うん!」
結衣が、明るく頷いた。
あの告白から一年以上が経っていた。
結衣は、もう涙を見せることはなくなった。
いつもの明るい結衣に戻っていた。
でも、時々、僕と奏が手を繋いでいるのを見ると、少しだけ寂しそうな顔をする。
それでも、すぐに笑顔になって、話しかけてくる。
結衣は、本当に強い子だと思った。
◆
中学一年の夏。
僕と奏は、正式に付き合い始めた。
きっかけは、夏祭りだった。
「ねえ、廻くん」
浴衣を着た奏が、恥ずかしそうに言った。
「私たち、付き合ってるって言っていいのかな」
「え?」
「だって、いつも一緒にいるし、手も繋ぐし……でも、ちゃんと告白してないよね」
奏の頬が、赤く染まっている。
「……じゃあ、改めて」
僕は、奏の手を握った。
「奏、付き合ってください」
「……うん」
奏が、嬉しそうに微笑んだ。
「はい、喜んで」
それから、僕たちは正式に恋人になった。
学校でも、みんなが知っている。
「相沢と空乃、付き合ってるんだって」
「知ってる。小学校の時からずっと一緒だよね」
「お似合いだよね」
そんな噂が、廊下で聞こえてくる。
恥ずかしかったけれど、嬉しかった。
◆
ある日の昼休み、僕と奏は中庭で弁当を食べていた。
結衣が、遅れてやってきた。
「ごめん、遅くなった」
「大丈夫だよ。結衣ちゃん、こっちおいで」
奏が、隣の席を指差す。
「うん」
結衣が座る。
三人で、お弁当を広げた。
「ねえねえ、二人に報告があるの」
結衣が、嬉しそうに言った。
「何?」
「私ね、美術部に入ったんだ」
「美術部?」
「うん。絵を描くのが好きだから」
結衣が、目を輝かせる。
「先輩たちも優しいし、すごく楽しいの」
「よかったね」
奏が、優しく微笑む。
「結衣ちゃん、絵上手だもんね」
「えへへ」
結衣が、照れたように笑う。
「二人は、部活入らないの?」
「私は帰宅部かな」
奏が答える。
「廻くんと一緒に帰りたいから」
「僕も帰宅部」
僕も頷いた。
結衣が、少しだけ寂しそうな顔をした。
でも、すぐに笑顔に戻った。
「そっか。じゃあ、私だけ部活だね」
「うん。でも、お昼は一緒に食べようね」
「もちろん!」
結衣が、明るく答える。
でも、その笑顔の奥に、少しだけ距離を置こうとしている気配を感じた。
無理に三人でいなくてもいい。
そう思い始めているのかもしれない。
◆
秋になった。
文化祭の準備で、学校が賑やかになっていた。
僕たちのクラスは、お化け屋敷をやることになった。
「廻、お前は受付な」
クラス委員の男子が、僕に指示を出す。
「奏は、お化け役で」
「え、私がお化け?」
奏が、驚いた顔をする。
「だって、空乃って雰囲気あるじゃん。銀髪だし、綺麗だし」
「うーん……」
奏が困った顔をする。
でも、結局引き受けることになった。
文化祭当日。
僕は受付で、チケットを売っていた。
結衣が、B組の友達と一緒に来た。
「廻くん、お疲れ様」
「結衣ちゃん、来てくれたんだ」
「うん。奏ちゃんのお化け、見たくて」
結衣が、笑顔で言う。
「美術部の展示も見に来てね」
「もちろん」
僕は頷いた。
「後で、奏と一緒に行くよ」
「ありがとう」
結衣が、嬉しそうに笑う。
でも、その笑顔は以前より少しだけ大人びて見えた。
結衣は、成長している。
自分の居場所を、僕たち以外にも見つけ始めている。
それが、少し寂しくもあり、でも嬉しくもあった。
◆
文化祭が終わった後、僕と奏は結衣の美術部の展示を見に行った。
「わあ、すごい」
奏が、感嘆の声を上げた。
壁には、たくさんの絵が飾られている。
風景画、人物画、抽象画。
その中に、結衣の描いた絵があった。
夕焼けの空を背景に、三人の子供が手を繋いでいる絵。
「……これ」
僕は、その絵の前で立ち止まった。
「私たちだ」
奏が、小さく呟く。
確かに、そうだった。
真ん中の少年と、その両側にいる二人の少女。
銀色の髪の少女と、茶色の髪の少女。
それは、間違いなく僕たちだった。
「結衣ちゃん……」
奏の目に、涙が浮かんでいた。
絵の下に、小さな説明文が添えられていた。
『タイトル:大切な友達』
『三人で過ごした、かけがえのない時間を描きました』
僕の胸も、熱くなった。
結衣は、僕たちのことを大切に思ってくれている。
今でも、これからも。
「……いい絵だね」
「うん」
奏が、涙を拭う。
「結衣ちゃん、ありがとうって言わなきゃ」
僕たちは、展示室を探した。
結衣は、受付のところにいた。
「結衣ちゃん」
「あ、二人とも。見てくれた?」
「うん」
奏が、結衣の手を握った。
「すごく、素敵だった」
「本当?」
「うん。大切にしてくれて、ありがとう」
「……当たり前だよ」
結衣が、少し照れたように笑う。
「だって、二人は私の大切な友達だもん」
「私たちも、結衣ちゃんは大切な友達だよ」
奏が、優しく微笑む。
三人で、笑い合った。
でも、その笑顔の中に、少しだけ切なさが混じっていた。
僕たちは、少しずつ変わっていく。
それぞれの道を歩き始めている。
でも、この絆だけは、変わらない。
そう信じたかった。
◆
冬、クリスマスの日。
僕と奏は、二人でデートをした。
イルミネーションが綺麗な公園。
光の中を、二人で歩く。
「綺麗だね」
「うん」
奏が、光に照らされて輝いている。
銀色の髪が、イルミネーションの光を反射してキラキラしている。
「ねえ、廻くん」
「うん?」
「私、幸せだよ」
奏が、僕の腕に抱きつく。
「廻くんと一緒にいられて」
「僕もだよ」
僕は、奏を抱きしめた。
冬の夜は寒い。
でも、奏の温もりが、僕を温めてくれる。
いや、違う。
奏の体は、いつも冷たい。
でも、その冷たさが、僕には心地よかった。
「ねえ、廻くん」
「うん?」
「結衣ちゃん、最近少し遠いよね」
奏が、心配そうに言う。
「そうかな」
「うん。お昼は一緒に食べるけど、放課後はすぐ部活に行っちゃうし」
「それは、美術部が楽しいからじゃない?」
「そうかもしれないけど……」
奏が、俯く。
「なんか、私たちに気を遣ってる気がする」
「……」
僕も、そう感じていた。
結衣は、少しずつ僕たちから距離を置き始めている。
それは、僕たちのためなのかもしれない。
二人の時間を大切にしてほしい。
そう思ってくれているのかもしれない。
「でも、それは悪いことじゃないよ」
僕は、奏の頭を撫でた。
「結衣ちゃんは、自分の居場所を見つけたんだ」
「……そうだね」
奏が、小さく頷く。
「結衣ちゃん、頑張ってるもんね」
「うん」
僕たちは、また歩き出した。
光の中を、手を繋いで。
結衣のことを思いながら。
◆
その夜、家に帰ると、スマホに結衣からメッセージが来ていた。
『二人とも、クリスマス楽しかった?』
『楽しかったよ』
僕が返信すると、すぐに返事が来た。
『よかった。私もね、美術部のみんなとクリスマス会やったの。すっごく楽しかった』
『そうなんだ。よかったね』
『うん。私、美術部に入ってよかったって思う』
『自分の好きなことができる場所があるって、幸せだね』
しばらくして、また返事が来た。
『ねえ、廻くん』
『うん?』
『私ね、二人のこと応援してる』
『ありがとう』
『だから、私のことは気にしないで』
『二人で、たくさん幸せになってね』
その言葉を読んで、胸が熱くなった。
『結衣ちゃんも、幸せになってね』
『うん。いつか、私も素敵な恋をするから』
『そのときは、僕たちに紹介してね』
『もちろん!』
スマホの画面に、笑顔のスタンプが送られてきた。
結衣は、前を向いている。
自分の幸せを、ちゃんと探している。
それが、何よりも嬉しかった。
【挿絵についてのお知らせ】
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回から、物語のイメージをよりお伝えできればと思い、挿絵を入れてみました。
キャラクターの表情やシーンの雰囲気が、少しでも伝われば嬉しいです。
また、これまでに公開した過去のエピソードにも、少しずつ遡って挿絵を追加していく予定です。
お時間のある時にでも、読み返してイラストを探していただけると幸いです。
これからも『さよならの陽炎を、追いかけて』をよろしくお願いいたします。
※作品の執筆がメインのため、イラストにはAI生成を使用しております。ご了承ください。




