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さよならの陽炎を、追いかけて  作者: 七瀬 澪
第四章 「さよならの陽炎」

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42.小さな三角形

しばらく経ち、僕たちは小学五年生になっていた。


三人とも、また同じクラスになった。


席替えのたびに、僕と奏は隣同士になることが多かった。


結衣は、少し離れた席だった。


「今回も、廻くんと奏ちゃんは隣なんだね」


結衣が、笑顔で言った。


でも、その笑顔が少しだけ、寂しそうに見えた。


「うん。また一緒だね」


奏が、嬉しそうに答える。


「結衣ちゃんは……あ、窓際だ。景色が綺麗に見えていいね」


「そうだね」


結衣が、窓の外を見る。


校庭では、体育の授業をしている下級生たちが見えた。


「でも、ちょっと遠いな」


結衣が、小さく呟いた。


その声が、誰にも聞こえないように。



小学五年生になって、変わったことがあった。


結衣が、前よりも僕を見る時間が長くなった気がする。


授業中、ふと視線を感じて振り向くと、結衣が慌てて目を逸らす。


休み時間、一緒に遊んでいると、結衣が僕の隣に座ろうとする。


でも、そこにはいつも奏がいる。


「あ、ごめん。奏ちゃんの席だった」


結衣が、笑いながら少し離れた場所に座る。


「ううん、大丈夫だよ。結衣ちゃんもこっちおいでよ」


奏が優しく誘うけれど、結衣は首を横に振る。


「いいの。ここで大丈夫」


そう言って、一人で座っている。


その背中が、何だか小さく見えた。



ある日の放課後、三人でコンビニに寄った。


「何買う?」


「おにぎりがいい」


奏が、おにぎりコーナーに向かう。


結衣も後に続いた。


「奏ちゃん、いつもツナマヨだよね」


「うん。これが一番好きなの」


奏が、迷わずツナマヨを手に取る。


「廻くんも?」


「うん。僕もツナマヨにしようかな」


僕も同じものを選ぶと、結衣が少し寂しそうな顔をした。


「二人とも、同じなんだね」


「結衣ちゃんは?」


「私は……梅にする」


結衣が、梅干しのおにぎりを手に取った。


本当は、ツナマヨがいいのかもしれない。


でも、僕と奏が同じものを選んだから、あえて違うものにしたような気がした。


会計を済ませて、公園のベンチに座る。


僕と奏は隣同士。


結衣は、少し離れた場所に座った。


「結衣ちゃん、こっちおいでよ」


奏が誘う。


「ううん、ここでいいよ。日陰だし」


結衣が笑う。


でも、その笑顔の奥に、何か隠しているものがあるような気がした。


三人で、おにぎりを食べる。


「美味しいね」


「うん」


奏と僕は、顔を見合わせて笑った。


結衣は、一人で梅干しのおにぎりを食べている。


その横顔が、少し寂しそうだった。



秋の遠足で、僕たちは山に登った。


クラス全員で、紅葉を見に行く遠足。


「綺麗だね」


奏が、赤や黄色に染まった木々を見上げる。


「うん。すごく綺麗」


僕も頷く。


結衣は、少し後ろを歩いていた。


「結衣ちゃん、一緒に歩こうよ」


奏が振り返って声をかける。


「うん、今行く」


結衣が、小走りで追いついてくる。


三人で並んで歩く。


僕は真ん中。


右に奏、左に結衣。


でも、僕の手は、自然と奏の手を握っていた。


結衣が、チラリと僕たちの繋いだ手を見る。


そして、小さくため息をついた。


「どうしたの?」


「ううん、なんでもない」


結衣が、無理に笑顔を作る。


「ちょっと疲れちゃっただけ」


「そっか。休憩する?」


「大丈夫。もう少し頑張る」


結衣が、前を向いて歩き出す。


その背中が、また小さく見えた。


山頂に着くと、素晴らしい景色が広がっていた。


「わあ!」


結衣が、歓声を上げる。


「すごい! 街が全部見える!」


「本当だ」


奏も、嬉しそうに笑う。


三人で、景色を眺めた。


風が吹いて、奏の銀色の髪が揺れる。


僕は、その髪を見つめていた。


美しい。


いつ見ても、奏は美しいと思う。


ふと、横を見ると、結衣が僕を見ていた。


視線が合う。


結衣が、慌てて目を逸らした。


「あ、あの、お弁当食べよっか」


「うん」


三人で、お弁当を広げた。


僕と奏のお弁当は、母さんが作ってくれたもの。


結衣のお弁当は、結衣のお母さんが作ったもの。


「わあ、結衣ちゃんのお弁当、可愛い」


奏が、結衣のお弁当を覗き込む。


「えへへ、お母さんが頑張ってくれたの」


結衣が、嬉しそうに笑う。


「奏ちゃんと廻くんのお弁当は、一緒なんだね」


「うん。廻くんのお母さんが、二人分作ってくれるの」


「いいなあ」


結衣が、小さく呟いた。


「毎日、一緒なんだもんね」


その声が、少し羨ましそうだった。


「結衣ちゃんも、うちに遊びに来ればいいのに」


奏が、優しく言う。


「本当?」


「うん。いつでも大歓迎だよ」


「ありがとう。でも……」


結衣が、言葉を濁す。


「二人の邪魔しちゃ悪いから」


「邪魔なんかじゃないよ」


僕が言うと、結衣は寂しそうに笑った。


「ありがとう。でも、いいの」


そう言って、お弁当に視線を落とした。



帰り道、結衣は一人で先に帰った。


「お母さんが早く帰ってきてって言ってるから」


そう言って、手を振って去っていった。


僕と奏だけが残された。


「……廻くん」


奏が、僕の袖を引いた。


「うん?」


「結衣ちゃん、寂しそうだったね」


「そうかな」


「うん。気づいてた?」


「……何が?」


奏が、少し困ったような顔をした。


「結衣ちゃん、廻くんのこと……」


そこまで言って、奏は口をつぐんだ。


「何?」


「……ううん、なんでもない」


奏が、首を横に振る。


「気のせいかもしれないから」


でも、その表情は、何かを確信しているようだった。


僕たちは、手を繋いで家路についた。


夕焼けの空が、オレンジ色に染まっている。


「ねえ、廻くん」


「うん?」


「結衣ちゃんとも、もっと遊んであげてね」


「うん。もちろん」


「私ばっかりじゃなくて」


奏が、少し寂しそうに笑った。


「結衣ちゃん、きっと寂しいと思うから」


その言葉の意味を、僕はまだ理解していなかった。


ただ、奏の優しさに、胸が温かくなった。


「わかった。明日、三人で遊ぼう」


「うん」


奏が、ホッとしたように微笑んだ。


でも、その笑顔の奥に、少しだけ不安が見えた気がした。


秋の風が、二人を包み込んでいった。

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