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さよならの陽炎を、追いかけて  作者: 七瀬 澪
第四章 「さよならの陽炎」

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37. 銀色の少女の記憶

奏視点



目が覚めたとき、私は何も覚えていなかった。


名前も、生まれた場所も、家族のことも。


ただ、川のせせらぎと、蝉の声だけが、耳に届いていた。


(……ここは、どこ?)


私は、大きな岩の上に座り込んでいた。


足元には、エメラルドグリーンの清流。


木漏れ日が、水面をキラキラと照らしている。


綺麗。


でも、怖い。


誰もいない。


私を呼ぶ声も、探しに来る人も、誰もいない。


(私、一人ぼっち……?)


胸が締め付けられる。


涙が出そうになる。


自分の手を見下ろす。


白くて、細い手。


でも、どこか違和感がある。


まるで、本物じゃないような。


張りぼてで作られた、偽物の手のような。


試しに、隣の岩を触ってみる。


ゴツゴツとした感触。


熱を帯びた表面。


ちゃんと感じる。


でも、その感覚がひどく遠い。


まるで、分厚い手袋を何枚も重ねて触っているような、隔たりがある。


(……私、ちゃんと存在してる?)


不安が、雪崩のように押し寄せてくる。


私は誰?どこから来たの?なんで、こんなに寂しいの?


膝を抱えて、川を見下ろす。


このまま誰も来なかったら、私はどうすればいいんだろう。


このまま一人で、消えてしまうんだろうか。


その時だった。


人の気配がした。


ハッとして顔を上げると、少し離れた場所に、一人の少年が立っていた。


日焼けした肌。汗で濡れた前髪。


10歳くらいの、少年。


彼は、じっと私を見つめていた。


心配そうな、けれど優しい眼差しで。


私たちの視線が、交わる。


その瞬間、胸の奥が激しく痛んだ。


(……ああ)


この人を、知ってる。


記憶はない。


名前も思い出せない。


でも、魂が叫んでいる。


この人を、ずっと探していた。


この人に、会いたかった。


少年が、ゆっくりと近づいてくる。


私は動けなかった。


ただ、彼が近づいてくるのを、息を止めて見つめていた。


「……ねえ」


彼が、優しく声をかけてくる。


その声が、不思議なくらい心地よくて。


私の凍りついた心が、少しだけ溶けた気がした。


「君、一人? 大丈夫?」


でも、同時に、胸の奥が激しく痛んだ。


この優しさを、私は受ける資格があるんだろうか。


「……誰?」


私は、震える声で聞いた。


本当は知っている。


でも、思い出せない。


その矛盾が、胸を引き裂く。


「僕……僕は、相沢廻」


少年は、少し困ったように頭をかいた。


「ここがどこかとか、何してたかとか、よくわからないんだけど……名前だけは、覚えてる」


「廻……」


その名前を口にした瞬間、胸が温かくなった。

まるで、何度も何度も呼んできた名前みたいに。

舌の上で、その音が心地よく転がる。


「君は?」


「……わからない。でも、『カナデ』って響きだけ、覚えてる」


口にした瞬間、その音が心地よく響いた。


カナデ。


そう、それが私の名前。


「カナデ、か」


彼がその名前を口にした瞬間、私の胸がさらに温かくなった。


まるで、何か大切なものを取り戻したような感覚。

彼の口から聞く、私の名前。

それが、こんなにも甘く響くなんて。


「いい名前だね」


廻くんが笑う。


その笑顔を見た瞬間、私の目から涙が溢れ出した。


「……っ」


なんで?


なんで、この人を見ると泣きたくなるの?


悲しいんじゃない。


嬉しいんじゃない。


ただ、すごく……懐かしい。


そして、申し訳ない。


(ごめんなさい)


何に対して謝っているのか、わからない。


でも、この人に対して、言葉にできないほどの罪悪感がある。


「大丈夫?」


廻くんが、私の隣に座った。


「一人で怖かったんだね。ごめん、気づかなくて」


彼の声が、優しい。


その優しさが、私の心に染み込んでくる。


そして同時に、ナイフのように突き刺さる。


(私、この人に……ひどいことをした気がする)


でも、何をしたのか思い出せない。


ただ、この優しさを受ける資格が、私にはない気がした。


「……私、どこに帰ればいいかわからない」


「僕もだよ。……じゃあ、一緒に探そう」


「一緒に?」


「うん。一人より、二人の方がいいでしょ?」


廻くんが、手を差し伸べてくれた。


その手を見た瞬間、私の胸がキュッと締め付けられた。


(ああ、この手……)


知ってる。


記憶はないのに、この手を知ってる。


何度も何度も、握ろうとして、届かなかった手。


何度も何度も、すり抜けて、触れられなかった手。


冷たくて、温かくて、私の世界の全てだった手。


「……握っても、いい?」


「もちろん」


私は、恐る恐る彼の手を握った。


触れた。


ちゃんと、触れた。


温かい。

生きている。

この世界に、確かに存在している。


(よかった……)


涙が止まらなくなった。

理由はわからない。


でも、この手を握れたことが、何よりも嬉しかった。


今まで、ずっと触れられなかった。


透明な壁に阻まれて、ただ見ているだけだった。


それが今、こうして手を繋いでいる。


奇跡だ。

こんな奇跡が、本当にあるんだ。


「泣かないで」


廻くんが、私の涙を拭おうとする。


優しい手が、私の頬に伸びてくる。


でも――

スッ。

指先が、私の頬をすり抜けた。


「……え?」


廻くんが、戸惑ったように自分の手を見つめる。

私も、自分の体を見下ろした。


(ああ、やっぱり)


不安定なんだ。


私の存在は、まだこの世界に完全には定着していない。


時々、透けて見える。

時々、触れられなくなる。


まるで、消えかけのろうそくの炎みたいに。


「気のせい、かな」


廻くんが、もう一度手を伸ばす。


今度は、ちゃんと私の頬に触れた。


温かい。


彼の体温が、私に伝わってくる。


(……もっと)


もっと触れていたい。

もっと、この温もりを感じていたい。


消えてしまう前に。


「……ありがとう」


私は、彼の手に自分の手を重ねた。


もう離さない。

この手だけは、絶対に離さない。


記憶がなくても、名前がわからなくても。


この人の隣にいれば、私は大丈夫な気がした。


「じゃあ、決まりだ」


廻くんが立ち上がり、私に手を差し出した。


「僕たちは友達だ。君が帰る場所を思い出せなくても、僕が一緒に探してあげる」


友達。


その言葉が、少し寂しかった。

でも、今はそれでいい。

まだ、それ以上を望む資格はない。


私は、恐る恐る彼の手を見た。


そして、ゆっくりと、その温かい手を握った。


指先が触れる。


冷たい私の手と、温かい彼の手。


でも、その奥に、脈打つような熱を感じる。


「よろしくね、廻くん」


私が笑った。


その瞬間、夏風がふわりと吹き抜け、私の銀髪を揺らした。


廻くんも、優しく微笑んでくれる。


(この人は、優しすぎる)


だから、怖い。


私がいなくなったとき、この人はどれだけ悲しむんだろう。


でも、今は考えないことにした。


今だけは、この手の温もりを信じることにした。


「行こう、カナデ」


「……うん」


私たちは、手を繋いだまま岩場を降りた。


彼の手は温かくて、私の手は冷たい。

でも、彼は嫌がらなかった。

ただ、ギュッと握り返してくれた。



山道を下りながら、私は廻くんの横顔を盗み見ていた。


汗を拭う仕草。


私の歩幅に合わせてくれる、優しい足取り。


すべてが、愛おしかった。


(この人を、守りたい)


なぜそう思うのか、わからない。


でも、魂が叫んでいる。


この人のために、何かをしなければならない。


この人を、幸せにしなければならない。


「……痛い」


思わず、声が漏れた。


岩場から降りて、舗装された道に出た瞬間だった。


太陽に焼かれたアスファルトの熱が、裸足の裏に突き刺さる。


「あ、ごめん! 気づかなくて」


廻くんが慌てて立ち止まる。


そして、自分が履いていたサンダルを脱ぎ始めた。


「これ、履いて」


「え? でも、廻くんが……」


「僕は平気だよ。男の子だから、足の皮が分厚いんだ」


彼はそう言って笑ったけれど、それが嘘なのはすぐに分かった。


だって、彼が裸足で踏んだアスファルトの上で、彼自身が一瞬だけ顔をしかめたから。


「……ありがとう」


私は彼のサンダルに足を通した。


ぶかぶかで、歩くたびにパタパタと音が鳴る。


その音がなんだか可笑しくて、同時に泣きたくなるほど嬉しかった。


彼が、痛いのを我慢して、また私の手を引いて歩き出す。


その手は熱い。


私の冷たい手を温めるように、強く握ってくれている。


ふと、繋いだ手元を見る。


――チカッ。


一瞬。


本当に瞬きするほどの一瞬だけ、私の手が「ノイズ」のように揺らいだ。


彼の手のひらが、私の手を通して透けて見えた。


(……っ!?)


私は息を呑んだ。


彼は気づいていない。前を向いて歩いている。


やっぱり、そうだ。


私は「不安定」なんだ。


この世界に、まだ許されていない存在なのかもしれない。


(消えちゃう……)


恐怖がこみ上げる。


このまま歩いている途中で、ふっと霧のように消えてしまったら?


彼が振り返った時、もう私が手を繋いでいなかったら?


「……廻くん」


怖くなって、思わず彼の手を両手でギュッと握りしめた。


「ん? どうしたの? もうすぐ家だよ」


彼が振り返る。


その瞳に、私が映っている。


ちゃんと、映っている。


「……ううん。なんでもない」


「変な奏ちゃん」


彼は笑って、握り返してくれた。


その力が、私を現世に繋ぎ止める鎖だ。


(離さないで)


心の中で祈る。


(もう少しだけ。……せめて、この温もりを覚えるまでは)


「ただいまー!」


廻くんがドアを開けると、そこには「家」の匂いがした。


洗剤と、古い木と、夕飯の支度の匂い。


「おかえり! あら、お友達?」


エプロンをつけた女性――お母さんが、笑顔で出迎えてくれた。


その笑顔が、とても温かくて。


私の目に、また涙が滲んだ。


(お母さん……)


記憶にはない。


でも、この「母親の温もり」を、私はずっと欲しかった気がする。


「この子、迷子みたいで……名前以外、何も思い出せないんです」


廻くんが、私のために必死に説明してくれる。


「しばらく、ここに置いてあげられませんか? 僕が面倒見ますから!」


その姿が、愛おしくて、申し訳なくて。


「まあ……それは大変だったわね」


お母さんは、私の前にしゃがみ込むと、泥だらけの頬を優しく撫でてくれた。


「怖かったでしょう。もう大丈夫よ」


「……っ」


その手が温かすぎて。


私は堪えきれずに、ポロポロと涙をこぼした。


「ありがとうございます……ありがとうございます……」


何度も頭を下げる私を、お母さんは優しく抱きしめてくれた。



お風呂をお借りして、さっぱりした服に着替える。


ぶかぶかのTシャツ。廻くんの匂いがする。


「さあ、ご飯にしましょう。今日はカレーよ」


食卓には、湯気を立てる茶色い料理。


スパイシーな、食欲をそそる香りが部屋いっぱいに広がっている。


「いただきます」


廻くんが手を合わせるのを真似して、私も手を合わせる。


スプーンですくって、口に運ぶ。


――爆発した。


舌の上で、スパイスと野菜の甘みが弾ける。


熱い。辛い。甘い。


そして、泣きたくなるほど優しい。


「……おいしい」


一雫、涙が皿に落ちた。


私、こんな味を知らなかった。


ただの栄養補給じゃない。


誰かが誰かを想って作る、愛情の味。


生きるって、こんなに鮮やかで、こんなに熱いことだったんだ。


「おかわり、あるからね」


廻くんが笑う。


お母さんが笑う。


その光景が眩しくて、私は目を細めた。


幸せすぎて、怖い。


この温かいスープが冷める頃には、全部夢だったと気付くんじゃないかって。


廻くんと、お母さんが、嬉しそうに笑ってくれる。


その笑顔を見ていたら、幸せで胸がいっぱいになった。


(ああ、これが……家族)


私には、こんな場所がなかった気がする。


温かい食卓も、笑い合える人も。


ずっと、一人だった。


ずっと、寒くて、暗い場所にいた。


でも、今は違う。

今は、ここにいる。


廻くんの隣に、座っている。


それだけで、世界が輝いて見えた。


食後、私は客間に案内された。


清潔な布団、柔らかい枕。


「おやすみ、カナデ」


「おやすみ、廻くん」


彼の名前を呼ぶ。


その響きが、不思議なくらい心地よかった。


まるで、何千回も呼んできた名前みたいに。


廻くんが、部屋を出ていく。


ドアが閉まる。


一人になった瞬間、不安が押し寄せてきた。


(消えちゃう)


なんとなく、わかる。


私の存在は、とても不安定だ。


朝になったら、もういないかもしれない。


このまま、夢のように消えてしまうかもしれない。


怖い。

怖くて、怖くて、布団に潜り込んでも震えが止まらない。


(嫌だ)


消えたくない。


廻くんと、もっと一緒にいたい。


もっと、あの笑顔を見ていたい。


でも、私の体は言うことを聞かない。


指先を見ると、うっすらと透けている。


背景の畳の目が、指を通して見える。


(やっぱり……)


涙が溢れる。


私は、ちゃんとここにいられるんだろうか。


明日も、廻くんに会えるんだろうか。


不安で押し潰されそうになって、私は布団を抜け出した。


縁側に出る。


外は、月明かりに照らされていた。


満月だった。


その光が、冷たくて、優しくて。


私を溶かそうとしているみたいで、怖かった。


「眠れない?」


背後から、声がした。


振り返ると、廻くんがそこにいた。


「うん。……怖い夢を見そうで」


「どんな夢?」


「わからない。でも、すごく悲しい夢な気がする」


私は、膝を抱えた。


月を見ていると、不安になる。


まるで、私の存在が、月の光に溶けて消えてしまいそうな気がして。


「ねえ。もし明日、私がいなくなっていても……」


「いなくならないよ」


廻くんが、強く言い切った。


「絶対に、いなくならせない」


その言葉が、嬉しくて。


でも、同時に、胸が痛かった。


(ごめんね)


心の中で、謝る。


私、きっと消えちゃう。

だって、私の体は、時々透けて見えるから。

だって、私の心臓は、時々止まりそうになるから。


鼓動が、不規則だ。


ドクン、ドクン……と鳴っているけれど、時々、数秒間止まる。


その間、世界が遠のく。


音が消える。


色が消える。


私が、この世界から切り離される。


でも、それを言ったら、廻くんが悲しむ気がした。


だから、黙っていた。


「ありがとう」


私は、廻くんの肩に頭を預けた。


彼の体温が、私を包み込む。


温かい。


生きている。


この温もりを、私はずっと求めていた気がする。


(ああ、幸せ)


記憶はない。


未来もわからない。


でも、今この瞬間だけは、確かに幸せだった。


廻くんが、私の手を握ってくれる。


強く。


まるで、私を地面に繋ぎ止めるみたいに。


「離さないから」


「……うん」


月が、私たちを見下ろしていた。


その光は優しいけれど、どこか残酷だ。


まるで、私たちの未来を知っているかのような。


(私、この人を愛してる)


なぜかわからない。


でも、魂が叫んでいる。


この人を、守らなきゃいけない。


この人を、幸せにしなきゃいけない。


たとえ、自分が消えても。


記憶の奥底、霧の向こうに、何かが見える気がした。


銀色のノート。


無数の文字。


そして、一人で泣いている私。


(……そうだ)


私、ずっと一人だった。


ずっと、この人を見ているだけだった。


触れられなくて、声も届かなくて。


ただ、影のように寄り添うことしかできなかった。


でも、今は違う。


今は、こうして手を繋いでいる。


こうして、体温を感じている。


(奇跡だ)


この奇跡を、私は絶対に手放したくない。


たとえ明日、消えてしまうとしても。


たとえこの記憶が、また失われるとしても。


今この瞬間だけは、確かに彼の隣にいる。


それだけで、十分だった。


(今度こそ……)


月明かりの中で、私は静かに誓った。


今度こそ、あなたに愛される資格を手に入れる。


今度こそ、対等な立場で、あなたの隣に立つ。


そのためなら、私は何度でも消えて、何度でも生まれ変わる。


だって、私は――


(あなたのことが、好きだから)


記憶がなくても、その想いだけは、魂に刻まれていた。


遠くで、風鈴の音が聞こえた気がした。


チリン、チリン。


それは、夏の終わりを告げる音であり、新しい物語の始まりを祝福する音でもあった。


私たちの物語は、ここから始まる。


何度目かの、夏の夜に。


失われた記憶の、その先に。


廻くんの手を握る私の手が、少しだけ透けて見えた。


でも、彼は気づいていない。


(……もう少しだけ)


もう少しだけ、この温もりを感じさせて。


もう少しだけ、この幸せを味わわせて。


消える前に。


忘れる前に。


また、あなたと離れ離れになる前に。


月が、静かに私たちを照らしていた。


そして、どこか遠くで、誰かが泣いている声が聞こえた気がした。


それは、未来の私か。


それとも、過去の私か。


わからない。


ただ、その涙の意味だけは、なんとなく理解できた気がした。


それは、幸せすぎて流す涙。


そして、失うことが決まっているからこそ流す、切なさの涙。


私は、廻くんの肩に顔を埋めた。


彼の匂いを、深く吸い込む。


夏の匂い。


汗の匂い。


そして、生きている人間の、温かい匂い。


この匂いを、忘れたくない。


たとえ記憶が消えても、魂に刻み込みたい。


「ねえ」


私は、小さく呟いた。


「なに?」


「……なんでもない。ただ、幸せだなって」


「僕もだよ」


廻くんが、優しく笑う。


その笑顔が、月明かりに照らされて、天使みたいに見えた。


(ああ、もう)


私、完全に恋に落ちてる。


記憶がなくても、名前を忘れても。


この感情だけは、絶対に本物だ。


夏の夜は、ゆっくりと更けていく。


蝉の声が止み、代わりに虫の音が響き始める。


私たちは、そのまま縁側で寄り添っていた。


廻くんの体温が、少しずつ私に移っていく。


私の冷たい体が、少しだけ温かくなる。


(このまま、時間が止まればいいのに)


そう願った。


でも、時間は容赦なく進んでいく。


夜明けに向かって。


別れに向かって。


そして、また新しい物語に向かって。


私は、目を閉じた。


廻くんの心臓の音が聞こえる。


規則正しい、力強い鼓動。


その音を子守唄にして、私は浅い眠りに落ちていった。


夢を見た。


銀色のノートを抱えて、一人で泣いている私の夢を。


そして、その私に、誰かが優しく手を差し伸べる夢を。


「今度こそ、君を守るから」


その声が、遠くで響いていた。


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