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[完結]さよならの陽炎を、追いかけて  作者: 七瀬 澪
プロローグ

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プロローグ:欠落の標本

たった1秒だけ、時間を巻き戻す。

それが、僕の右目に宿った力だった。

結衣が眉をひそめた。僕のせいだ。


だから——巻き戻す。


言葉を選び直す。笑顔が戻る。

なかったことになる。

僕はこの力で、幼馴染の日常から「不正解」を消し続けた。


彼女が泣かない世界。彼女が怒らない世界。

完璧な、嘘の日常。


でも、奇跡には値札がついていた。


使うたびに、僕の世界から色が消えた。

味が消えた。

記憶が消えた。


そして——僕自身が、世界から消え始めた。


母さんが僕の部屋を「物置」と呼んだ日。


結衣が、僕の名前を思い出せなくなった朝。

それでも僕は、やめられなかった。

彼女が笑っていてくれるなら、僕は何を失ってもいい。


本気で、そう思っていたんだ。



——でも、本当に何もかも失って初めて気づいた。



僕を守るために、全てを捨てた人がいたことを。

僕の知らない場所で、ずっと泣いていた人がいたことを。


もう「ありがとう」も「ごめん」も届かない。


『ねえ、相沢くん。その右目で、次は何を殺すつもり?』


銀色の髪の少女が、僕の前に立っていた。


僕が殺して、捨てて、なかったことにしてきた「汚れた時間」の全てを知る少女が。


——これは、その少女と僕の物語。


挿絵(By みてみん)

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