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【転生】辺境伯家の長男 《千客万来》スキルに今日も振り回される  作者: jadeit
幼少期編

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第7話 《アクア・パピリオ》、そして……ピーちゃん

 朝の空気は今日も澄んでいた。

――うん、気持ちのいい朝だ。


 早朝の訓練と朝食を終えた俺は、屋敷の裏手で大の字になって転がっていた。動かない、屍のようだ……いや、ただの筋肉痛である。


「……それで、レオン様。顔が死んでますが?」


 リュミナ先生の声に俺は顔を上げる。


「死んでるって……、父上との早朝鍛錬がハード過ぎまして」

「は~、それでまた?」

「はい、動けないので癒しの魔法を……」


 言い終わる前にリュミナ先生は静かに詠唱を始めていた。淡い緑色の光が俺の身体を包み込む。


「助かりました!いやぁ、リュミナ先生の癒しの魔法は最高ですね!」

「まったく、私の魔法は安くはないのですよ」

「まあまあ、可愛い弟子の為ですから」

「可愛い弟子は自分で可愛いとは言わないのですけど……まあいいでしょう、それでは“魔力操作”の修練を始めましょうか」


 呆れながらも、先生は今日の授業を開始してくれた。


「さて、本日は“魔力操作”の訓練を行います。」


 リュミナ先生はゆっくりと説明を始める。


「魔力操作にはいくつか訓練法がありますが……般的に行われているのは――。」


 先生が静かに詠唱すると、彼女の手のひらに小さな水の球が浮かび上がる。透明な球体の中で光が反射し、きらきらと輝いている。


「このように、水球や火球など、自分の扱える属性魔法を使用します。形を保ち、動かし、数を増やす。これを繰り返すことで、魔力の流れを細かく制御できるようになります」


「なるほど、まさに“魔力を操る”練習ですね」

「ええ。そして、魔力操作が上達すれば、魔法発動時の“魔力消費”も減少します。結果として、より少ない力で強い魔法を放つことができるようになるのです」


(おお……これは俺が赤ん坊のころからやってた方法とほぼ同じだ! さすがラノベ知識。これも知識チートと言えるのかな?)


「ではさっそくレオン様もやってみましょうか。まずは水魔法の詠唱をお教え……」

(よし、これは初知識チートだし、ちょっと気合入れちゃおうかな)


 調子に乗った俺は、リュミナ先生の言葉を最後まで聞かず無詠唱で魔法を発動した。……そう無詠唱で!


――ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、ぽん。


 五つの透明な水球が、俺の周囲に浮かび上がった。同時に、軽く意識を動かす。水球がふわりと形を変え、ひらひらと舞う青い蝶々の群れになった。


「……よし、上手くいったぞ!」


 庭の光を受けて、水の蝶たちがキラキラと舞う。羽ばたくたびに細かな水滴が散り、虹のような光が差し込む。うん、我ながら芸術点が高い。


「坊ちゃまの魔法は相変わらず綺麗ですねぇ」


 いつの間にかアンナが紅茶を運んできており、

のんびりとした声で拍手をしてくれた。


「ありがとう、アンナ!」

――うん、教会で俺の使える属性魔法が水と風って判った後、アンナにはこの魔法見せたことあるからね……名付けて《アクア・パピリオ》!なんっちゃって。


「うふふ、リュミナ先生もびっくりされてますね?」

「ん??」


 振り向くと――


リュミナ先生は完全に固まっていた。目は見開かれ、口がわずかに開いている。優雅な美貌が……えらいことになってる。


「……」

「せ、先生?」

「む……詠唱……で……」

「はい?」

「い、今……無詠唱でしたよね?!」

――! や、やばい。テンション上がって、ついいつも通りやってしまった。


「え、詠唱……しました……よ……」

(声には出してないけど、心の中ではちゃんと唱えたからセーフだよね!)


 顔をそらしながら俺は答えた。するとリュミナ先生は、ぐいっと詰め寄り俺の顔を両手で掴んでじっと見つめてくる。うん、顔が近いです。


「嘘です。しかも水球を五つ同時にだなんて……それは訓練で半年かけてようやく一つか二つ維持できるレベルなんですよ!?」

(まぁ、赤ん坊の頃からやってたしな~)


「しかも……蝶の形!? ど、どういうことなんですか!」

(あれ、それも? アンナに見せたときは喜んでくれたんだけどな……)


「え、えっと、なんとなく感覚で……?」

――ラノベによくある“魔法はイメージ”ってのを参考にしたけどね。


「何となくってなんですか、なんとなくって! 私だってできるかどうか……」

そう言いながらリュミナ先生は水球を出現させた。


「あ、先生。いきなり動かさないで、先に蝶々の形を作った方がやり易いですよ。こんな感じで――」

「え?こうですか?」

「あ、はい、いい感じですよ、ねぇ、アンナ」

「はい、リュミナ先生の水の蝶々も素敵です」

「本当!? えへへ。まあ私は優秀ですからね!」

(おぅ照れてるねぇ~)


 生暖かい目でアンナと一緒に見守っていたら


「は! そうではありません、本当、どういうことですか?」

「どういうこと?と言われても、出来ちゃったものはしょうがないのでは……」


 しばし無言ののち、涙目でぷるぷる震えたリュミナ先生が――


「むきぃーーっ!! 出来ちゃったで出来たら苦労はしないんですよ~!」

……むきぃー、って実際に言う人初めて見た。


「ま、まぁまぁ。先生落ち着いて。ほら水の鳥さんですよ――」


 俺の出した水球は鳥へと姿を変えた。


「あ、ほんとだ、可愛い」

(ふぅ~、落ち着いたかな)


「――って、そうじゃありませんっ!!何ですかこの鳥はっ!!」

――うん、ダメだったか。


 しばし沈黙ののち、リュミナ先生は深く息を吐いた。肩に乗せた水の鳥を撫でながら……。


「むぅ~、本当にあなたという方は。はぁ~……もういいです、諦めました」

(ごまかせたってことでいいのかな?)


「それで、この蝶々や鳥はどういった魔法なんですか?」

「え? 特に考えてなかったんですが……。うーん、そうですね、鳥の方は攻撃に使えるかもです。ちょっと待ってくださいね」


 俺はリュミナ先生の肩にとまっていた水の鳥を羽ばたかせ、一本の木をめがけて突進させた。


 水の鳥は高く飛び上がり、やがてきりもみしながら回転し、目標の木に大穴を開けながら爆散した。

――名付けて《バードストライク》。


 ドンッ!!木が派手に裂け、葉が雨のように散った。

……あ、やば。


「いゃ~!ピーちゃーん!!」


 辺境伯邸の裏庭に、リュミナ先生の悲痛な叫びが響き渡ったのであった。

――いや、ピーちゃんって。


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