第6話 魔法修練の始まり
朝の空気は澄みきっていて、風が肌をなでる。屋敷の裏手、小川のせせらぎが聞こえる庭に俺とリュミナ先生は向かい合っていた。
「さて、では魔法に関してまずは基本的なことから」
リュミナ先生は説明を始めてくれた。
「ご存じの通り、魔法は5歳になると教会で適性属性と魔力量を測定してもらえます。」
(まぁ、俺はそれより前から知ってたけど……)
「ですので基本的に魔法の修練は5歳から行うことになりますね」
――すみません先生。俺、赤ん坊のころからやってました。
「そして、適正魔法と魔力量は測定時からあまり変わることはありません」
(ん? そうなのか、魔力量が増えない? 俺、強制的に魔力枯渇を繰り返していたら増えたんだけどな。もしかして5歳超えると増えなくなるの?)
「ではどうすれば魔法が上達するか……」
(最近は魔力量が増えたせいか中々魔力が空にならないからなぁ~、よし、まだ魔力が増えるのか、後で実験してみよ……)
ガンッ!
「いたっ!リュミナ先生、痛いです!」
魔力量の増加に関して考えていたら、いきなりリュミナ先生に頭を小突かれた。
「痛いです!じゃありませんよ、レオン様。ちゃんと聞いてますか?」
「き、聞いてました、よ」
目をそらしながら答えるとリュミナ先生はため息を吐きながら続けた。
「はぁ~、まあいいでしょう、授業を続けますよ。魔法の上達には基本的に2つの技能を鍛えることだといわれています」
「2つだけですか?」
「はい、まぁこれはあくまでも基礎ではありますが……。その2つとは、“魔力の自然回復”と“魔力操作”になります」
「“魔力操作”は何となくわかりますが……、“魔力の自然回復”?」
「そうですね……、では本日は“魔力の自然回復”から説明しましょうか」
「大気中には“魔素”と呼ばれる小さな光の粒が漂っているんです。
私たちは自然に魔素を体内に取り込むことで魔力は回復しています」
(魔素……! 本当にあるんだ。ラノベの中でしか見なかったけど、あるって聞くと、やっぱり本物のファンタジー世界なんだなぁ~って感じるね)
「そして魔素を取り込む量や速度が増せば、それだけ魔力の回復も早くなります」
「なるほど、回復速度が上がればそれだけ使える魔力も増えるということですね」
「はい、その通りです。――とはいえ、言葉で聞くより感じた方が早いでしょう。レオン様、目を閉じて、魔素を感じることに集中してみてください」
深呼吸し、俺は目を閉じた。
「そのままリラックスして、周囲の空気の“ざわめき”を感じるんです」
(ざわめき、か……)
呼吸を整え、耳を澄ます。森のざわめき、小川の音、鳥のさえずり。そのどれでもない“何か”が、確かに空気の中で脈打っている。微かに花の香りが混じった風が頬を撫で、微かに光る粒を感じた気がした。
――これが、魔素。
空気の粒が体の奥へ染み込んでいく。温かく、けれど少し冷たくもある、不思議な感触。世界そのものが呼吸していて、その息吹が自分の中を通り抜けていくような。
……嘘です。ちょっとカッコつけました。何となくしか解りません!
「どうやら魔素が感じ取れたようですね。では、今度は感じた魔素を全身に巡らせてみましょう。指先、足先、頭の先まで。焦らずゆっくりでいいので……魔素を全身に“循環”させてみてください」
最初は何も感じなかった。更に集中する……すると体の奥で何かが“灯る”ような感覚が走った、気がした。胸から腕へ、足へ。流れ出した温もりが、やがて全身を包みこんでいく。
「……できた、かも……?」
「ふむ、初めてにしては悪くありませんね。」
リュミナ先生は軽く頷くと、少しだけ口元をほころばせた。
「この訓練を毎日コツコツと行うことで“魔力の自然回復”が早くなります」
(なるほど、毎日コツコツ……か。筋トレと同じで、地味だけど、積み重ねが大事ってやつかな)
「さすがリュミナ先生です。少しだけ強くなれた気がします」
「当然です。私は――優秀ですからね」
(ドヤ顔が眩しい……!)
「さて、今日の授業はここまでにしましょう。」
「はい、ありがとうございました」
昼食を終えると、午後はアレクシス先生の授業だ。礼儀作法に経済学、戦術論。どれも難しいが、先生の話は面白い。
少しして。ノックの音とともに部屋の扉が開き、アンナが入ってきた。
「坊ちゃま、アレクシス先生、午後のお茶をご用意いたしました」
銀の盆の上には湯気を立てる紅茶と焼き菓子が並んでいる。
「ありがとう、アンナ」
アンナは紅茶を注ぎながら、柔らかく微笑んだ。
「では少し休憩にいたしましょうか」
そう言うとアレクシス先生はソファへと移動した。
「ところで、リュミナ君の指導はどうでした?」
「楽しかったです。魔素を感じるなんて初めてで……」
「それはよかった。彼女は誤解されやすい性格ですが
根は真面目で魔法に対する造詣が深いので良い指導者になると思いますよ」
(……確かに、初めは怖そうだったけど、なんだかんだで分かりやすかったしなぁ)
「はい、リュミナ先生を紹介していただいて良かったです」
アンナがそっと紅茶を差し出しながら微笑む。
「ふふ、レオン様がそう仰るならきっとリュミナ先生も喜ばれますね」
就寝前。
(明日は“魔力操作”の訓練か。ふっふっふ、ちょっと自信あるんだよねぇ。俺の“魔力操作”をみてリュミナ先生驚いちゃうかもな!)
――翌日、まさかこの言葉の通り、いや、それ以上の出来事が待っていようとは。そのときの俺は、まだ何も知らなかった。
「……坊ちゃま、窓際でぼーっとしてると風邪をひいてしまいますよ。明日も朝から鍛錬ですので、そろそろお休みになられては?」
「あ、う、うん、そうだねアンナ。おやすみ」
「はい、お休みなさいませ、坊ちゃま」
窓際で黄昏ながら明日に思いをはせる俺、ちょっとカッコよくない? とかやってたつもりだったのに、ぼーっと、って! はー、まぁいいや、寝よ寝よ。




