第51話 イケメン執事と、学園祭準備
長期休暇も終わり、秋学期がスタートした。校庭の木々は少しだけ色づき始め、学園ではいつも以上に生徒たちが走り回っている。理由はもちろん、この学園の二大イベントのひとつ、学園祭の準備のためだ。そして今、俺たちの教室では大事な会議が行われていた。
「はい! 喫茶店がやりたいです!」
俺は元気よく手を挙げた。すると議長のカインくんが、溜息を吐きつつ言う。
「落ち着け、レオン。今は“展示”、“劇・音楽”、“販売”のどれにするか選んでいるところだ」
この学園では、学園祭の売上や人気投票によってクラスごとに順位が決まる。そしてその順位は成績にまで加点されるので、みんな真剣そのものである。
「じゃあ、販売で喫茶店をやりたいです。それに僕には売り上げを上げる秘策もあるしね」
そう言うと、隣のリヒト様がぴくりと反応した。
「ほう、レオンの秘策か。面白そうだ。では私も販売に票を入れよう」
その一言で、クラスのメンバーも一気に販売へと傾く。
――さすが王子様。これが人を引きつける魅力というやつか……。
「はぁ~、これでは喫茶店で決まりそうだな。それでレオン。秘策とはなんだ?」
呆れながらもカインくんは、俺へ期待の眼差しを向ける。
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。名付けて――“執事喫茶”!」
* * * * * * *
話し合いから数日後。俺は“助っ人”を連れて、再びクラス会議へと臨んでいた。
「それで、執事喫茶とは何だ?」
リヒト様の問いに、俺は満を持して言う。
「うん、説明するね。それでは……マリアさん! お願いします!」
教室の扉が開く。入ってきた瞬間、空気が変わった。シャツに黒ベスト、ネクタイをびしっと締め、髪はオールバックにまとめた男装姿のマリアさんが入ってきた。髪は艶やかにまとめられ、細身のシルエットにピッタリの衣装。その姿は“イケメン執事”そのものだった。
「ご紹介します。こちら、コスプレのプロ! 聖女のマリアさんです!」
「ハ~イ、みなさん。よろしくお願いしマス」
クラスがざわつく。マリアさんに見とれている女子生徒までいる。
「ふむ、何故マリア嬢は男装姿なのだ?」
「リヒト様、いい質問です! これこそがコスプレ! 男子も女子も執事の恰好をして給仕をする。つまり、“コスプレ執事喫茶”をやるのです!」
俺の言葉に合わせて、隣でマリアさんがビシッと決めポーズ。それを見て、クラスの女子たちが一斉に色めき立つ。
「やだ……カッコいい……」
「これ、女子も執事服着るの? 私に似合うかしら……」
――よし、中々の感触だ。あともう一押しだな。
「みんな! リヒト様とカインくんに執事服……着てほしくない?」
「キャー、素敵」
「うぉー、いいぞ」
俺が聞くと、一斉にクラスから歓声が上がった。黄色い声の中に、野太い声も交じっているが気にしないで進めよう。
「む……何やら見世物にされる気もするが……。クラスの為だ。やむをえまい」
「まぁ、悪くはない案だな……見た目のインパクトも強いし」
リヒト様とカインくんも渋々ながら納得してくれた。こうして、俺たちのクラスは“コスプレ執事喫茶”に決定したのであった。
「喫茶店の趣旨は分かったけど、メニューはどうするの?」
女子のひとりが手を挙げた。
「ふっふっふ、もちろん考えてあるよ。ではお呼びしましょう。ジェラルドさん! お願いします」
扉が開き、落ち着いた雰囲気の紳士が入ってくる。黒いエプロン姿に、鋭くも優しげな眼差し。王都の人気ケーキショップ〈ル・シエル・シュクレ〉のバリスタ、ジェラルドさんだ。孤児院の子たちが修行した店でもあり、その縁で今回協力をお願いしたのだ。
「本日はよろしくお願いします」
ジェラルドさんは静かに会釈し、さっそくコーヒーを淹れてくれた。無駄のない所作から漂う熟練の気配。すぐに部屋中に豊かな香りが広がる。
「まずは飲み物。喫茶店で出すコーヒーの淹れ方を、ジェラルドさんに教えてもらいます!」
「ほう、プロから……それは楽しみだな」
カインくんが目を輝かせる。どうやらコーヒー好きらしい。
「次はスイーツだね!」
俺は簡易の作業台に材料を広げていく。生クリーム、砂糖、クッキー、イチゴ、バルトル領のイチゴジャム、そして前日に仕込んでおいたアイスクリーム。
「それでは――調理開始!」
まずは俺の開発した調理魔法、≪トゥルボー・ミキサー≫で生クリームを一気に泡立てていく。
「また、奇妙な魔法を……」
「わ~、すごい!」
そんな声に気を良くしながら、今度は器を取り出す。
「見た目も大事だからね。今回はワイングラスを使うよ」
ワイングラスの底にイチゴジャムを敷き、その上にアイスを重ねる。
「む、これは野外演習で食べたアイスクリームか」
「そう! でも今回はもっと豪華だよ」
砕いたクッキーを敷き詰め、さらにアイス。そしてカットしたイチゴを側面に沿わせるように並べる。
ホイップクリームをまんべんなく流しいれたら、その上にヘタを取ったイチゴと丸く成形したアイスを乗せ、最後にイチゴジャムをとろ~り。
「はい! “イチゴパフェ”の完成だよ!」
「キレ~!」
「これ本当に食べ物?」
「もったいなくて食べれない……!」
女子たちからは大好評のようだ。
「もう一つあるよ」
今度はグラスの底にチョコソース。その上に――。
「えっ、黒い……?」
「まさか……」
「そう、チョコレートアイスだよ!」
クッキー、チョコアイス、ホイップクリームと重ね、丸く成形したチョコアイスの上から仕上げのチョコソース。
「こっちは、“チョコレートパフェ”!」
「おお、うまそう!」
「コーヒーに合いそうだな!」
男子からも好反応。
――ふふふ……スイーツのことなら俺に任せてくれたまえ!
ドヤ顔で満足気に頷く俺のそばにエリスがやってきた。
「レ、レオン様……その……食べてもいいですか……!」
「うん。もちろんだよ。はい、あ~ん」
エリスは一瞬で真っ赤になり――またしても固まった。それでも固まったまま、ぱくっとパフェを食べると表情が緩む。
「ふにゃ~。甘くて……幸せです」
その言葉に、他の生徒たちもパフェへと群がり、一瞬でなくなってしまった。こうして給仕班はマリアさんによるコスプレ講座、飲み物班はジェラルドさんによる本格指導、調理班は俺と一緒にパフェの飾りつけの練習をそれぞれ開始。
クラス全体が一気に学園祭ムードへと突入していくのであった。そして、俺たちの“コスプレ執事喫茶”は、想像以上の盛り上がりを見せることになる……。




