表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【転生】辺境伯家の長男 《千客万来》スキルに今日も振り回される  作者: jadeit
幼少期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/31

第5話 朝の訓練と、銀髪の家庭教師

 朝日が昇る。霧をはらう風が森を渡り、鳥たちのさえずりが目を覚ます。そして――俺の悲鳴が辺境伯邸の庭に響き渡った。


「ぐ、ぐはっ……!」


 木剣と木剣がぶつかり合う音。父上の剣はただ速いだけじゃない。剣筋はまるで風そのものだった。そして構えも一撃も、一分の隙がない。


(ひ、ひぃ~)


 速い。重い。痛い。


「父上っ、ちょ、待っ――」

「いいぞレオン、剣は心を映す鏡だ!お前の闘志が剣から伝わってくるぞ」

「嘘です父上!俺の心は今逃げ腰です!」


 あえなく木剣が弾かれ、俺は地面に転がった。


「ふむ、まあこの位にしておくか」

「はぁ……はぁ……疲れました、父上……」


 腕はしびれ、足はもう棒だ。いや、棒というより丸太。


(明日立てる気がしない……)


 疲労困憊の俺にさらなる追い打ちが。


「だらしないぞレオン、今日は初回だから軽めにした。本格的な修練は明日からだからな!」

(こ、これが軽いとか、父上はどんな世界の住人なんだ……!)


 確かに父上は汗一つかいてない。木剣を納めると、父上は満足げに笑った。


「だが初回にしては悪くない動きだったぞ。これからも精進するようにな」

「……ありがとうございます、頑張ります」


 アンナがタオルを持って駆け寄ってくる。


「坊ちゃま、大丈夫ですか?」

「……し、死んでない……はず……」

「よかったです」

(いや、よくはないです)


 朝の訓練と朝食を終え、息も絶え絶えで部屋に戻るとノックの音。


「坊ちゃま、先生がいらっしゃいましたよ」


 アンナの後ろからは見慣れない人物が入ってきた。


「……あなたが、レオン・フォン・バルトル様ですね?」


 澄んだ声とともに現れたのは、長い銀髪にエメラルドの瞳を持つ女性だった。尖った耳が印象的――エルフだ。淡い青のローブに身を包み、腰には杖。その立ち姿は凜として、まるで冬の湖面みたいに澄んでいる。


(お、おぉ……エルフだぁ……初めてみた! そしてめっちゃ綺麗……!)


「私はリュミナ・エルフェリア。元王立魔導師団所属の魔法使いです。」


 ぴしりと背筋を伸ばしたまま、淡々と名乗った。


「今日からあなたの魔法の家庭教師を務めます。よろしくお願いします。」

「よ、よろしくお願いします……!」


(王立魔導師団って、前世のゲームなんかでもエリート中のエリートだよね。そんな人が家庭教師とか……《千客万来》、仕事しすぎでは?)


 はたして先生は”善き者“枠なのか、”そうでない者“枠なのか、どっちだろぅ。彼女はわずかに頷き、観察するように視線を走らせた。


「……聞いていた通り、随分魔力量が多いようですね」

「わかるんですか?」

「当然です。私は優秀ですから」


 フフン、と彼女は自信満々に胸を張った。

……うむ、母上と違って、そこそこある。目のやり場に困る。


(母上のそれは見事な平原だから……)


 その瞬間、頬をつねられたような錯覚が。


(ひぃっ!ま、まさか母上か!?)


 きょろきょろと辺りを見回すが、もちろん誰もいない。


(……ふぅ、危ない危ない。気をつけねば命がいくつあっても足りないな)


「それにしても、辺境とは。まさか私がここまで来るとは思いませんでした」

「来たくなかったんですか?」

「いいえ、アレクシス先生のご紹介ですし、辺境伯閣下も尊敬しております。ただ――」


 彼女は小さくため息をついた。


「もう少し、王都の空気に近い場所だとありがたかったのですが」


(辺境ディスられた!?)


 その瞬間、父上が笑いながら部屋に入ってきた。


「はっはっは、辺境ゆえに不便も多いが、魔力の流れは澄んでおるぞ!」

「これはアルベルト様」


 リュミナ先生は軽く会釈した。


「なるほど……確かに、自然の魔素は濃いですね。

魔法の修練には悪くない環境かもしれません」

「うむ、そうだろう、ではレオンのこと頼んだぞ」

「はっ、お任せください」


 父上は上機嫌に部屋を出て行った。


(おお……父上には丁寧なんだ)


「しかし、アレクシス先生が“面白い素材”と言った意味が分かりました」

「そ、素材……ですか?」

「ええ、“教え甲斐のある素材”です。私が優秀な魔法使いに育ててみせましょう」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 リュミナ先生は少しだけ口角を上げた。


「では、魔法の基礎から行いましょう。屋外へ出ますよ」

「え、もう!? い、今からですか!?」

「行きますよレオン様。気候も穏やかですし、丁度いいでしょう」

「い、いや、俺まだ動けない――」

「では癒しの魔法をかけます。ほら、立って。」


(なんかもう逃げ道がない!?)


観念して立ち上がると、リュミナ先生は静かに詠唱を始めた。淡い緑色の光が俺の身体を包み込む。

ふわりと温かく、筋肉のこわばりがじんわりと溶けていく感覚。


「うわ……すごい。楽になった……!」

「当然です。私にとってはこれくらい初歩中の初歩です」


 またしても彼女はフフン、と胸を張った。


(……怖そうに見えるけど、本当は可愛らしい人なのかな?)


 彼女は軽く杖を持ち直し、窓の外を見た。


「空気が澄んでいますね。……この辺りの風の流れは悪くない。風と水の両属性を扱うあなたには、理想的な環境ですね」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。私の指導を受ける幸運を噛みしめるといいですよ」

(めっちゃ自信あるな……!)


 そんなことを思っているとアンナがそっと俺の背中を押した。


「坊ちゃま、がんばってくださいね。怪我をしても

リュミナ先生に直してもらえるから安心ですね」

「いや、そういう問題ではないのでは?怪我はしたくないよ!」


「さぁ行きましょう、レオン様」


 リュミナ先生が踵を返す。長い銀髪が朝の光を反射してきらめいた。こうして、俺の魔法修行がいよいよ始まる。


 辺境の朝はまだ静かだが――俺の心はワクワクで嵐のようにざわめいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ