第49話 旅の土産と、仲間たちの悪だくみ
「ぎゃぁ~! ミ、ミナミ様。ぶつかります~!!」
「はっ……父上! お気を確かに!」
「やっぱりこの速さ、商売には魅力的……うっぷ……」
≪スカイホースくん2号≫の車内は、いつも通りの大騒ぎだった。俺たちは長期休暇を終え、王都へ向けてバルトル領を出発したところだった。窓の外の景色は高速で切り替わり、風を切る音と、車体が少し揺れる感覚が伝わってくる。
「みんな、バルトル領はどうだった?」
俺が聞くと、ユウキくんが元気よく答えた。
「うん! 辺境の森は魔物が強くて、すごく良い修行になったよ」
「私も楽しかったデス」
勇者パーティーの二人は満足そうだ。
「それは良かった。あ、そういえばランクは上がったの?」
「うん。木級から鉄級に上がったよ。これで初心者卒業かな」
「次は銅級デス。私達ならすぐいけマスよ!」
楽しそうに談笑している二人を見て、つい微笑ましくなる。
「私もなかなか楽しかったぞ」
俺の横では運転中のミナミさんが前を見ながら言った。
――ほとんど城でゴロゴロしていただけのような……。
そんな賑やかな旅路を経て、俺たちは五日目の夕方、ようやく王都に到着した。空には橙色の夕日が広がり、街並みを優しく染めている。
「うむ、ようやく帰ってきたな」
「お、お帰りなさい、レオン様」
学園に戻ると、校門ではリヒト様、カインくん、エリスの三人が待ち構えていた。
「あれ? どうして僕たちが帰ってくるって分かったの?」
俺の問いに、カインくんは当然とばかりに胸を張る。
「そろそろだと思って、門番に“戻ったらすぐ寮に連絡しろ”と伝えておいた」
――さすが上位貴族……これが権力ってやつか。
俺は感心しながらも、どこか呆れてしまった。
「そうなんだ。みんな、ただいま。そっかぁ~、そんなに俺たちの帰りを楽しみにしてたんだね」
「バッ、バカヤロー! そんな訳あるか!」
相変わらずカインくんはツンデレ全開である。
「む? 私は普通に楽しみにしていたぞ」
「わ、私も……レオン様が帰ってきてくれて、嬉しい……です」
リヒト様とエリスは相変わらず素直で可愛い。
「ありがとう。じゃあ二人には、お土産をあげよう」
俺はバルトル領で購入した蜂蜜とジャムを手渡す。
「あ、俺たちからもお土産あるよ!」
「森で狩った魔物素材で作ってもらったんデス!」
リヒト様にはカフスボタン、エリスにはブローチのようだ。
「お、三人ともすまないな」
「ありがとぅございます……! 素敵です」
そんな和やかな空気の中、ひとりだけ取り残された人がいた。
「おい。私には……?」
カインくんがしょんぼりしている。
――ちょっとやりすぎたかな。
「もう、冗談だよ。はい、カインくんにもお土産」
「俺たちのも、どうぞ!」
手渡すと、カインくんは一気に表情を明るくした。
「べ、別に欲しかった訳ではないが……せっかくだからな、もらってやる!」
「なんだカイン。嬉しそうじゃないか」
嬉しそうにしていたカインくんを、ミナミさんがニヤニヤしながらからかう。
「う、うるさい! というか、お前の土産は?」
「ふん。私が陽キャのような、気の利いた真似ができるとでも?」
誇らしげに残念なことを言うミナミさんに、カインくんは心底呆れた顔をした。
「そうだな……お前に期待した俺が馬鹿だった……」
「まあ良いではないか。皆、無事に帰ってきてくれて嬉しいぞ」
さすが王子様、リヒト様が綺麗にまとめてくれた。と、その時、俺の袖がちょんちょんと引かれる。
「あの、それで……レオン様。約束の件なのですが……」
エリスが控えめに声をかけてきた。頬が赤く、視線が少し逸れている。
「うん、覚えてるよ。じゃあ……、明後日ってみんな空いてる?」
みんながうなずくのを確認したので、俺は日取りを2日後に確定する。
「僕、王都ってあんまり詳しくないから、楽しみだな」
そんなこんなで、王都観光には皆で行くことが決まった。しかし、その時の俺は気付かなかった。エリス以外のメンバーが、こそこそと妙に悪い笑みを浮かべていたことに……。
* * * * * * *
二日後。
「みんなまだかな~」
俺は一人、校門で待っていた。今日は王都観光の日である。夏の眩しい日差しを浴びながら、ほんの少しだけ胸を高鳴らせていた。
「お、お待たせしました」
振り返ると、少し緊張した面持ちのエリスが、両手を胸の前でそっと握りしめて立っていた。
「おはよう、エリス。って、あれ? ミナミさんは?」
「はい。なんでも急に用事ができたとかで……」
「そうなんだ。ミナミさんに用事って珍しいね。他のみんなもまだ――」
と言いかけた時だ。
「レオン様ですね。こちらをお持ちしました」
「あ、ありがとうございます……?」
執事服の男性が近づいてきて、一通の封筒を手渡してきた。中を開くと――。
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レオン。
私達は行かないから
二人だけで楽しめ。
お前の親友たちより
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「……!」
「レ、レオン様? どうしました……?」
「あ、いや……みんな、今日は来られなくなったみたい。だから……二人で行こうか?」
そう告げた瞬間、エリスの顔は一気に真っ赤になった。
「は、はいっ……! よろしくお願いします」
こうして俺たちは、仲間たちの策略にまんまと乗せられ、初めての二人きりのデートへと出かけることになったのだった。




