第47話 朝の訓練と、謎の祠
「ガンッ!」
「カッ!」
初夏のバルトル領。爽やかな朝の空気を裂くように、鈍い音が連続して響く。領館の庭では、学園で更に腕を上げた俺……ではなく、ユウキくんと父上が木刀を交えていた。いや、“交える”というより“高速で消えては現れている”と言った方が近い。
「……何アレ? 見えないんだけど」
父上は相変わらずの怪物じみた速度だが、それについていくユウキくんも化け物だ。
――おかしい。二人とも人間だよね?
「おはようございマス、レオン」
「あ、おはよ、マリアさん」
ぼーっと眺めていると、マリアさんが元気よくやって来た。
「昨日はよく眠れた?」
「ハイ、とても快適でした。ベッドふかふかデス」
マリアさんの反応に俺の頬が緩む。
――うん、平和な朝だ。
「はぁ~~~ッ!!」
「まだまだ……!」
そんな和やかな会話をする俺たちの前で、二人の剣戟がますます激しくなる。
「えっと、アレってユウキ……デスよね? 稽古なんデスか?」
「うん……。さすがに本気じゃないと思うよ」
するとアンナまで感心している。
「すごいですね、ユウキ様。旦那様と打ち合えるなんて」
「何してるか見えませんが、すごそうデスね」
――大丈夫だよマリアさん。俺たち常人には見えない領域だから……。
「それで、どうしてここに?」
「あっ、そうでした! 朝ごはんが出来たってママさんが呼んでました!」
どうやら呼びに来てくれたらしい。
「そっか。ありがとう。じゃあ止めに行こう」
俺は木刀を振るう二人へ向かって声を張る。
「おーい! 朝ごはんだよー!」
「ぬんっ!」
「はぁッ!」
――うん。聞こえてないな。
「止まりませんね……どうしましょう?」
「仕方ない……いけ、ピーちゃん!」
俺は水魔法で鳥を二羽生成し、稽古中の二人へ放つ。
「≪バードストライク≫!」
と、その瞬間。
シュパッ!!
父上とユウキくんの木刀が二羽のピーちゃんを真っ二つにした。
――え? 俺のピーちゃんが……。
「こら、レオン。稽古中に危ないじゃないか」
「そうだよ。当たったらどうするのさ」
「あ、ごめん……って、違う! 朝ごはんだよ!」
「む。そうか。では今日はこのくらいにして終わろうか、ユウキ殿」
「はい。ありがとうございました」
父上とユウキくんは爽やかな笑顔を浮かべ、互いに向き合ってお辞儀をした。
「でもレオンくん、普通に声かけてくれればよかったのに?」
「いや、声かけたけど聞いてくれなかったから、びしょ濡れにしてやろうかと……うん、なんでもないです」
俺達が食堂へ入ると、そこには既に朝食が用意されていた。全員が席に着いたのを確認し、俺はユウキくんとマリアさんに今日の予定を聞いてみた。
「それで今日は森に行くんだっけ?」
俺の質問に、コーヒーを一口飲んだユウキくんが答えてくれる。
「うん。初日だから浅いところで様子を見るつもりだよ」
「そっか。じゃあ僕も行こうかな」
「ワーオ! 楽しくなりそうデスね!」
こうして俺たちは三人で森へ向かうことになったのだった。
* * * * * * *
「うわーー!!」
朝食から数時間後。俺達は全速力で森の中を逃げていた。
「さすが辺境領の森だね。浅い場所にこんな強い魔物が出るなんて」
そう言いながらも、ユウキくんは余裕の表情。さすが勇者だ。
「いや、普通なら出ないよ!?」
――これは≪千客万来≫さんが張り切ったな! 最近おとなしいと思ったら……。
「何デスか!? あのモンスター!」
俺たちを追っているのは《ダークホーン・ウルフ》。黒銀の毛並み、真紅の瞳で額に角がある巨大な狼。銀級冒険者でも逃げるレベルの魔獣だ。
「このままだと更に森の奥に入っちゃうね。よし……ここで仕掛けようか」
そう言うと俺は見えない風の壁を展開した。
「≪アウラ・カーテン≫」
透明の壁にダークホーン・ウルフが激突し、一瞬よろめく。そのスキをユウキくんは見逃さない。
「てやぁあああ!!」
天高く跳躍すると、風を切る音を響かせながら見事に首を切り落とした。
「おぉ! お見事!」
「さすがユウキ!」
余りの華麗な戦闘に、俺とマリアさんは思わず拍手をしてしまった。
「えへへ、ありがとう。じゃあ解体しちゃうね」
ユウキくんは水球と風の刃で、手際よく解体を進めていく。
(いつの間にか“魔法での解体”まで覚えてるし……!)
俺が勇者の才能に驚いていると、マリアさんが不満顔で呟く。
「誰かがケガしないと、ワタシの治癒スキルが使えません……。レオン、魔物に噛まれてきてくだサイ」
「ちょっとマリアさん、何で僕? そういう事は、前衛のユウキくんに言って!」
「ユウキは怪我したらダメです」
俺とユウキくんの扱いが違いすぎる。
――というか、どうやらマリアさんは気づいてないな。
俺はこっそり耳打ちする。
「マリアさん……想像して。傷ついたユウキくん」
「ハイ」
「それを優しく癒すマリアさん」
「おぉ、≪祝福の癒し手≫……デスね」
「その神々しい姿を見上げるユウキくん。弱ってるところに、そんな姿見せられたら……イチコロじゃない?」
「…………!!」
マリアさんの目が輝いた。
「ユウキ! 怪我してきてくだサイ!!」
「え、嫌だけど……。そんなことより、解体おわったからそろそろ戻ろうか」
マリアさんの恋心を“そんなこと”で片付けた鈍感ユウキくんの言葉に従い、俺たちは森からの帰路につこうとした――が。
「というか、帰り道わかる? レオンくん」
「う~ん。とりあえず山と反対側へ行けば領都方面に出るよ……多分」
ダークホーン・ウルフから逃げながら森の奥へと来た俺達は、ここがどこか分からなくなっていた。不安しかないが、歩いて行くしかない。
そして数分後。前方に何やら石造りの小さな建物が見えてきた。
「祠……かな? でも入り口が壊れてるね」
「ワーオ! お宝の香りデス! 行きまショウ、ユウキ!」
ユウキくんにスルーされ、落ち込んでいたマリアさんは、冒険魂に火がついたのか突き進む。どうやら元気が戻ったようだ。中に入ると、中央には消えかけた魔法陣があった。
「これは……卵?」
魔法陣の中心にはダチョウの卵ほどの丸い物体が、ぽつんと置かれている。俺が手に取った瞬間――。
「うっ……!」
魔力が吸い取られるような感覚が走り、慌てて手を離す。
「どうしたの、レオンくん?」
「今、魔力が吸われたような……」
ユウキくんも卵に触れるが首をかしげる。
「うん、俺は何ともないね」
「え……?」
恐る恐る、もう一度触ってみると今度は何も起こらなかった。
「……とりあえず持ち帰って父上に報告かな」
「ドラゴンの卵かもしれないデス! お宝ゲットだぜ!!」
こうして俺たちは謎の“卵らしきもの”を手土産に、森を後にしたのだった。
――あれ? 何か卵(?)が大きくなったような……気のせいかな。




