第46話 浮かぶ馬車の超進化!?とバルトル領への帰還
翌朝。俺たちは校門前に集合していた。
「――あれ? 何でユウキくんとマリアさんまで旅支度してるの?」
そこには、完全に“旅モード”の勇者パーティーの姿があった。マントも荷物もバッチリ。むしろ俺たちより本気だ。
「おはようございマス! もちろん私達もバルトル領に行くからデスよ!」
マリアさんが満面の笑みで答える。その瞬間、エリスの視線が俺に突き刺さった。
「いやいや、何で当然みたいな顔してるの!? 僕聞いてないよ!」
慌てて弁明すると、ユウキくんが首をかしげる。
「あれ? ミナミさんから聞いてない?」
ミナミさんを見ると――。
「……(そっ……)」
気まずそうに目をそらされた。
(もしかしなくても、伝え忘れてたな……!)
「ま、まあ別に一緒に来るのはいいけど……うちの領、そんな面白いものないよ?」
するとユウキくんが少し照れたように言う。
「えっと俺たち、冒険者登録したんだ。それでさ、せっかくだからバルトル領の強い魔物を狩って、ランク上げしたいなって」
「あ~、なるほどね。そういうことなら大歓迎だよ!」
そんな会話をしていると、ミナミさんがソワソワし始めた。
「そんなことより! ついにこの時が来た! 皆、刮目せよ!これぞ私の新作魔道具。名付けて≪スカイホースくん2号≫!!」
――なんて残念なネーミングセンス。それでいいのか?
ミナミさんは布にくるまれた物体を指さし、勢いよく布を取った。中から現れたのは、見覚えのある馬車。
「ん? これは野外演習の時に使った“浮かぶ馬車”ではないか?」
リヒト様が少し困惑気味に眉を寄せる。
「おや? また馬がいないが……今度こそレオンが引くのか?」
「なんでまた僕!? 引かないよ!? てかそれなら走って帰るよ!?」
カインくんはどうしても俺に馬車を引かせたいらしい。するとミナミさんはフフンと笑い、腰に手を当てた。
「ふっふっふ。こいつに馬は必要ない! いくぞ、レオン!」
促されて俺は助手席に乗り込む。ミナミさんが操作すると、≪スカイホースくん2号≫がふわりと浮かび――。
「……!? 馬がいないのに前進したぞ! どうなっているんだ!」
リヒト様が素で驚く。続いて、後退し、スッと元の位置に着地した。
「どうだ! すごいだろ!!」
ミナミさんは胸を張る。
「確かにこれはすごいな。どうやって動いているんだ?」
カインくんの疑問に、俺は皆を運転席に案内し簡単に説明した。
「馬車の前後にブースターがついててね。運転席にある右のペダルを踏むと、後ろのブースターが噴射して前進、左で後退。左ペダルはブレーキの代わりにもなるし、踏む加減で速度調整も完璧! 操縦桿もあるから方向転換もできるんだよ」
「しかも、馬車で二十日かかる道のりが、なんと五日に短縮可能だ!!」
俺の横でミナミさんがドヤ顔である。
「ふむ……これは魔石で動くのか? それでは直ぐに魔石の魔力が尽きてしまうのでは?」
「そこがこの魔道具の肝なのだよ!」
リヒト様からの疑問に、ミナミさんが助手席の水晶を指差した。
「≪スカイホースくん2号≫はレオンの魔力で動いているのだ!」
そう。俺がこの水晶に魔力を注ぐことで作動する。
――いうなれば俺は“ガソリン”なのだ。
「なんと。しかしレオン、魔力量は大丈夫なのか?」
「うん。なんか僕、魔力量だけは無駄に多いからね。一日中走っても全然平気だったよ」
その言葉に全員が目を丸くした。
「よし、それじゃあ荷物積んだら出発だ!」
「あ、その前にバルトル家の王都屋敷に寄ってくれる? 使用人を迎えに行かなきゃ」
* * * * * * *
「ぎゃぁ~! ミ、ミナミ様。早いですぅ~!!」
「うっ……レオン様……ぼく……吐きそう……です」
「僕もヤバいっす」
≪スカイホースくん2号≫でバルトル領へ向けて出発してから、わずか数十分。アンナとノアくん、それにルーク先輩は早くも根を上げていた。
王都の中ではゆっくり走っていたので余裕だったが、街道に出た瞬間、速度が時速六十キロほどに上昇すると三人の顔色が青ざめた。転移者組と俺は、もっと早い乗り物を経験しているので余裕である。
「三人ともだらしないなぁ。ほら、ガイルさんを見習ってよ」
ガイルさんはこの騒ぎの中でも微動だにしていない。だが俺の言葉に、ノアくんが無表情で答えた。
「いえ、父上は既に気絶しています」
――おい、元銀級冒険者! 護衛が真っ先に気絶してどうする!!
* * * * * * *
「はっはっは。いやぁ~、面目ない。まさかあの速さが続くとは思わなかったもので……」
「うぅ~、明日もあの速さで移動するんですよね……?」
「なんでレオン様は平気なんですか? ぼくは……もうムリです……」
「いやぁ~、でもあのスピードで商隊走らせたら、普通の馬車じゃ勝てないっすよね! 商機の匂いがするっす!」
本日の宿に到着し、夕食を取った頃ようやく四人は復活したようだ。しかし、三人の嘆きは止まらない。
「大丈夫だって、三人とも。そのうち慣れるから」
俺はアンナ、ノアくん、ルーク先輩を励ましたが、三人が≪スカイホースくん2号≫の速さに慣れることはなかった。翌日も三人の悲鳴を聞きながら、俺たちはバルトル領を目指し、軽快に南へと進んで行く。
そして五日目の昼過ぎ、ようやく見慣れたバルトル領の緑と、石造りの城壁が視界に広がってきた。胸の奥がじんわり温かくなる。
――ああ、帰ってきたんだ。
「ただいま帰りました。父上、母上」
「おかえりなさい、レオン」
到着した俺たちを、父上は温かく出迎えてくれた。母上は俺を優しく抱きしめる。……ちょっと恥ずかしい。
(ん? 母上のお腹、なんかふっくらしてない?)
しかし、ここで『母上太りましたか?』なんて言ったら命が危ない。
―― 俺も成長しているのだ。ここはさりげなく……。
「えっと、母上……最近、お体は大丈夫ですか?」
すると母上は嬉しそうに微笑んで言った。
「まぁ、レオンったら……。実はね、あなたの弟か妹が、お腹の中にいるのよ」
「えっ――! 僕に弟か妹が!?」
喜びのあまり、すっかり油断してしまった俺はつい本音が出てしまった。
「それは本当におめでたいですね。いやぁ~、僕はてっきり母上がケーキ食べてダラダラしてたから太ったのかと……」
「むにゅ~~」
俺の頬は躊躇なく、横に引き延ばされた。
「レオン……母は悲しいです。そんな侮辱をされるなんて……」
「ふぅ、ふぅみまふぇん……ふぁふぁうえ……!」
母上の笑顔は優しいのに、目がちっとも笑っていない。相変わらず恐ろしい。
「ゴホン。それでレオン。後ろにいる方々と……この奇妙な馬車(?)を紹介してもらえるか?」
父上に促され、俺は頬をさすりながら同行者たちを紹介した。
「あ、はい、父上。母上は会ったことありますよね。こちらはルーク先輩。アルマレッタ商会のご子息です」
「お初にお目にかかります、バルトル卿」
俺が父上に紹介するとルーク先輩は深々と頭を下げた。
「そして学園で友人になったユウキくん、ミナミさん、マリアさんです。この乗り物はミナミさんが作ってくれた≪スカイホースくん2号≫です」
「≪スカイホースくん2号≫? ……これは馬車なのか?」
すると突然、ミナミさんが胸を張って答えた。
「これは私が開発した移動用魔道具だぞ! 馬がいらない馬車だ!」
父上は一瞬キョトンとしたが、すぐに咳払いをして表情を整えた。
「ちょっと、ミナミさん、敬語……。えっと、初めまして。ユウキと言います」
「初めまシテ。マリアと言いマス」
二人は丁寧に自己紹介をした。
――ミナミさんは……まぁ、あれでいいか。
「三人は転移者なんですよ、父上」
「ほう……それは大変だったな。何もない領だが、休暇中はゆっくり過ごしてくれ」
こうして、俺たちのバルトル領での長期休暇が始まった。




