第45話 長期休暇の予定と、秘密兵器
「おわった~~。あぁ、ようやくこの苦行から解放される! ありがとう、神様……!」
「いや、苦行って……ただのテストだろ。大げさな」
長期休暇前のテスト最終日。教室から出て天を仰いだ俺に、カインくんが冷静にツッコんでくる。
「確かにテストって、なんだか緊張しますよね」
――俺の冗談に付き合ってくれるなんて……エリスはいい子だなぁ。
「いや、エリス嬢。レオンの言葉を真に受けてはいけないぞ」
「ひどくない? カインくん。僕が嘘つきみたいじゃん」
カインくんは眉ひとつ動かさず、淡々と言い放つ。
「嘘つきではないが、適当だろう」
俺とカインくんがいつもの言い合いをしていると、楽しそうに眺めていたリヒト様が口を開いた。
「はっはっは。確かにレオンは、たまに突拍子もないことを言うからな」
「リヒト様まで!?」
「いや、褒めているんだぞ。それで、レオンは長期休暇はどうするんだ?」
(どこが褒めてるのかな……?)
浮かんだ疑問は心の奥にしまい込み、俺はリヒト様の質問に答える。
「うん、バルトル領に帰るよ」
すると、エリスがビクリと肩を揺らした。
「えっ!? レオン様、王都にいないんですか!」
「移動だけで長期休暇が終わってしまうのではないか?」
カインくんが驚くのも当然だ。王都からバルトル領までは、馬車で片道二十日。長期休暇は一ヶ月だから、どう考えてもオーバーである。
だが――!
「ふっふっふ。実は“秘密兵器”があるんだよね」
「秘密兵器? またおかしな魔法でも開発したか?」
「おかしな魔法って何!? しかも“また”って言ったよね!?」
「うるさい。胸に手を当ててよく思い出してみろ!」
(はて? おかしな魔法……? うん、心当たりがないぞ)
――俺はいつだって真面目に魔法を使ってきたはずだ……。
俺が心底不思議そうな顔をしていたからだろう。リヒト様が深々とため息をついた。
「カイン、諦めろ。レオンは自分の魔法がおかしいことに気付いていない」
「そうですね、リヒト様。こいつに何を言っても無駄でした」
「二人とも容赦ないッ……! うぅ~、僕だって反省してるよ……少しだけ」
「うむ。レオン、そういうところだ」
“少しだけ”ではダメだったようだ。そんな俺たちの会話の最中、背後から聞き慣れた声がした。
「話は聞かせてもらったっす」
「あ、ルーク先輩。久しぶりですね!」
振り向くと、そこにいたのはアルマレッタ商会のご子息、ルーク先輩だった。
「レオン様、久しぶりっす。最近のご活躍は色々聞いてるっすよ」
――悪評じゃないことを祈ります。
「それで、ルーク先輩。今日はどうしたんですか?」
「はいっす。レオン様が長期休暇にバルトル領へ帰ると聞きまして……。もしよかったら、自分も連れて行って欲しいっす」
「え? 別にいいですけど。どうして?」
ルーク先輩曰く、卒業したらバルトル領の行商は先輩が担当することになる。そこで今回の休暇を使って、領の様子を見てみたいとのことだった。
「ルーク先輩が行商に来てくれるならバルトル領も安泰ですね」
「そう言ってもらえると嬉しいっす」
ルーク先輩は照れながら頭をかいた。
「それに、これはあくまで自分の夢ですが、将来バルトル領にアルマレッタ商会の支店を出したいと思ってるっす」
「それは素晴らしい! てことは、今回は支店進出の視察も兼ねてるってことですね。大歓迎ですよ!」
こうして旅の仲間にルーク先輩も追加した。そのとき、ずっと固まっていたエリスが、ようやく再起動した。
「うぅ……長期休暇は、レオン様と王都で過ごせると思っていたのに……」
ぎゅっとスカートの裾を握りしめ、今にも泣きそうだ。
「えっと、学園が終わる十日前くらいには帰ってくるから……。そしたら、一緒に出かけようか?」
エリスは、ほんの少し潤んだ瞳でこちらを見上げた。
「ほ、本当ですか……!? ぜ、絶対……約束ですよ……?」
「うん。約束ね」
つい、ポンポンと頭を撫でてしまった。するとエリスは真っ赤になって俯く。
――ヤバい。またやってしまった……!
そんな俺たちをリヒト様がニヤニヤ見ながら、話題を戻す。
「それで、秘密兵器とは何なのだ?」
「あ、うん。実はミナミさんに頼んでおいたんだ」
「ほう。ミナミということは……魔道具か」
「そうそう。明日、学園でミナミさんと待ち合わせしてるんだ。見に来る?」
すると――。
「ミ、ミナミさんも一緒に行くんですか!?」
エリスが勢いよく顔を上げた。
「え? そうだけど……」
「ど、どうしてミナミさんと……っ」
ぐいっと距離を詰めてくる。
「エ、エリス落ち着いて! ミナミさんは魔道具の操作役で……ちょ、顔近いって!」
「どうして……教えてくれなかったんですか……っ!」
――なんで怒られてるの俺? いや、ここで言い訳したら確実に死ぬ!
「い、いや。みんなを驚かせようと思って……えっと……ごめんなさい」
エリスはぷるぷる震えながらも、少しずつ落ち着きを取り戻していった。横でカインくんがため息をつく。
「エリス嬢、落ち着け。それで明日、その魔道具が見られるんだな?」
「うん。出発前に校門でお披露目するよ。あっ、ルーク先輩も準備して集合ね」
こうして、明日の朝、ミナミさんの“秘密兵器”お披露目会を行うことになったのだった。




