第44話 美少女聖女と、鈍感系主人公
野外演習から数日。学園での生活はいつも通り平和に過ぎていた。
「結局、魔物の集落にいた人の身元って分かったのかな?」
カフェテリアで昼食をつつきながら、俺は誰にともなく呟いた。
「うん。あの後、先生に聞いてみたけど進展はないってさ」
ユウキくんが俺の呟きに反応して答えてくれる。するとカインくんが、スプーンを置きながら渋い顔をした。
「生徒に本当の事を教えるとは思えないがな……」
――確かに。情報管理とかあるだろうし。
と思っていたら、リヒト様が首を横に振った。
「いや。私も父上――国王陛下に確認したが、本当に分からないようだぞ」
「……え、国王様でも?」
「うむ」
それは不気味だ。俺たちはそろって難しい顔になる。そんな俺達を見てミナミさんが、パンッと手を叩いた。
「難しいことは大人に任せろ。そんなことより――明日は何の日だ?」
「明日? えっと、学園の休日?」
「ばっか……! レオン、バカ!」
「ひどっ! ストレートに悪口だよね!?」
抗議する俺をよそに、ユウキくんが苦笑しながら答えた。
「あはは。明日はマリアさんのスキル確認の日だよ」
マリアさん――先日の野外演習で助けた転移者の女の子。
「そうなんだ。てか、二人はなんで知ってるの?」
「そりゃ、私達も転移者だぞ。王都に戻ってから、情報交換で何度か会ってたからな」
「そうだったんですね。マリアさんは元気でしたか?」
エリスが心配すると、ユウキくんは頷いた。
「うん。魔物に襲われたショックも、ほとんどなかったよ。明日はみんなにも来て欲しいって言ってたよ」
「良いんですか。行きたいです」
「面白そうだな。皆で行ってみるか」
「そうですね。マリア嬢の様子も確認しておきたいですし」
みんな乗り気の様だ。こうして俺達は、翌日教会へ行くことになった。
* * * * * * *
翌日。
「オー! みんな来てくれたんデスね!」
教会の前で、マリアさんが満面の笑みで迎えてくれる。
「マリアさん、良かった。元気そうで」
「心配シテくれてありがとぅ、エリス!」
ぎゅっ……とエリスに抱きつく。エリスは少し困りつつ、受け止めている。
――おお、美少女二人のスキンシップ……! ありがたや~。
「こんにちは、マリアさん。今日は楽しみだね」
ユウキくんが気さくに声をかけると、マリアさんの目がキラッと輝いた。
「ハイ! どんなスキルがもらえたのか、ワクワクしてるんデス!」
マリアさんはピョコピョコと跳ねながら目を輝かせている。そんな会話を楽しみながら、俺たちは儀式を行う部屋へと向かった。そこには司祭様と神官が待っていた。
「お待ちしておりました。ではマリア様。こちらへ」
司祭様に促されて、マリアさんは壇上へと上がっていった。
「――では、これよりスキルの確認を行います」
司祭様の声が静かに響く。神官が光る水晶を掲げ、古代語の詠唱を紡ぎ始めた。部屋が静まり返る。光は大きく脈打ち、マリアさんの体を柔らかく包み込む。光が収まるとやがてゆっくりと水晶に文字が浮かび上がってきた。
「マリア様のスキルは――≪祝福の癒し手≫でございます」
司祭様は、続けてこのスキルについて語った。
「こちらのスキルは、魔王の時代の聖女様が授かったスキルとの記録があります」
マリアさんはそれを聞いてテンションMAXに。
「ワーオ!! 本物の……本物の聖女様になっちゃいまシタぁ!!」
「嬉しそうだな、マリア。そんなに聖女になりたかったのか?」
テンションの高さに驚いているミナミさんに、マリアさんは満面の笑みで返す。
「はいっ! アニメに出てくる聖女様はみんな可愛かったデス!」
――理由そこ? まあ、価値観は人それぞれか。
俺が心の中でツッコんでいると、マリアさんはタタタッと駆け寄り、抱きつく勢いでユウキくんの腕を両手でぎゅっと取った。
「ユウキ! 勇者と聖女で最強パーティーを組んで、世界を救いましょう!!」
「いいね。でもこの世界、もう魔王いないんだけどね」
「えっ!? そうなんデスか!! じゃあ、世界中を旅して、楽しいこと探すのはどうデスか!!」
「それも楽しそうだね」
「ハイ! ユウキと私の二人で、ずっと一緒に冒険しましょう!!」
「え、二人で?」
「もちろんデス。ユウキが助けてくれたあの時から私……な、何でもないデス!」
マリアさんは急いで視線を逸らし、耳まで赤くしている。
(ひゃ、ひゃー!? マリアさんが照れてる。もう完全に好きじゃんそれ!)
「ねぇカインくん。あれって……」
「あぁ。ユウキは気づいていないが……ほぼ求愛に等しいだろうな」
やっぱり!?鈍感系主人公って本当にいるんだ!
――いや主人公は“俺”だよ!? 自信ないけど……。
確かに、マリアさんを助けた時のユウキくんはカッコよかった。魔物の太刀を受け止め、倒れているマリアさんを必死に守っていた姿。その後ろ姿は、絵画か神話かって位、絵になっていた。
――あれは、たしかに誰だって惚れるわな。
ユウキくんの勇姿を思い出していると、マリアさんは突然、眩しい笑顔でこちらに振り返った。
「皆さん! これからもよろしくお願いしまス!」
聖女スキルを得たマリアさん。こうして、新たな“美少女聖女”がこの世界に爆誕したのだった。
(天使の笑顔だ! この笑顔にも落ちないとは……さすが鈍感系主人公)
――ユウキくん、ほんと気をつけて……じゃないとそのうち後ろから刺されちゃうよ。




