第43話 集落の大惨事と、黒幕の気配
翌朝。ちょっと豪華なキャンプ飯でご機嫌だった昨日から一変、俺たちは重い空気を抱えたまま、魔物の集落が見渡せる高台へと戻ってきていた。
「これはまた……すさまじい光景ですね」
アレクシス先生が、珍しく声を落として驚きをあらわにした。眼下に広がる集落には無数の魔物が倒れ伏していた。全員の視線が、じわりと俺に向けられる。
「いや~、そんなに見つめられたら照れるな~」
「照れてる場合か! それにこれは非難の視線だ」
カインくんがバッサリと切り捨てる。
「うぅ~、そんなハッキリと……! ちょっと現実逃避してただけなのに〜」
そんな俺の声は風に消え、アレクシス先生は現場に残った先生に状況を聞き始めていた。
「……それで、魔物たちの様子は?」
「は、はい。リュミナ先生たちが帰られた後も、中では魔物達が次々と苦しみながら倒れていきまして……」
説明する先生が、チラッ……と俺の方を見た。
――はい。反省してますから、そんな目でこっちを見ないでください。
「恐らく、集落の魔物は全滅かと」
「そうですか……」
アレクシス先生は俺の方へ視線を向ける。
「しかし、一晩中発動し続けるとは、すさまじい魔法ですね」
(おっ、アレクシス先生に褒められちゃった)
気を良くした俺は『エッヘン』と胸を張る。
「――ゴンッ」
「痛っ!? なんで杖で殴るんですか、リュミナ先生!」
「レオンくんが調子に乗るからですよ」
――ヒドイ! 何も殴らなくても……。
俺はリュミナ先生をジト目で見るが華麗にスルーされてしまった。
「はい、それ位で。まずは集落に入って中の状況を調べたいので、魔法の解除をお願いできますか? レオンくん」
「はい、わかりました」
指示を受け、風の障壁を解除する。
――その時の俺は何も考えていなかった。
「あっ、レオンくん、ちょっと待っ――」
ユウキくんの声が聞こえた時には、既に解除した後だった。
次の瞬間。
――ゴォオオオオオオオオッ!!
外の空気が咆哮しながら流れ込み、巨大な“風の川”が集落へ向けて一気に押し寄せる。木々は根元から内側へ折れ曲がり、小屋という小屋は一瞬で潰れ、大地がドンッと揺れた。そして破裂音が響き渡り、集落全体が白い霧に包まれた。誰もが呆然とその光景を見守るしかなかった。
――え……何これ? 爆裂魔法かな?
「……おい、レオン。今度は何をした!」
「いや、僕も分からないよ!」
カインくんに詰め寄られるが、俺は本当に何もしていない。するとユウキくんがフォローしてくれた。
「あぁ、遅かったみたいだね。多分、外と中の気圧差で、ちょっとした爆発みたいになったんじゃないかな」
皆が一斉にきょとんとした。
「気圧とはなんだ?」
リヒト様の疑問に、ユウキくんは苦笑して答える。
「うーん、説明出来ないかも……。とりあえず今回の事は、空気が薄くなった所に、外の空気が一気に流れ込んで衝撃が起きた、くらいに理解してくれたら良いかな」
「わかりました。とにかく今は魔物の確認を優先しましょう。皆さんはここで待っていてください」
そう言って先生達と騎士団の面々は、慎重に壊滅した集落の中へと入っていく。俺たちは高台で待つしかなく、時間だけが過ぎていった。
一時間ほどして、ようやく先生たちが戻ってきたが、その表情は暗い。
「どうしました?」
リヒト様が尋ねると、アレクシス先生は困り顔で答えた。
「はい。報告にあった通り、オークやオーガ、ゴブリンが共存していた形跡がありました」
俺たちは頷く。昨日、既に見ていた光景だ。
「その中に、一人……ローブを着た“人間”が倒れていまして」
「人、デスか?」
マリアさんが青ざめる。俺は昨日の記憶を思い出して口を開いた。
「あ、やっぱり。昨日見た人影は、見間違いじゃなかったんだ。……あれ? 一人だけなんですか?」
「レオンくんが見たのは、一人ではなかったのですか?」
「はい。複数いました」
「……なるほど。やはり仲間がいたのですね」
アレクシス先生が険しい表情を浮かべる。その時、ユウキくんが口を開いた。
「つまり……この異様な集落は、人の手で作られた可能性が高いってことですか?」
「断定はできませんが、恐らくは」
答えた先生の声は重い。そしてミナミさんが、さらに青い顔で言った。
「もしかして、この魔物の大群で……王都を襲う計画だったとか!?」
(それは……冗談抜きで洒落にならない)
俺含め、全員が息を呑んだ。
「なんにせよ、未然に防げて良かった。これもレオンのお陰だな」
「え、そうかなぁ~? えへへ」
リヒト様に褒められて、思わず頭をかく。
「調子にのるな。大惨事の方も忘れるなよ」
「はい。反省しています」
「……え、いや、そんな素直だと逆に怖いんだが……」
――カインくん。相変わらず良い反応をしてくれる。
俺がカインくんをからかっていると、隣でエリスが不安そうに尋ねる。
「それで……この魔物たちは、どうするんですか?」
「周囲は我々騎士団が警戒する。魔物の処理は冒険者に依頼する予定だ」
騎士団の団長らしき人が答えてくれた。
「奴らもタダで素材が手に入るんだ。喜んで引き受けるだろう」
その言葉を聞き、俺たちはようやく肩の力を抜いた。こうして後始末は大人たちに任せ、俺たちは学園へ帰ることになった。
(それにしても……)
――いったい誰が、魔物の大群で“王都を襲う計画”なんて立てたんだ?




