第42話 キャンプ飯と、師匠の“悪だくみ”
「うん、美味しいね」
「まあまあだな」
「お代わり食べたいデス」
転移者三人は、仲良くカレーを頬張っている。
(……“カレーのお肉論争”はどこへいったのかな)
俺たちは夕暮れのキャンプ地で、のんびりと“ちょっと豪華なキャンプ飯”を楽しんでいた。
「うむ。カレーとはこんなに旨いものだったか」
リヒト様が感動してスプーンを止める。
「きっと自分たちで作ったから余計美味しく感じるんだろうね」
そう言うと、カインくんも静かにうなずいた。
「レオン様、焼きリンゴにアイス乗せてもらえますか」
「オッケー。ちょっと待ってね」
――アイスは溶けないように、魔法で出した氷で冷やしておいたんだよね。便利すぎるよ、水魔法。
既にカレーを食べ終えたエリスは、デザート皿を両手に持ち、目をキラキラさせて待っていた。
「ふわぁ~……温かいと冷たいで……しあわせです~」
エリスのとろける声に釣られるように、ミナミさんとマリアさんもカレーを一気にかき込む。
「れふぉん。ふぁたふぃにも、ふぁいす」
「ちょっとミナミさん。口の中にまだ入ってるよ。アイスは逃げないから落ち着いて」
「私はちゃんと食べましたヨ。アイスください」
「お、マリアさんは偉いね。じゃあアイス大盛で」
「オー。ありがとうございマス」
「おいレオン。マリアだけズルいぞ!」
「はいはい。ミナミさんにも大盛ね」
「やったー!」
――子供か。
すると、エリスがそっと俺の袖を引っ張る。
「あ、あの……レオン様……私も……」
「しょうがないな。可愛いからエリスにもお代わりのアイスあげちゃうぞ」
「か、可愛い……」
エリスが真っ赤になって俯く。
(……エリスが照れてる……尊すぎでは?)
「レオンくん。俺もアイス大盛で!」
ユウキくんが手を挙げると、リヒト様とカインくんまで物欲しそうな目で見てくる。結局、全員アイス大盛で大満足だった。すると背後から声を掛けられた。
「まぁ、ここはレオンくんたちの班ですね」
「こんばんは、リュミナ先生」
「はいこんばんは。皆さん美味しそうですね」
「はい、美味しくできました」
「そうですか……」
「……」
無視してデザートを食べていると、リュミナ先生がじっと恨みがましい目でこちらを見ている。
「えっと、まだ何か?」
俺が聞いた瞬間、リュミナ先生は泣きそうな声で叫んだ。
「レオンくん! イジワルしないで私にもデザート下さい!」
――直球で来たな。
実は昨日、スモアを作った時から、リュミナ先生が、めちゃくちゃ欲しそうに見ていたのは気付いていた。しかしアレクシス先生が止めていたのだ。
そして今――アレクシス先生は王都。枷が外れたリュミナ先生を止められる者は誰もいない。
「先生、生徒の食べ物とったらダメですよ。アレクシス先生に怒られますよ」
俺が指摘すると、リュミナ先生はギクッとしながら答えた。
「そ、それは……だ、大丈夫です。レオンくん達が内緒にしてくれれば……」
「いや、絶対バレますよ」
「だったら……そうです! レオンくんは私の弟子なんですから、弟子のものは師匠である私のもの……!」
(どこのガキ大将かな?)
諦めた俺は、焼きリンゴとアイスを差し出す。
「しょうがないですね。……はい、どうぞ」
「ありがとうございます、レオンくん。良い弟子を持って私は幸せです」
(……うん。この笑顔には勝てない)
「かわいい弟子のレオンくんに、もう一つお願いが……昨日のデザートも食べたいんですが……」
上目づかいでおねだりしてくるリュミナ先生。
――ぐっ……これは破壊力が凄い。
「まったく。作るのでちょっと待ってください。――はい、“スモア”です。にしても、そんなに食べると太りますよ」
俺の小さな反抗は、もちろん無視された。
「ふふん。大丈夫です。何発か魔法をぶっ放せば消費されますから。それにしても美味しいです!」
「おや、美味しそうなものを食べていますね」
「はい、とっても幸せ……って、アレクシス先生!?」
声の方向を見た瞬間、リュミナ先生は固まった。そこには笑顔なのに目が笑っていないアレクシス先生が立っていた。
「それで、あなたは何故、生徒の夕飯を食べているんですか?」
その気迫に、リュミナ先生はシドロモドロになる。
「えっ、えっと……こ、これは……弟子のレオンくんが、どうしても食べてほしいと……!」
――リュミナ先生。嘘はいけないよ。
「そんな見え透いた嘘を。まあこの話は後で聞きます。それより、魔物の集落はどうなりましたか?」
アレクシス先生の後ろには、騎士団の姿があった。俺たちは集落での顛末を説明した。
「なるほど、そんなことになっていたのですね」
話を聞いたアレクシス先生は顎に手を当てて思案した。
「それでリュミナ先生は報告もせず、呑気にデザートを食べていたと……」
アレクシス先生は俺の後ろにいるリュミナ先生を見た。
「えっと、それは……そう。行き違いになってはいけないと騎士団の到着を待っていたのです」
――先生。弟子の俺を盾にするのはやめてください。
「ほ~、その割には幸せそうにデザートを食べていましたが」
「うっ!」
リュミナ先生は俺の後ろで、ビクッと肩を小さく震わせた。
「まあいいでしょう。それでは明日の朝、現場を見に行きましょう。レオンくん、すみませんが案内をお願いできますか?」
「はい、わかりました」
こうして俺達は明日の朝、騎士団と一緒に現地を確認しに行くことになったのだった。
――リュミナ先生。そろそろ俺の後ろから出てきてください。




