第41話 ちょっと豪華なキャンプ飯
ベースキャンプへ戻ってきて数分後。今、俺たちは息を飲み、ただ一点を見つめている。緊迫した空気に誰も声を発しない。ベースキャンプには暗雲が垂れ込めているような、いないような……。
皆は緊張した面持ちで“戦い”を見守っていた。魔物の大群――とかではない。
「いや、カレーには豚肉でしょ」
「何言ってるの、ユウキ。私の地元では鶏肉が普通だったぞ」
「私はビーフカリーが好きデス」
三人の転移者による激戦。“カレーのお肉論争”である。
「肉なんてどれでもいいだろうに……」
リヒト様は完全にあきれていた。うん、わかるよリヒト様。俺も同じ気持ちだ。
(これじゃあ何時までたっても調理が進まない……)
面倒くさくなった俺は、昨日のバーベキューで余った肉を全部鍋に放り込み、豪快に炒め始めた。
「ちょ、ちょっとレオンくん! なんで全部入れちゃうの?」
「ウッドホーンディアの肉まで入ってるじゃん!」
「ワーオ。お肉いっぱいで美味しそうデスね」
一人だけ喜んでる人がいるけど、気にしない。
「え~、だって余ったらもったいないし。カレーに入れちゃえばどれも同じだよ」
「バカヤロー! 肉によって味や風味が違うんだぞ!」
ミナミさんの反論を華麗にスルーし、俺はエリスに指示を出す。
「エリス、焼き色ついてきたから野菜も入れて」
「はい。……えへへ、一緒に料理するのって、なんだか楽しいですね」
――俺の隣に天使がいる!
エリスと二人でテンポよく調理を進める。ジュウッ、と肉と野菜の焼ける音が気持ちいい。
「あ~、これじゃ味のバランスがぁぁ……」
「まだ言ってるの? ほらユウキくん、ご飯炊いてきて」
ユウキくんは渋々ながら、飯盒炊飯を手にして離れていった。
「おい、レオン。私たちは何をしたらいい?」
振り返るとカインくんとリヒト様。
「じゃあ二人には、デザート作りをお願いしようかな」
「ん? 私たちでもできるのか?」
「大丈夫だよリヒト様! とっても簡単だから。ちょっと疲れるけど……」
俺は不敵に笑う。するとその顔を見てギョッとしたカインくんが鋭いツッコミを入れてきた。
「……おい、レオン。今、一瞬詐欺師みたいな顔してたぞ」
――失敬な。本当に簡単なんだから。
準備するのは、牛乳・砂糖・生クリーム。もちろん〈ル・シエル・シュクレ〉で分けてもらった最高品質だ。
――ありがとうミヤジマさん。あなたのお陰で今日も美味しいデザートが作れます。
材料を混ぜて袋に入れる。もう一つの袋には魔法で作った氷を入れて……。
「ちょっと待てレオン。なぜ氷魔法が使える?」
カインくんが驚愕している。俺は当然と言わんばかりに答えた。
「え? 僕、水魔法使えるから……」
「いや、水魔法と氷魔法は別物だろ」
リヒト様も驚いているけど……え、違うの?
「“冷たくなれ”って念じながら発動したら出来ちゃったんだけど。あ、お湯も出せるよ。便利だよね、水魔法。なんでも出るし」
「出ないぞ普通は! いや、しかし、そういうものなのか?」
「いえ、リヒト様。レオンがおかしいんです」
(うん、今日も安定の辛口カインくんだ)
よし、作業続行だ。氷の袋に塩を入れ、材料の袋も一緒に投入。しっかり布で包んで完成。
「はい、リヒト様とカインくん。これを全力で振り回して」
「……そんなことでいいのか?」
「うん、簡単でしょ。30分くらいノンストップでお願いね」
「なっ!? 休まず30分もか!?」
俺は満面の笑みで親指を立てた。
「大丈夫。二人なら出来る!!」
「くそ……覚えてろよレオン……」
カインくんに悪態をつかれてしまったが気にしてはいけない。
――美味しいデザートの為の生贄になってくれたまえ。
「私は何をしたらいいデスか?」
マリアさんが手を挙げてくれたので、ついでにミナミさんも巻き込む。
「じゃあ一緒に準備しようか。ほら、ミナミさんもサボってないで手伝って」
「え~、面倒くさいぞ」
「頑張れば、美味しいデザートが待ってるよ」
「何、デザート。仕方がない。手伝ってやる」
(うん。チョロい)
リンゴを切り、バターと砂糖でじっくり炒めるだけのお手軽デザート、“焼きリンゴ”である。甘くて香ばしい匂いがふわりと広がり、二人の表情が自然と柔らかくなっていく。
(丸ごと焼きたかったけど、アルミホイルがないからな……残念)
焼きリンゴはマリアさんとミナミさんに任せて、俺はエリスの元へ。
「エリス、カレーの具合どう?」
「とてもいい感じです。レオン様」
「じゃあ水とカレールウを入れて――はい、じっくり煮込んだら美味しいカレーの出来上がり!」
この世界、転移者が広めてくれたお陰でカレールウが普通に売っていた。
――ありがとう、名前も知らない転移者さん。
「レオンくん、ご飯炊けたよ」
「ありがとうユウキくん! じゃあ盛り付けようか!」
ユウキくんと話していると、ヘロヘロになった二人が帰還。
「おい……レオン……っ、やっと……できたぞ……」
「ご苦労様。どれどれ……お、出来てる! “アイスクリーム”!」
これで全ての料理が出揃った。白いご飯にカレーの王道コンビ。そして、焼きリンゴにアイスクリームを添えた豪華デザート。甘い香りとスパイスの香りが、夕暮れのキャンプ地にふわりと広がった。
「わぁ……美味しそうです……!」
エリスのほわっとした笑顔。
――うん、今日一番の癒やし。
「すごいな……アイスクリームって、こんな簡単に出来るのか……」
「ユウキ。簡単じゃないぞ……腕がもげるかと思った……」
カインくんの恨み節は聞かなかったことにして。
「じゃあ、食べようか」
「「いただきまーす!」」
こうして、俺たちのちょっと豪華なキャンプ飯は無事完成したのだった。




