第38話 勇者ユウキと、迷子の神官?少女
※一部に暴力表現や戦闘描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
「ガキンッ!!」
耳をつんざく金属音が静かな森に響き渡った。駆けつけた俺たちの視界に飛び込んできたのは、倒れた女性を庇い、巨大な魔物の太刀を剣で受け止めるユウキくんの姿だった。
光が差し込む木漏れ日の中、勇者の剣が魔物の一撃とぶつかり合い火花を散らす。大太刀の衝撃が地面にまで伝わるなか、ユウキくんは女性を庇って揺るがない。背中越しのそのシルエットは、何だか神秘的だった。
(なにこれ……絵画? いや神話? カッコよすぎだよ、ユウキくん)
全員が数秒ほど見惚れてしまっていた。いち早く我に返ったリヒト様が叫んだ。
「……! 俺たちも行くぞ!」
「う、うん。防御は任せて!」
俺は慌てて構えを取り、全員に向けて風魔法で防御壁を展開する。
「≪アウラ・カーテン≫!」
薄い風の膜が仲間を包み込む中、リヒト様が矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「カインとエリス嬢は後方から魔法攻撃。ミナミは……そこらへんに隠れてろ!」
「りょ、了解……っ。みんなガンバレ……!」
ミナミさんはエリスの背中に隠れながら、顔だけ出して応援している。
「おりゃーーッ!!」
ユウキくんは女性を庇いながら、次々と魔物を薙ぎ払っていた。オーク、オーガ、ゴブリン……と種類問わず攻めてくる魔物の群れを一人で抑えていた。
(すごいな勇者様……早くしないと俺達の出番なくなっちゃうよ)
「ユウキ、こちらは任せろ!」
「うん! 助かるよ、リヒト様!」
リヒト様が最前線に踊り込む。カインくんの放った≪エアカッター≫が鋭い弧を描き、オーガの巨体の脚を切り裂く。続けざまに、エリスの≪アースランス≫が地面を突き破り、三体のゴブリンをまとめて串刺しにした。俺は守りに専念し、風の障壁に魔力を注ぎ続ける。
しばらくして、ようやく森に静けさが戻った。
「大丈夫? ケガしてない?」
戦闘が終わるやいなや、ユウキくんは倒れていた女性に駆け寄った。さすが勇者様、行動が速い。
「あ、はい……助けてくれて、ありがとうゴザイマス。ところで……ここはどこデスか?」
「ここは王都近くの森だ」
カインくんの説明に、女性はさらに困惑の色を濃くする。
「王都? えっと……何かのイベント? 確かワタシ、コスプレイベントに参加してたのに……」
その言葉に、ユウキくんがぴくりと反応する。
「コスプレ……? もしかして転移者かな」
「テンイシャ……?」
詳しく話を聞くと、彼女は日本からの転移者で間違いなかった。名前はマリア・フォードさん。表情がころころ変わり、笑顔は花が咲いたように華やかな金髪、碧眼の美少女。年齢は十七歳でイギリスからの留学生。日本のアニメやマンガが大好きで、参加したコスプレイベントの最中にこの世界へ転移させられてしまったとか。
「更衣室から出たら……知らない森だったデス」
昨夜のうちに森に転移し、夜は危険と判断した彼女は、木の上で一夜を明かしたらしい。
――意外に強いなこの子。
「あ~、何か見たことあると思ったら、女の子の神官のコスプレだ」
(確かゴブリンを狩りまくるアニメのヒロインだったかな。俺も見たことある)
「解りマスか!? これはワタシの自信作なんデス!」
そう言って、マリアさんは可愛らしくポーズを決める。
――うん、可愛い……ていうか完成度高いなこの子。プロ?
「お~、似合ってるね。目線こっちにお願いします」
俺の言葉に、マリアさんは嬉しそうに角度を変えてポーズを取ってくれた。
「れ、レオン様は……こういう人が……好みなんですか……?」
「えっ!? ち、違うよ! そんなんじゃ……!」
「…………本当ですか?」
エリスの瞳が、うっすらと嫉妬の色を帯びたように揺れる。そんな目線に気圧されながら俺は全力で否定した。
「レオン、エリス嬢とイチャつくのは後だ」
リヒト様の冷静なツッコミが飛ぶ。
――いや、イチャついてないって!
「それより問題はマリアさんが“森に”転移してきた理由だね」
ユウキくんが真剣な声で言う。
「ん? どういうこと?」
俺の疑問にカインくんが補足してくれる。
「知っての通り、転移者が現れるのは、昔の勇者召喚の影響で“地球との境界が薄くなった場所”だ」
(うん、授業で習ったな)
「そして勇者召喚だが、基本的には王宮や教会で行われていた。だから転移者達が見つかるのは王宮や教会の近くなんだ」
「現に俺も転移してきた場所は王宮だったよ」
――ユウキくんは王宮に転移したんだ。正に勇者って感じだ!
「ん? じゃあなんでマリアはこんなところに転移したんだ?」
ミナミさんの疑問はもっともだ。
「そうだな。もしかしたら昔の神殿の跡地でもあるのかもしれん。う~む、少し調べてみるか」
リヒト様が顎に手を当てながら言った。その声は凛としていて“王子様”そのものだった。
「だ、大丈夫でしょうか……」
エリスが俺の上着の裾をつまみながら不安げに言った。
「危なくなったら“帰還の腕輪”で戻れるから大丈夫だよ」
俺はエリスを安心させるように答える。するとマリアさんが目がキラキラさせながら手を挙げた。
「ワタシも……一緒に行ってイイデスか?」
――お、おぉ……さっき魔物に襲われたのに……メンタル強いな。
こうして俺たちは“謎の転移地点”の理由を探るべく、さらに森の奥へと足を踏み入れることになった。しかし、俺の胸にはある不安が……。
――まさかマリアさんがこんな森に転移したのって《千客万来》さんの仕業?
(……いや、まさかね? いやでも、《千客万来》さんだし……あり得るのが怖いんだよなぁ……)
怒られたくない俺は、問題を先送りにして、何食わぬ顔でみんなの後に続き森の奥へと進んでいった。




