第33話 七年越しの“お友達作戦”
翌日。教室の片隅にて。
「えっと、今日はいい天気ですね」
「……はい」
俺は今、エリスティア・フォン・ロズヴェリア、愛称エリスと向き合っていた。
『……今日、曇ってるよな』
『もっと他に言うことあるだろレオン……』
クラスの視線がめちゃくちゃ刺さっている。これはもう完全に“公開お見合い”状態である。
(えぇい、外野がうるさい! 落ち着け俺……女の子と話すのいつぶりだ?)
――何か話題……話題……そうだ、これだ!
「あ、その髪飾り……まだ持っていてくれたんだね」
「は、はい……。その、あの時……ほめていただいて……嬉しかったので……。き、綺麗って……」
『おー、綺麗だって!』
『ヒューヒュー!』
(落ち着け外野。てか俺、五歳の時にそんなキザな台詞言ってたのか? )
──もう記憶があやふやなんだけど……。
それでもエリスは、指先をぎゅっと握りしめながら顔を赤くしていた。
(かわいいな……まぁ思い出補正ということで)
「そっか。持っててくれて嬉しいよ。僕も、あげたかいがあったよ」
するとエリスが胸の前で小さく手を握る。
(ちょっとした仕草見るだけでドキドキしちゃうんだけど、なにこれ……?)
「そ、それで……お手紙は……読んでいただけたのでしょうか……?」
「もちろん読んだよ。えっと、僕の方こそ……友達になってくれたら嬉しいかな」
ぱあっと花が開くみたいに表情が明るくなった。
「はい……! よろしくお願いします……!」
(うぐっ、これ反則じゃない? 破壊力すごいんだけど)
「そろそろいいですか、レオンくん」
「ひゃっ……!?」
振り向くとアレクシス先生は苦笑しながら俺たちを見ていた。
――絶対楽しんでたよね先生……?
「せ、先生! えっと、はい、大丈夫です……」
「では皆さんも席についてくださいね」
外野が一斉に散開し、各自の席に逃げていった。
(逃げるの早いな……!)
俺は小声でエリスに言う。
『えっと……続きは昼休みにカフェテリアで話そっか』
こくり、と控えめにうなずくエリス。
――うん。天使かな。
* * * * * * *
お昼休み。俺たちはリヒト様とカインくんと一緒に、別クラスの二人と合流すべく、カフェテリアへと移動していた。エリスは俺の横をちょこちょこと歩いてついてきていた。
(うん、何か子犬っぽいな)
「初めまして。ユウキ・アマミヤです。エリスさん、よろしくね」
「は、はい……よろしくお願いします……」
エリスは緊張しつつも礼儀正しく頭を下げる。
「ん? どうしたミナミ。さっきからぼーっとして」
カインくんが指摘した瞬間、ミナミさんが椅子をガタッと鳴らして立ち上がった。
「黒髪! ロングの! ストレート美少女きたァァァァ!!」
「ひっ……!?」
エリスが一歩引く。そりゃそうだ。
「ミナミさん、エリスがびっくりしてるから落ち着いて!!」
しかしミナミさんは聞いちゃいない。
「黒髪ロングのストレート美少女は“絶対味方”。アニメの法則! 常識! 世界の理! 聖書にも書いてある!」
(いや、どこの国の“聖書”かな!?)
「黒髪ロングは正義! 古今東西、人類の答えなんだぞ!」
「そ、そんな重大な歴史があったんですか!?」
「いや、エリス。そんなの信じちゃダメだよ……」
俺がエリスにツッコミを入れていると、リヒト様が首をかしげた。
「ん? アニメとはなんだ?」
「俺たちの世界にあった……動く絵本? かな? なんだろ……説明むずい……」
「ふむ、動く絵本か。魔道具か何かか?」
「いや、魔法じゃなくて、えっと……あー……」
――頑張れユウキくん。まぁ、無理だと思うけど……。
ユウキくんとリヒト様のやり取りの横では、何故かミナミさんがエリスに抱きついていた。
「うむ、お前とは仲良くなれそうだ。私はミナミ・カスガだ、よろしく。あ、良いにおい」
「あ、あの……えっと……よろしくお願いします……ミナミさんって、とても元気な方なんですね……!」
エリスは困りながらも、相手を傷つけまいと必死に微笑んでいた。
(気遣いが出来るエリス、大人! そしてミナミさんはおっさんみたいだな)
「ミナミさん、ほんと離れて!! エリスが困ってる!!」
「やめろ~! ってかレオン、お前なんでエリスだけ呼び捨てなんだ?」
「うっ……そ、それはエリスが呼び捨てでいいって……」
「ほほう! なんだよ初々しいなぁ〜! レオンにはもったいない彼女だな!」
ミナミさんの言葉に思わず赤面しながら叫んでしまった。
「ま、まだ彼女じゃないよ!!」
「まだ……!」
エリスの顔も真っ赤になる。リヒト様、ユウキくん、カインくんはニヤニヤしてる。
――俺も顔がやけに熱いです。
「青春じゃの~」
――うるさいよ、ミナミさん。
その後もミナミさんに散々いじられ続けた。そして放課後、俺はエリスを寮へと送っていた。
「あの……今日は、とても楽しかったです。ありがとう……ございました」
顔を赤くして、指先をぎゅっと握って。
(うわ……反則だよ! 今日の俺はエリスにやられっぱなしだ……)
「えっと……エリス、大丈夫だった? 一応あれが僕の“友達”なんだけど……」
「はい。……とても賑やかで、楽しい方たちですね」
ふわっと、柔らかい笑顔。エリスは少し緊張しながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「そ、そっか。良かった。それじゃまた明日ね、エリス」
「……はい。レオン様」
エリスは寮の扉の前で、ほんの一瞬微笑んでから、そっとスカートの裾をつまんで一礼した。その仕草が、妙に胸に残って離れなかった。
(……うん。この出会いだけは≪千客万来≫さんに感謝しかないです)
――七年越しのエリスとの“お友達作戦”は、大成功だった……よね。




