第32話 郵便屋レオンと、謎の視線
入学から数日。随分と学園生活にも慣れてきた俺は今、校舎裏に来ていた。
「あの、この手紙……」
そう、女子に呼び出されての告白イベント!
――めっちゃ学園っぽい! モテる男はつらいねぇ~。
「ユウキくんに渡してください!」
はい、俺じゃなかった。最近こんなんばっかりだ。「女子から呼び出しだー!」と喜んでいると、リヒト様かユウキくんに手紙を渡してと言われる。
――いや、こういうときこそ≪千客万来≫さんの実力を発揮するべきでは? ハーレムとまでは言わないけどさ……。
そんな俺の嘆きに≪千客万来≫さんは完全沈黙。
(うん、肝心な時に頼りにならないな……)
「あ、うん、わかった。そしたらユウキくんはこっちのカバンに入れてくれるかな……」
手紙が多すぎて、リヒト様とユウキくん用の専用カバンまで用意してしまった。女生徒は嬉しそうに手紙を入れると、あっさり去っていく。
(いや……別にお礼が欲しいわけじゃないんだけどさ……)
――?
その時、何だか視線を感じた気がした。最近よく感じるんだけど……
(あれ? なんか甘い香りが……いや気のせいか? 自意識過剰になってるのかな?)
俺はそそくさとカフェテリアへ向かった。
「はい、こっちがリヒト様で、こっちがユウキくんの分ね」
「うむ。すまんなレオン」
「いつもご苦労様」
(うぅ、労われると一層みじめになるじゃないか)
「いや、いいよ……。後、いつも言ってるけどちゃんと全部読んであげてね。返事は書かなくてもいいけど……」
「ああ、それはわかっているが、相変わらずまめだな、レオンは」
リヒト様はそう言うが、俺は断固抗議する。
「だって、一生懸命書いたのに見てもらえなかったら悲しいじゃん!」
「うん、ちゃんと読んでるよ。まぁ俺の手紙は感謝の手紙が多いけどね」
(くそぉ~、モテモテユウキくんめ!)
――それは女の子が直球で“好き”って書けないだけだぞ。
「はっはっは。リヒト様もユウキも自分がモテる自覚があまりないからな。大変だなレオンも」
「うぇ~ん、俺の味方はカインくんだけだよ。モテないもの同士仲良くしよ」
俺はカインくんに抱き着こうとして片手で制される。
「ひっつくな。って誰がモテないだ。私だって手紙くらいもらっているぞ」
そう言うカインくんは懐から手紙の束を取り出した。
「くそぉ~、カインくんの裏切り者!」
――?
とその時またしても視線を感じたような。そんな俺の様子にリヒト様が怪訝な顔をした。
「どうしたレオン?」
「いや、最近誰かの視線を感じるんだよね」
すると三人は生暖かい目で俺を見てきた。
「レオンくん、大丈夫だよ。きっといい人が見つかるさ」
「そうだぞ。レオンだって顔だけは良いって言われてるんだから」
「ちょっと、ユウキくんもカインくんもひどくない? 妄想じゃないよ。本当に視線が……」
「私はわかっているぞ、レオン。……お前は疲れているのだろう。少し休んだらどうだ?」
(リヒト様も全然信じてない。いや、本当に勘違いなのかな……)
3人に心配されつつ、その日はお開きになった。数日後、相変わらず俺は女生徒に手紙を渡されていた。リヒト様とユウキくんへの手紙を……。
「はい、じゃあこのカバンに入れてね」
この作業も慣れたものだ。するとまた女生徒が近づいて来た。
「あ、あの、レオン様。この手紙……」
「はいはい、じゃあこのカバンに入れてね」
「……はい」
俺の郵便屋さん生活は当分続きそうである。
「はい、じゃあ今日も手紙渡すね」
俺はいつものカフェテラスでリヒト様とユウキくんに手紙を渡していた。
「あぁ、いつもすまんな。ん? レオン。この手紙はレオン宛だぞ」
――!
「な、なんですって。は、本当だ! え? いつ? いや誰が?」
「落ち着いて、レオンくん。とりあえず読んでみたら?」
ユウキくんになだめられつつ、手紙を開くと――
* * * * * * *
拝啓。
お久しぶりです。レオン様。
王宮の晩餐会で助けて頂いてありがとうございました。あの時頂いた髪飾りは私の宝物です。
学園で再開し、同じクラスになれたのに
緊張して中々話しかけることが出来ず
お手紙を書きました。
良かったら私とお友達になってください。
エリスティア・フォン・ロズヴェリア
* * * * * * *
本当に俺宛の手紙だった。
「やるね、レオンくん。女の子を助けてあげるなんて」
俺がニマニマしてると隣で手紙を覗き込んでたユウキくんが言った。
「ロズヴェリアと言ったら侯爵家の令嬢だな? 確か、代々“土属性の名門”だったはずだ」
「レオン、あの晩餐会で何かあったのか?」
カインくんは思案し、リヒト様は俺に聞いてくるが、心当たりがない。
「はて、女の子なんて助けたっけ?」
すると三人はドン引きである。
「レオンくん、それはひどいよ」
「覚えてないのか。さすがにエリスティア嬢がかわいそうだぞ」
ユウキくんとカインくんに言われたが、俺には本当に記憶がない。
「よし、今日中に思い出して、明日教室でエリスティア嬢に話しかけろ。これは王族命令だ」
「あ、はい。頑張ります」
こうして俺は必死に7年前の出来事を思い出すことになるのであった。
――いや、ほんと誰? ……待てよ。髪飾りってもしかして……




