第3話 落ち込んでなんかいられない!
儀式が終わって数時間。俺は教会の中庭のベンチに座り、しょんぼりと空を見上げていた。
「人が集まるスキル、かぁ……」
領地運営に役立つかも!――なんて言われたけど、“善き者も、そうでない者も”ってどう考えても不穏じゃない?災厄とか呼び寄せたらどうすんのさ俺。
「坊ちゃま……いつまで呆けているんですか? 落ち込みすぎですよ、旦那様方もあきれて先にお帰りになりましたよ」
アンナが困ったように笑う。
「スキルなんて使い方次第ですよ? せっかく神様からもらったのですから」
「うーん……そう、だよな。落ち込んでても仕方ないか」
彼女の言葉で、少しだけ気持ちが前を向いた。
(よし、せっかく授かったスキルだ。とにかく使いこなせるようにならないとな)
俺は決意も新たに拳を握るのだった。
「どうやら元気になられたようですね、良かったです。」
「うん、アンナもありがと」
「いえいえ、とんでもないです。それに坊ちゃまにはスキルだけじゃなくて魔法の才能もあったのですから自信を持ってください」
そうスキル授与の後に行われた魔法の適性属性や魔力量測定の結果、俺の使える属性は“風”と“水”の二つ、まあ知ってたけど。
その時に「属性が2つも……」とか「魔力量が……」とか聞こえたような気がしたけど絶賛、落ち込み&混乱の真っ最中だったためよく覚えてないや。うん、まぁ大丈夫でしょ。
「そうだね、じゃあ帰ろうか」
「はい、坊ちゃま」
(勇者ルートは無くなったけど、ワンチャン大賢者や大魔導士ルートに入るかもしれないしな、そう考えたら元気出てきたかも。)
「よーし、明日からがんばるぞー」
「おー」
そんなことをアンナと話しながら俺は屋敷へ戻ることにした。
* * * * * * *
数日後。
「おはようございます、坊ちゃま」
「うん、アンナおはよ」
あれからスキルの検証を行ってみたがその結果はさんざんだった。
大声で叫んでみたり――
『千客万来!』
(恥ずかしすぎて死ぬかと思った)
頭の中で念じてみたり――
(千客万来、千客万来、誰かいい人来い!いいひと来い!)
(SSR来い、SSR来い、あーまた低レアか、くそぉ、また食費削らなきゃ……)
と、何故か途中から昔やってたソシャゲのガチャと
キツイ極貧生活(自業自得だけども)の思い出とがごっちゃになりながらうんうん唸っていたら
「……ちゃま、坊ちゃま、大丈夫ですか?」
とアンナに呼びかけながら肩をぐゎんぐゎん揺すられたりしたが結局スキルに関してはよくわからなかった。
(やっぱりそう簡単にはいかないよね、まぁ気長にやるか)
「坊ちゃま、朝食の準備が出来てましたよ」
「ありがとうアンナ、今行くね」
朝食のテーブルには、いつものように父上と母上が並んで座っていた。食卓には焼きたてのパンとスープ。平和そのものの光景だ。
――が。
「さて、レオン。今日からお前にも“貴族としての務め”を学んでもらう」
「……え?」
父上がパンをちぎりながら淡々と告げる。
「レオンももう五歳、基礎教育を始めるには良い頃合いだ。領地運営の初歩、礼儀作法、戦術学、経済の基礎……」
「え、経済ってお金のやつ? 五歳で!?」
「もちろん剣術と魔法の修練もだ」
「ひ、ひぃ……」
母上が優しく微笑みながら紅茶を口にする。
「心配いりませんよ、レオン。貴族の子は皆この歳で学び始めます。あなたならきっと立派に務めを果たせるでしょう」
「は、はい……」
「それと、剣術は私自ら稽古をつけてやろう。」
「え、父上がですか、大丈夫ですか」
「うん? あぁ、もちろんだ。これでも“剣聖”だからな。王国一の剣士にしてやるぞ」
(いやそういう事じゃないんだけど、あぁ、短い命だったわ~)
遠い目をしている俺に無情にも死刑宣告が告げられてしまった。
「よし、それでは明日の朝からさっそく稽古を始めよう」
「はい、よろしくお願いします、父上」
「うむ、それからこの後家庭教師を紹介するから用意しておくようにな」
そっか~、稽古のほかに勉強もあったんだよな。5歳から勉強って、貴族も大変だな~
「坊ちゃま、先生がいらっしゃいましたよ」
アンナの声で顔を上げると、部屋の前には見慣れない人物が立っていた。
年の頃は三十代半ば。濃紺のスーツのような上着に銀縁の眼鏡、きっちり七三分け。背筋は伸びているが、どこか独特の圧を感じる。
「お初にお目にかかります。新しくレオン様の教育を担当いたします、アレクシス・ハートマンと申します。」
低くよく通る声。動作の一つ一つが完璧に整っている。
(おお……いかにも“有能教師”って感じだな)
「アレクシス殿は、王都の学院でも礼儀作法と政治・経済学を教えていた方だ」
父上が満足そうに頷く。
「戦略・経済・礼儀、そして実務の全てに通じた人物だぞ」
「まぁ、それは頼もしいですね」
母上も微笑む。
「恐縮です。では、早速授業を始めましょう――レオン様」
「は、はいっ!」
その笑顔がやたら爽やかだったのに、目だけが一切笑っていなかった。
(こわ。大丈夫かなこの人)
「ではまず、領主として最も大切な心得から」
アレクシス先生はそう言うと黒板代わりの板に数式を書き始めた。
「経済とは、“物と人の流れ”の学問です。領主たる者、民の流れを理解しなければならない。」
(ふむふむ、なるほど、なんか学校の社会の授業っぽいな……)
「そして“人を惹きつける”力を持つあなたには、最も必要な知識でしょう」
ピタリと視線が俺に向く。
(うわ、スキルのこと知ってる!?)
「な、なんでスキルの事を……」
「ええ、噂で聞きましたとも。《千客万来》――実に興味深いですね」
先生がわずかに笑った。笑顔なのに、なぜか背中が寒い。
(……なんだろう、あの目。まるで、俺のスキルの中身を覗いてるみたいだ)
先生と目が合ったが、俺は怖くてぱっと目をそらした。
(まぁ不安だけど、勉強は頑張るしかないよな)
こうしてアレクシス先生による勉強が開始されたのだった。




