第24話 王都への旅路再び
秋の朝。
俺は、王都へ向かう馬車に揺られていた。
外の風は少しひんやりしているが、肌を刺すような寒さではない。木々は赤や黄色に色づき、馬車が走るたび落ち葉がふわりと舞い上がった。
今回は父上ではなく――母上が同行している。それにアンナ、ノアくん。護衛の騎士が四名。
……メンバー全員の視線が母上に吸い寄せられているのは気のせいではない。
(まあ、なんというか……母上の“やる気”がすごいんだよな)
母上は“とある理由”で、この旅に異様な熱気を放っているのだ。
そもそも、なぜ俺たちは王都に向かっているのか?それは数日前にさかのぼる。
* * * * * * *
「学園の入学試験ですか?」
王都襲撃事件から六年。俺は相変わらず、地味に忙しい日々を送っていた。早朝は父上、そして最近は騎士たちとの剣術鍛錬。
「一人とだけ手合わせすると剣筋が偏る」
という父上の言葉を受け、相手は日替わり制になった。……おかげで毎朝ボロボロである。
けれど、六年前の俺なら絶対ついていけなかっただろうな、と思う。気づけばちゃんと強くなっている。
そんな毎朝を過ごしながら、午前はリュミナ先生の魔法修行。午後はアレクシス先生の座学。
――うん、この六年、ほぼ変化なかったな……
そんなマンネリすれすれな日々の中、父上は夕食の席で告げた。
「そうだ。学園の入学試験が王都で行われる」
「確か貴族は学園に通う決まりなのですよね? それなのに試験?」
「ああ、これはクラス分けのための試験だな」
――きた、ラノベでお馴染みの“優秀者はSクラス”パターン!
「わかりました。今回も父上が同行してくださるのですか?」
「いや、今回は私は同行できないので護衛だけで……」
「今回は私が同行します!」
父上の言葉をばっさり切り捨て、母上が言った。
「母上がですか?」
「ええ、今回レオンの試験日程に合わせて、王都で重要なイベントがあるのです」
「イベント?」
「はい、それは――王都でケーキ職人の修行を行っている孤児たちの卒業試験です!」
そう、あの時の褒美。
晩餐会襲撃事件の後、王都でケーキ職人見習いとして学べる許可をもらったのだ。彼らもついに卒業か。六年……長かったような、あっという間のような……
「そうなんですね……いや、なんで母上が知ってるんですか!」
「もちろん、何かあれば私に連絡を入れるよう言っておいたからです」
――さすが母上。スイーツに対する執念がすごい!
「そして、私が卒業試験の特別審査委員として招かれているのです」
うん。絶対ケーキ食べたかっただけだ。
「……母上、前も言いましたが食べすぎると太り――」
――あ、やばっ、言っちゃった!!
『むにゅ~~』
俺の頬が、母上の白く美しい指により容赦なく引き延ばされた。
「レオン。母は太りません……“永遠に”です。いいですね?」
「ふぁい!!」
「よろしい。では王都でしっかり審査しましょうね」
……俺も審査するらしい。まあいいけど。
* * * * * * *
俺たちが王都へ向かう“理由”、それは
――ケーキの審査をするためである。
「よし、厳正にケーキの審査をしなくては!」
「いや若様。ケーキは“ついで”で、あくまで目的は学園の試験ですよ」
ノアくんが冷静に突っ込む。
「何を言ってるんだいノアくん。学園の試験なんてついでだよ、ついで!大事なのは優秀なケーキ職人がバルトル領に来ることなんだよ……ねぇ母上」
「そうですよ、ノアくん。ケーキに比べたら些事です」
(さすが母上、言い切り方が潔い……!)
「はぁ……なんか昔にも同じやり取りをした気が……いえ、確実にしましたよね……」
ノアくんが何か言っているが気にしてはいけない。そんな他愛のない会話をしていると――突然、馬車が“ギュッ”と急停止した。
「うわっ!? な、なんだ!」
思わず体が前に傾く。するとすぐ、馬車の外から護衛の騎士の声が響いた。
「皆様、落ち着いてください! 野生の魔物が出ました。直ぐ処理しますので、このままお待ちを!」
――魔物? 街道に出るとは珍しい。まぁ街道は森から離れてるし、出ても弱いホーンラビットとかゴブリンくらいかな?
(試験前の肩慣らしにはちょうどいいかも……)
うん、暇つぶしに――いや、実戦練習も兼ねて行ってみよう。
「母上、ちょっと退屈なので俺も行ってきますね」
するとアンナが慌てて前に出た。
「坊ちゃま、魔物との闘いなんて未経験ですよね? だ、大丈夫なんですかっ?」
「平気、平気。僕だって父上から剣、リュミナ先生から魔法を習って強くなってるんだから」
そう言いながら俺は馬車を飛び出した。
――この時は、完全になめていた。魔物を……ではない。
≪千客万来≫さんの力を、だ。
(さて、魔物はどこかな……)
そう思って周囲をキョロキョロしていた――その瞬間。
ズドォォン!!
横から巨大な影が飛び出し、俺の体を思いっきり吹き飛ばした!
「坊ちゃまーーー!!」
アンナの叫びが響く。
(いや、危なっ……! 油断大敵ってこういうことだよね!?)
一瞬、本気で“死んだ”と思ったが俺は無傷だ。とっさに風魔法の防御壁――≪アウラ・カーテン≫を展開し、直撃を回避したのだ。追撃しようと突っ込んできた魔物に、すぐさま反撃。
「いけ、ピーちゃん! ≪バードストライク≫!」
俺の掌から飛び出した水の鳥――通称ピーちゃんが一直線に魔物へ突撃し、その顎にクリーンヒット。魔物は地面に転がり、動かなくなった。そこにいたのは、体長二メートル近い巨大な猪の魔物。
「……なんで街道にキングボアが?」
倒れたキングボアの横で、風にあおられた赤い落ち葉がひらひらと舞っていた。本来このあたりに出るような魔物じゃない。もっと森の奥に生息してるはずなんだけど――賢い俺はピンと来た。
(あぁ……またですか、≪千客万来≫さん。呼んでないのに勝手に……)
自分のスキルに苦情を言いながら馬車に戻っていると――
「レオン!!」
母上が真っ青な顔で駆け寄ってくる。
「坊ちゃま!!」
アンナは泣きそうな顔で叫びながら飛んできた。
(おっと、これは魔物を倒した英雄にご褒美かな……モテる男はつらいね)
そう思って、両手を広げハグを待っていると、
ゴスッ! ゴスッ!
二人からゲンコツが飛んできた。
「痛い! なぜ?」
「なぜ? じゃありません」
「そうですよ、坊ちゃま。無茶しないでください」
二人にメチャクチャ怒られた。
――はい、心配かけてごめんなさい!
こうして平和? な馬車の旅は続き、落ち葉舞う王都への道を、ゆっくりと進んでいくのであった。




