第23話 晩餐会襲撃事件の真実
※一部に暴力表現や戦闘描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
――Side:レオン視点
突然、晩餐会場の扉が乱暴に開かれ、見知らぬ男たちが雪崩れ込んできた。
(え? 何かのイベントか? ていうか俺そろそろ食事しようと思ってたんだけど……)
状況を理解する前に、リヒト王子が勇ましく前に出た。
「なんだ、貴様たちは! ここがどこだかわかっているのか!」
――おぉ、さすが王族。いきなりのハプニングにも堂々としてる。
「ここは俺たちが占拠した! 大人しくしろ!」
はい、速攻で無視されてしまったね。ドンマイ、リヒト殿下。
俺がそんなことを思っていたら、男が苛立ったように指を鳴らした。
「静かにしろって言ってんだろうが!」
ぼん、と重い音が響く。男の魔法で生まれた石礫がテーブルに叩きつけられ、料理が粉々に砕け散った。その光景に、会場が凍りつく。そんな中――俺は別の意味で固まっていた。
――!
(な、なんてことを! 食事もケーキもまだ一口も食べてなかったのに!!)
絶望している俺の目に、一筋の希望の光が差した。
(あ、あれは……チョコレートケーキ!)
ほぼ全滅した料理のなか、奇跡的に無事だったようだ。く、神はいた……!
しかし、男たちがさらに攻撃しようとしている。
(唯一残った俺の希望を狙うとは……絶対許さん!)
「《アウラ・カーテン》!」
俺は慌ててテーブル周囲に風の壁を展開した。
――俺のチョコレートケーキには指一本触れさせないぞ!
更に続けて水魔法で作った鳥、通称ピーちゃんを数羽発動。
「≪バードストライク≫!」
ピーちゃんは男達の顔面に直撃し、そのまま敵を吹き飛ばした。
――わっはっはっは! ざまぁみろ~。
「よし、もう一度!いけっ、ピーちゃん!」
連続で≪バードストライク≫を叩き込み、敵を次々と撃退していく。
「くそ、なんだあのガキは……って、おい。あいつの後ろ……」
空気がピリッと張り詰め、男たちの殺気が一気にこちらへ向く。すると男たちがこちらに走り寄ってきた。
(あっ……先頭のあいつ、俺の料理全部吹き飛ばした張本人じゃないか……!)
俺はその男の前に躍り出ると、大きく息を吸い――。
「《アウラ・ナックル》!」
風で作った拳をそのまま顔面へ!
「ぐわあっ!」
ごふっと鈍い音がして、男が壁に叩きつけられた。
(ふっふっふ。どうだ。食べ物の恨みは怖いのだ……!)
仕上げとばかりに残りの敵にピーちゃんを突撃させると、会場にはもう立つ敵はいなくなっていた。
気が抜けた俺は周りを見渡し――固まる。
調度品はなぎ倒され、壁には穴があき、テーブルは無残そのもの。ここがさっきまで優雅なパーティー会場だったとは誰も信じないだろう。
(ど、どど、どうしよう……これ。やりすぎてしまったかも……!)
やばい。チョコレートケーキのために暴れたなんてバレたら怒られる!――どう誤魔化そう……
頭を抱えて悩む俺。ふと振り返ると、そこにはリヒト王子が立っていた。
――そうだ、王子を守るために戦ったってことにしよう!
さりげなく王子の方へ寄り、心配している風を装い声をかける。
「殿下。お怪我はありませんか?」
「あ、ああ……大丈夫だ。これはお前……がやったのか?」
――王子、怒ってる? 怒ってるよね? そりゃ怒るよね!?
「え、えぇ……その……あまり大事にしたくないのですが……」
できる限り控えめに言ってみた。
――怒らないでください。お願いします。
そんな俺の願いもむなしく、王子は何も言わずじっと周囲を見回している。
(あぁ~! 絶対許してもらえないやつだ~!)
そんなことを考えていると衛兵が駆け込んできた。
「殿下!ご無事ですか! すぐに避難を!」
「ああ、わかった……レオン、カイン、行くぞ」
促されて避難しようとしたとき――俺はテーブルの方へ目を向けた。
(あぁ……俺のチョコレートケーキ……。せめて一口だけでも……)
未練がましくケーキを見ていた俺にリヒト王子が声をかけてきた。
「レオン、あれは……仕方あるまい。今は避難を優先するぞ」
――あ、王子も食べたかったのか。
なんか……仲間意識が芽生えたかも。
(王子も我慢してる……そうだよな。俺だけケーキ優先しちゃダメだよな……)
「……そうですね。行きましょう」
泣く泣く、俺はチョコレートケーキをあきらめて会場を後にしたのだった。
――うぅ~、俺のチョコレートケーキ……
* * * * * * *
翌日。
広い部屋。高い天井。絨毯はフカフカ。目の前には――王様。
俺は今、王城の謁見の間で跪いていた。背筋を伸ばし、微動だにしない。その佇まいは、五歳児には見えないほど堂々としている。
そして俺は必死で考えていた。
――そう、いかにして昨日の惨状をごまかすかを!
(あぁ~、やっぱ怒られるのかなぁ? 壁とか調度品壊したし、テーブル粉々にしたし……いやアレは俺じゃないか。)
そんな俺の必死な内心を余所に王様が口を開いた。
「さて、レオンよ。此度はよくやってくれた……」
(てかそうだよ。悪いのはアイツらだよ! 俺のケーキ吹き飛ばしたし!)
「……よって褒美をとらせよう。何か欲しいものは――」
「はぁ~、俺のケーキ……」
「ん? 今ケーキと言ったか?」
あ、やばい。俺の独り言、王様に聞かれちゃった。どうしよう――てかあれ? ……今、褒美って言った? 何でだ……?
え、待って褒美? 何かもらえるの? ある。あるある。めっちゃある。
俺は混乱しながらも背筋を伸ばし、必死に考えた末――優雅で気品ある姿で願いを口にした。
「はい。領民や母上のために、我が領でもケーキが気軽に食べられるようにしたいと考えています」
「ふむ。しかし王都から辺境伯領までは二十日はかかる。そうなると運搬は困難で、気軽には食せないのではないか?」
「そうなのです。そこで、我が領でもケーキ職人の育成をと考えております」
「なるほど、それで?」
「我が領の料理スキル持ちを数人、王都のケーキ店で修行させていただき、その後、我が領でケーキ販売の許可をいただけませんでしょうか?」
――うん。これは我ながら完璧な作戦では?
「なるほど。販売許可は店主に確認してもらうことになるが、修行の件は私の紹介があれば問題ないだろう。――しかし、そんなことで良いのか?」
「はい。領民に喜んでもらうことこそが、貴族としての責務ですから」
……と、それっぽいことを言ってみた。
「なんと。あい分かった。ではそのように取り計らおう」
「ありがたき幸せです」
こうして俺は――見事、ケーキ職人を手に入れる未来を確定させたのだった。
謁見が終わったあと、リヒト王子が駆け寄ってきた。
「レオンよ! 領民のために行動できるとは、お前はなんと素晴らしい精神の持ち主なのだ!」
目がキラキラしている。昨日より五割増しで眩しい。
(ん?なんか昨日と反応違わない?
晩餐会のときはあんなに噛みついてきたのに……)
「私もお前を見習って、これから精進することにするぞ!」
――あ、はい。頑張ってください。
俺は心の中でリヒト王子にエールを送るのであった。
* * * * * * *
――Side:???視点
(くそっ、レオンめ。またしても私の計画を邪魔しやがって……)
本来なら、今回の晩餐会襲撃でリヒト王子を誘拐し混乱した所を、帝国寄りの貴族たちを扇動し、王国の中枢を掌握するはずだったのに。
それを、またもやレオンが邪魔をした。
奴には、帝国に送るはずだった奴隷を解放されたこともある。忌々しい。あいつは何故こうも私の計画の邪魔をする……!
それと帝国の野蛮人どもだ。王子は生かして誘拐しろと命じていたはずなのに、殺そうとするとは……
(まあいい。焦る必要はないだろう)
――今の私はこの国の高位貴族だ。
そして、いずれこの世界の支配者となるのは、神に選ばれた“転生者”であるこの私なのだ。
* * * * * * *
そう言えば今回≪千客万来≫さんは何を引き寄せたのかな?ケーキ……じゃないよな?
――≪千客万来≫は、俺の知らぬところで勝手に動いていた。王子との縁と、どこかの誰かの恨みという特大のトラブルをしっかり引き寄せて。




