第22話 わがまま王子と、晩餐会襲撃事件
※一部に暴力表現や戦闘描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
お友達作戦を諦めた俺は、晩餐会の食事とデザートを堪能することにした。
(まずは美味しそうな食事からだな……)
「おい、お前。まだ私への挨拶が……!」
(でもケーキの為に控えておかないと、後で苦しくなるか……)
「貴様。聞いているのか……!」
(よし、ここはケーキを優先して……ってなんかうるさいな)
ふと顔を上げると、目の前でぷりぷり怒っている美少年が立っていた。
「えっと、もしかして僕ですか?」
「もしかしなくてもお前だ。なぜ私に挨拶に来ない!」
目の前の少年は真っ赤な顔で怒りを露わにしている。隣にいる男の子も眉をひそめている。
(う~ん、誰だ……? でもここで『誰ですか』なんて聞いたら、さらに怒らせちゃうかも……)
「えーと、はいはい、あ、わかった! あれだ……昔近所に住んでたユウタくんだ!」
「そうそう、久しぶり……って違うわ! 誰だユウタって!」
「えっと……僕の空想上のお友達です」
「空想上って……貴様、それで誤魔化せると思っていたのか!」
――うん、この子、いいツッコミするな。
「殿下、落ち着いてください」
隣の少年が、息を上げてぷはぷは言っている彼をなだめている。
(ん?“殿下”?)
「もしかして、リヒト殿下ですか……?」
「貴様、今気づいたのか!」
「なんて無礼な奴だ!」
リヒト殿下は怒りで全身が震え、隣の少年は目を見開いて驚いている。どうやら王子様だったらしい。
(……なるほど、全く気づかなかった。とりあえず挨拶しておくか)
「お初にお目にかかります。バルトル辺境伯家の嫡男、レオン・フォン・バルトルです」
「うむ、リヒト・フォン・アルトリウスである……って違う、なぜ私のこと知らないのだ! 乾杯の挨拶をしただろう!」
(えぇ~、だってケーキしか見てなかったし……でも挨拶はちゃんとしたんだから、いいじゃん!)
「まあまあ落ち着いてください。それで、殿下。こちらは?」
隣の少年に目をやると、彼も自己紹介をしてくれた。
「ん、あぁ、私は……公爵家の3男・カイン・フォン・ヴァルデンだ」
「これはカイン様。以後お見知りおきを」
「貴様、王族である私を無視するとはどういう了見だ! 今すぐ正座して謝れ!」
リヒト殿下は地団駄を踏み、悔しそうに目を見開いた。
――どうやらリヒト殿下はかまってちゃんタイプのようだ。
「落ち着いて下さい殿下。所詮は田舎貴族です。
こんなやつとこれ以上関わることはないですよ」
「うむ、そうだな……まったく無駄な時間だった」
――えぇ~、そんなぁ。そっちから話しかけてきたのに……
と、その時。――バンッ!
突然、大きな音とともに扉が開き、見知らぬ男たちが押し入ってきた。
* * * * * * *
――Side:リヒト王子視点
無礼者レオンと話していたその時だった。
――バンッ!
突然、晩餐会場の扉が乱暴に開かれ見知らぬ男たちが踏み込んできた。嬉々としていた子どもたちのざわめきが、一瞬で凍りつく。
空気が、変わった。
私は反射的に足を踏み出そうとしたが、その一歩を恐怖が絡め取った。
「なんだ、貴様たちは! ここがどこだかわかっているのか!」
辛うじて発した私の叫びを無視し、男の一人が怒声を上げた。
「ここは俺たちが占拠した!大人しくしろ!」
その瞬間、子供たちの怯えた声が弾けた。すると男は苛立ったように指を鳴らし、魔力を収束させる。
「静かにしろって言ってんだろうが!」
ぼん、と重い音が響く。奴の作り出した石礫がテーブルに叩きつけられ、料理ごと粉々に砕け散った。子供たちは声を呑み、震えながら身を寄せ合った。
「よし、お前ら。リヒト王子を探せ!」
――!
まさか、こいつらの目的は私か!
「ガキども! 王子の居場所を言え!」
男たちはテーブル近くの子供達に手を伸ばそうとしている。
くそ……どうする?
(逃げたい。だが逃げれば、私は“王族”ではなくなる)
――それなのに……どうして足が震えるんだ。しっかりしろ!
葛藤で足がすくむ。そんな時だった。
「な、なんだこれは!? 攻撃が……弾かれるだと!?」
男たちの叫びが耳に飛び込む。薄く光の筋が走る透明な壁が、刃を弾き返していた。
(あれは……魔法の結界か?しかし誰が……?)
思案していると、犯人たちの方向へ何かが向かっていった。
「ぐわっ!」
男が数人吹き飛んだ。
「よし、もう一度だ。いけっ、ピーちゃん!」
その声に、私は思わずそちらを見た。
「……レオン、なのか?」
聞き間違いでなければ、叫んでいるのはレオンだった。腕を振りかぶり、何か小さな鳥のような魔法生物を飛ばしている。
(まさか……魔法の結界もレオンが?)
「くそ、なんだあのガキは……って、おい。あいつの後ろ……」
男の顔色が変わる。
「リヒト王子じゃねぇか!」
まずい、見つかった!どうする――逃げるのか? 戦うのか?
どちらも選べず立ち尽くしていると、男の影が私の眼前に迫った。
「死んでもらうぞ、リヒト王子!」
刃が振り上げられる。恐怖で喉が詰まり、一歩も動けない。
(だ、だめだ……)
視界が白く揺れた――そのとき。私の前へ、小さな影が飛び込んできた。
「レオン……!」
――奴が……この私をかばった?
レオンは、わずかに息を吸い込むと小さな拳を男へと向けた。
無理だ。そんなもので届くはずがない。
子供の拳では――!
「逃げろ、レオン!!」
私の声もむなしく、男の剣が降り下ろされる。
その瞬間。
「《アウラ・ナックル》!」
空気が爆ぜる音がした。レオンの拳から放たれた“何か”が男を弾き飛ばし、壁に叩きつけた。
「ぐわあっ!」
気づけば、会場内に立っている敵はひとりもいなかった。私は呆然と立ち尽くした。
「殿下。お怪我はありませんか?」
レオンが心配そうに覗き込んでくる。
「あ、ああ……大丈夫だ。これはお前……がやったのか?」
「え、えぇ。あの……、あまり大事にしたくないのですが……」
なんということだ。全て一人で解決してしまったのか?しかも、この状況で謙虚さを忘れないとは……。
――それに比べて私は……。
あの時、私は何をした?何もできなかった。王族として、何一つ。
足は震え、ただ立ち尽くすことしか出来ない“守られるだけのただの子ども”だった。
そのとき、衛兵たちが駆け込んできた。
「殿下! ご無事ですか! すぐに避難を!」
「ああ、わかった……レオン、カイン、行くぞ」
避難しようとしたとき、レオンはふいにテーブルの方へ目を向けた。その表情が、静かに曇る。
つられるように視線を移すと、赤く染まったクロスと傷を負った子供が目に入った。どうやら最初の石礫の衝撃で怪我をしたようだ。
「レオン、あれは……仕方あるまい。今は避難を優先するぞ」
「……そうですね。行きましょう」
うなずいたレオンの肩は、わずかに震えていた。
――まるで、自分を責めているように。
ああ、そうか。
レオンは、この場にいた全員を守ろうとしていたのだ。その姿は――正に“英雄”!
では、私は……
この“英雄”の隣に立つにふさわしい王族なのだろうか?
その問いは、後に行われた“王とレオンの謁見”でさらに重く、深く、私の胸へ突き刺さることになる――。




