第21話 ボッチな俺と、晩餐会での出会い
「はぁ~、行きたくないなぁ……」
俺は煌びやかな衣装を着せられ、馬車のクッションに沈み込みながら窓の外の王城を眺めていた。夜の王城はライトアップされて宝石みたいに輝いているけど……俺の心は真っ暗だ。
「若様、ここまで来てしまったんですから、覚悟を決めてください」
隣に座るノアくんが、俺の肩をぽんと叩きながら言う。うん、励ましてくれてるのは分かる。分かるけど……!
「一人で晩餐会に出席するなんて聞いてないし! 父上と一緒だと思ってたのに!?」
そう、今回の晩餐会は、同年代の子たちとの顔合わせが目的。なので大人と子供は別で社交を行うらしい。
「大丈夫ですよ、お友達のいない若様にも、きっと良い出会いがありますって」
――ノアくんの無自覚の言葉の暴力が痛い!!
「酷いよノアくん!俺にだって友達の一人や二人――」
……あれ?
よく考えたら俺、同年代の友達……いない……?もしかして俺って……ボッチなのか……?
「いや、ボッチじゃないやい!!」
思わず自分で自分にツッコミを入れる。するとノアくんは苦笑した。
「ボッチ? まあ……今回の晩餐会で、たくさんお友達を作ればいいじゃないですか」
「う、うん。そうだね……ありがとうノアくん。よし、がんばるぞ……!」
そんな決意を胸に、俺たちは王城へと足を踏み入れた。
晩餐会の会場は、キラキラと輝く豪華絢爛な部屋だった。俺と同じ年の子供たちが集まり、華やかな衣装に身を包んで談笑している。そして部屋の一角には、色鮮やかな料理とデザートがずらり。
そこには――
(ケーキがある……!)
ショートケーキにタルト、チーズケーキ、そして何とチョコレートケーキまで。カカオの加工は手間がかかるのに……!転移者様ありがとう!!
(全種類制覇してみせる……!)
心の中で拳を握っていると、会場に声が響いた。
「これより殿下の挨拶がございます。皆様、飲み物をお受け取りください」
配膳係のお兄さんから小さなグラスを受け取り、待つ。やがて紹介されたのは――
「第三王子、リヒト・フォン・アルトリウス殿下。お願いいたします」
(あ、王子様も同い年なんだっけ。アレクシス先生が言ってたような)
だが俺の視線は王子ではなくケーキに釘付けだった。
「我がアルトリウス国の……誇り……未来……貴族としての……」
――うん、なんか言ってるけど、今はケーキの方が重要だ。
「それでは……未来に、乾杯!」
「乾杯!」
よし!! これで食事に――!!
だが、俺は辺境伯家の長男。がっついてはダメ。優雅に、気品高く……!
(よし、落ち着け。俺は簡単にケーキに釣られるような男ではない……母上とは違うのだ)
そう自分に暗示をかけて歩き出そうとした、そのときだった。
「か、返してください……!」
「うるせーな、こんな汚ねぇ人形持ち込むなよー」
「五歳にもなって人形遊びかよ、ダセーんだよ」
「ほら、パス!」
「や、やめて……!」
女の子が数人の男の子に囲まれて泣きそうな声をあげている。
(あー、はいはい。好きな子に意地悪するやつね。青春だねぇ~)
懐かしくて、つい近くで観察していたのだが――
「大体お前、気持ち悪いんだよ」
「そ、そんな……」
……おっと。いくら接し方が分からないからって悪口はダメだぞ、悪口は。
「……って、お前。さっきから何見てんだよ」
「へ?僕?」
急に話しかけられて、声が裏返ってしまった。
「文句あんのか?」
「いや~、ほら。可愛い女の子にどう接したらいいか分からなくて、つい意地悪しちゃってるんだよね? 分かるよ~その気持ち」
俺はニコニコと微笑む。大人の余裕である。
「は?違ぇし。こんなブス、興味ねぇし」
「……ブス?」
俺は少女の顔をじっと見つめた。前髪で目を隠していて、暗そうに見える。けど、よく見ると――
(整った顔立ちで普通に可愛いけどな……)
「えぇ~?可愛いじゃん」
「か、可愛い……」
少女が照れて俯いた。ほら可愛いじゃないか。
「うぐ、か、可愛くねぇっての!」
「あ、今可愛いって思ったでしょ。ほらほら、認めちゃいなよ」
「うっぜぇな!おっさんみたいな絡み方しやがって!」
――お、おっさん!?
「なんてこと言うの!僕はまだプリップリの五歳児だよ!!」
「五歳児はプリップリなんて言わねぇよ!くそ、もういい!行くぞ!」
少年たちは人形を投げ捨て、去っていった。
(あれ?この後意気投合して友達になるルートじゃなかったのかな?)
少し残念に思いつつ、人形を拾い少女に差し出した。大切なものを粗末に扱われるのは、誰だって嫌だよね。
「はい、どうぞ。大事な人形なんでしょ?」
「あ、ありがとうございます……。母様から誕生日にもらった大切な人形で……」
気弱そうに俯きながらも、丁寧でまっすぐな話し方だ。
(お、これは……お友達チャンス!)
俺は胸を張り、丁寧に頭を下げた。
「改めまして。バルトル辺境伯家の嫡男、
レオン・フォン・バルトルです。レオンと呼んでください」
少女は小さくカーテシーをした。
「お初にお目にかかります。エリスティア・フォン・ロズヴェリア……です」
(よし、いい感じ!)
しかし、彼女の長い前髪が目元を隠しているのが気になった。
(もったいないな……そうだ、確かポケットに……)
俺は研究用に持ってきていた蝶の髪留めを取り出した。ヒマな時に備えて持ってきていたのである。決して俺がボッチで寂しい奴だからではない!
「ちょっと動かないでね」
そっと前髪を耳にかけ、髪留めで留める。すると――隠れていたおでこと長いまつ毛があらわになる。
(おお……!美少女……爆誕!)
俺が満足気にうなずいていると、エリスティアは固まって震えていた。
(しまった、勝手に触っちゃった!前世で姪っ子の髪をセットしていた時の癖が……)
「あっ、ごめんね!瞳が綺麗だったからつい……!」
「き、綺麗……」
エリスティアは顔を真っ赤にして、震える指で髪留めに触れた。
「き、気に入らなかったら外してね! 捨てても大丈夫だよ!」
「す、捨て……!」
泣きそうになっている。やばい。
「そ、それじゃあまたね!」
俺はその場を離れた。……いや、逃げたんじゃないよ。これは配慮だ。うん、配慮。
(はぁ……またお友達作戦失敗だよ……。
友達作るのってこんなに難しかったっけ?)
「……レオン様……」
その小さな声が俺の耳に届くことはなかった。




