第2話 スキル授与
(――今日は、待ちに待ったスキル授与の儀式の日だ)
5歳になった俺、レオン・フォン・バルトルは、朝からそわそわしていた。何せ今日、俺の人生を左右するスキルが授けられるのだ。勇者スキルか、聖魔法か、それとも異世界転生者補正で何かすごいのが来るのか。わくわくが止まらない。
「レオン坊ちゃま、顔がにやけてますよ?」
声をかけてきたのは、いつも俺の身の回りの世話をしてくれている専属メイドのアンナだ。10代後半になり、少し大人っぽくなった彼女は、俺が赤ん坊だったころからの付き合いである。
「え、そんなことないよ、アンナ」
「嘘はいけませんよ。儀式の日にテンションが上がる気持ちは分かりますが、少し落ち着いて下さいね」
「……努力します」
うーん、そんなに顔に出てただろうか?
「さあ坊ちゃま、旦那様方もお待ちですのでそろそろ向かいましょう」
アンナに手を引かれて廊下を進むと、光が差し込む広いホールの奥に二人の姿があった。
「おお、レオン。来たか。」
堂々とした声の主は、我が父“ガルド・フォン・バルトル”。白い肌に黒髪、優しい眼差し。
見た目は何処ぞのアイドルかと思うようなスラっとしたイケメン。けれど侮ることなかれ、かつて南方戦線で魔獣の群れを単騎で退けたという“辺境の矛”。
……見た目がやたら爽やかなのが逆に腹が立つ、メチャ強イケメンなのだ。
「今日が楽しみだな、息子よ。」
「うん、僕も楽しみだよ、父上!」
父の隣に立っていたのは、母――セリア・フォン・バルトル。金色の髪をゆるく束ね、柔らかい笑みを浮かべた女性。
見た目は穏やかで上品、まさに理想の貴婦人……なのだが。彼女の胸元は控えめどころか、ほぼ平原。
『むにゅー』
「ふぁふぁうえ、いふぁいでふ」
平原の事を考えた瞬間、ノータイムで頬っぺたをつねられた。
「母はなんだか侮辱された気がしたのですが?」
頬っぺたから手を放し、にこりと笑って――けれど目だけが笑っていなかった。
「い、いや!? そんなことないですよ母上!」
じ~~~。
いかん、目を離したら殺される!
「気のせいです!!」
「ふふ、そういうことにしておきますね。」
危なかった、転生して5年でまた死ぬところだった。
(母上……こえぇ)
じ~~~。
いかん、話題を変えねば。
「ち、父上はこの儀式で“剣聖”のスキルを授かったんですよね」
俺はウインクをしながら父上に話題を振った。
「ん、あ、ああ、そうだ。5歳の時に“剣聖”スキルを授かり、そこから剣術修行を本格的に行ったんだ」
戦闘系のスキルの中でも“聖”の文字を冠するスキルは性能が最上級のスキルだ。
「僕も強いスキルを授かれたらいいな」
「そうだな、だがどんなスキルでも使いこなせなければ宝の持ち腐れだからな。レオンも自分のスキルを使いこなせるよう努力しないといけないぞ」
そう、父上は“剣聖”というめちゃ強なスキルを持っているにも関わらず今でも毎日の稽古は欠かしてないという天才+努力を地で行く超人なのだ。そんな姿を見ているので、今の言葉にはとても重みを感じた。
「はい、父上、頑張ります」
* * * * * * *
儀式の場――バルトル領の大神殿。
白い大理石の柱が並び、聖印が刻まれた円形の祭壇の中央に立つ。周囲には司祭や補佐官が並び、荘厳な雰囲気が漂っていた。
「では、これよりスキル授与の儀を始めます」
司祭様の声が響くと、俺の胸が高鳴った。
いよいよ来る。ここから俺の第二の人生――いや、異世界での本番が始まるのだ。神官が光る水晶を掲げ、古代語の詠唱を唱え始める。
静寂。
光が強まり、やがて俺の身体を包み込んだ。心臓が、ドクンと跳ねる。神殿の空気がぴんと張り詰め、呼吸する音すら響くようだった。
(……いける。これは来る。絶対、チート系だ。)
――来た、来た、来たぁぁぁ!!
(頼む、なんかカッコイイやつ来てくれ!! 《勇者》《賢者》《神眼》とかでもいい!)
光が収まった。そして、水晶に刻まれた文字がひとつ、ゆっくりと浮かび上がる。司祭様が目を細め、神妙な面持ちで読み上げようとして困った顔をしている。
「……」
「……どうしました?」
「……すみません、読めません?」
ん、どゆこと?困惑しながら俺も水晶の文字を見る。
(なんだ、読めるじゃん、えーとなになに……《千客万来》)
――千? 客? 万? 来? ……客が、たくさん来る? まさかの、接客スキル? てかまさかこれ日本語表記か?
司祭様が申し訳なさそうに説明してくれる。
「スキル名が読めないなんて前代未聞の事態です。しかしご安心を。レオン様申し訳ありませんがスキルに集中してみてください」
(ん、スキルに集中?)
司祭様がさらに詳しく説明してくれる。
「授かったばかりでは詳細までは分からぬでしょうが、何となく効果を感じ取ることはできるはずです。――楽しみですな、これは!」
なるほど、なるほど。スキルに集中ね~。お、何か見えたかも。
スキル名《千客万来》
善き者も、そうでない者も等しく集まってくる
名前は読めてたからいいとして人が集まる能力?てか”善き者“も”そうでない者“も”?“も”ってなんだ、“も”って!? “も”の部分、重要じゃない!?
「さあレオン様、私めにこのレアなスキルの詳細をお教えください。」
司祭様が興奮した様子で訪ねてくるけど言いたくないな~、
「……たぶん、“人が集まる”効果があるかと。」
「へ? 人が集まる?」
「はい。善き者も、そうでない者もってなってますが……」
父上が顎をさすりながら笑った。
「ははっ、人が集まるとはいいじゃないか。領地運営にぴったりだろう!」
母上も微笑みを浮かべる。
「きっとあなたの人徳に合ったスキルですわ」
アンナも手を合わせて「素敵です!」なんて言っているけど――いや、俺の胸中は混乱でいっぱいだ。
(え、これ、チートじゃなくない?てか、ひょっとしたら《勇者》になっちゃうかもとか考えてただけにものすごく恥ずかしい)
俺は、両手で顔を抑えながら膝から崩れ落ちるのであった。いや、泣いてないからね、恥ずかしいだけだから。
――こうして俺は、変人・転移者・王族・魔族、果ては災厄までも呼び寄せる、
**“カオスの呼び鈴”《千客万来》**を手に入れた。




