第18話 メレンゲ地獄と、アレクシス先生の仮説
「フィオ、しっかりするんだ! 誰か魔力回復薬を……!」
「し、師匠……すみません……わ、私……もう……ダメです……がくっ」
フィオの指先が震え、小さな竜巻がぷつんと消えた。そのまま彼女は糸が切れたように崩れ落ちる。
「フィオーーー!!」
祭り三日目――収穫祭の最終日。
俺たちの“スフレパンケーキ”の屋台は初日からずっと大盛況だったが、今日は特に客の行列がとんでもないことになっていた。
「坊ちゃま。遊んでないで、メレンゲの追加をお願いします」
「あ、はい。わかりました」
アンナに一刀両断され、背筋を伸ばして返事する。
(……遊んでたわけじゃないよ! ただフィオの様子を見てただけだからね!)
この三日間、俺はひたすらメレンゲを作っていた。そして、俺が伝授した料理魔法――小型竜巻ミキサー≪トゥルボー・ミキサー≫を使って手伝ってくれていたのが、料理スキル持ち三人組のひとり、フィオだ。
2日目までは根性で乗り切っていたが、三日目ともなると、お客の数は桁違い。フィオの魔力は尽き、ついに限界を迎えてしまったらしい。
(くっ……フィオがダウンしてしまった。しかし――まだだ!ここで折れるわけにはいかない!)
俺は両手を広げ、すぐさま小型竜巻を二つ形成する。その竜巻が唸りを上げ、目にも止まらぬ速さで卵白をかき混ぜ始めた。
「あ、レオン様、こちらにも追加をお願いします!」
「は、はいッ!よろこんで!」
――負けてたまるかぁぁぁあ!!
気づけば俺はメレンゲの精霊と化し、ひたすら量産し続けた。
そして――嵐のような三日間が終わった。
(メレンゲしか……作って……ない……記憶がない……)
俺は放心しながら空を見上げていた。だが嬉しい知らせもあった。“スフレパンケーキ”の試作を手伝ってくれた料理スキル持ち三人組――
フィオ、エミル、ティナを中心に、孤児院の子どもたちが「祭り以外の日も屋台を続ける」と言ってくれたのだ。
――よし……。計画としては完璧だ。
俺は邪悪な笑顔を浮かべながらほくそ笑んだ。
(将来カフェを作るからな……!そのために、君たちにはバリバリ働いてもらうぞ……ぐふふふ)
「若様、また悪い顔してますよ……」
――ノアくんは黙っておくように!
バルトル領にとっても孤児院にとっても得しかない、まさに理想の計画なんだから……多分。
さて……次の問題は――。
(ケーキを作れる環境、どう整えるか……。≪千客万来≫さん、ケーキ職人とか呼んでくれないかなぁ)
しかし、脳裏に浮かぶのは一つ――
(……でもトラブル先行型は避けたい)
そこで思い出す。数日前の、アレクシス先生との会話を。
* * * * * * *
「レオン様、少しよろしいですか?」
「ん? アレクシス先生! どうしたんですか?」
めったに自室に来ない先生が現れたので、思わず姿勢を正した。
「はい、レオン様のスキル――≪千客万来≫について、私なりの仮説がまとまりまして。お話ししておこうかと」
(おおっ! ついに来た。≪千客万来≫さんのナゾが解明されるのか!)
胸を躍らせる俺に、先生はいつもの落ち着いた笑みを浮かべた。
「まだ研究途中ではありますが、≪千客万来≫には“人材先行型”と“トラブル先行型”の二種類があるのではないかと思うのです」
「二種類ですか?」
俺は先生に聞き返す。
「ええ。まず“人材先行型”――私やリュミナ君のように、多少癖はあってもレオン様が必要とする人物が集まるタイプです」
(アレクシス先生……自覚あったんだ……)
「そして“トラブル先行型”――こちらは“何かしらの問題”を抱えた人物と、その問題そのものを引き寄せる能力ではないかと」
「問題を抱えた人物……」
「はい。そして、その問題をレオン様が解決することで、その人物は“レオン様にとって有用な人材”へ成長する……。そういう仕組みなのでは、と考えています」
――孤児院の件や誘拐事件。大変だったけど結果的に人材が増えたのも事実だ。
「なるほど……たしかに、しっくりきますね。僕としては、どちらの型でも有用な人が来てくれるなら嬉しいですが……」
「ええ。それにスキルは成長しますから、今後さらに新たな能力が開花する可能性もあります」
「え、スキルって、成長するんですか?」
「はい。持ち主の成長に合わせて“最適化”されていくものなんですよ」
(まじか、知らなかった……。じゃあ≪千客万来≫にも、まだ隠された能力が……?)
* * * * * * *
(よし……。とりあえず“ケーキ職人”に出会えるように、≪千客万来≫さんに祈っておこうかな)
夜風が吹き、祭りの灯りが少しずつ消えていく。
忙しい三日間だったけれど――とても楽しかった。
……いや、メレンゲしか覚えてないわ。
(次に来るのは“人材先行型”か……
それとも、めんどくさい“トラブル先行型”か……)
胸の奥で、期待と不安が混じり合った感覚がふくらんでいく。
……お願いだから“人材先行型”で来てくれ。
いや、ほんとに。マジで頼むよ、≪千客万来≫さん!




