第14話 秋の収穫祭と、屋台出店計画
季節は秋。
バルトル領の森が黄金色に染まり、朝晩は涼しい風が吹き抜けていた。落ち葉の香りと、どこか懐かしい薪の匂いが混じり合う季節だ。
そして俺――レオン・フォン・バルトルは、ワクワクしていた。
なぜなら!月末に領都で開かれる収穫祭で、屋台を出す計画を立てていたからだ!
「さてアンナ、今日はかねてからの計画を実行しようと……」
「ダメです!」
はい、即答です。
「あれ、まだ何も言ってないよ……」
「その喋り出し、以前も聞きました。どうせ“視察”に行くつもりなんですよね?」
(おぉ~、バレてる!完全にパターン読まれてるな。しかもまだ過保護継続中とは)
「いや、今回は視察じゃなくて――お祭りで屋台を出そうかと……」
「もっとダメです!」
「へぇ~、お祭りがあるんですね!」
横でノアくんが元気に手を上げた。
「せっかくのお祭りなんですからいいじゃないですか、アンナ先輩。さすがにもう誘拐犯はいないと思いますよ」
――ナイスアシスト、ノアくん! もっと言って!
「ノアくんは黙っていてください。外は危険なんです」
「まぁまぁ、そんなに束縛してると、若様に嫌われちゃいますよ?」
「そ、そんなわけないじゃないですかっ!
え?坊ちゃま、私のこと……嫌いじゃないですよね?」
潤んだ瞳。上目遣い。膝をついての見上げ角度。
――くっ、アンナ、ズルいぞ。
だがしかし、俺だってこの五歳児ボディに宿る大人の知恵で抗ってみせる!
「もちろんだよ、アンナ。でも――屋台出店を許してくれたら、もっと好きになっちゃうんだけどな?」
「うぐっ……し、仕方ありませんね。でも旦那様の許可をもらえたらですよ」
(頬をふくらませながらも、しっかり条件をつけてくるあたり抜け目ない、さすがアンナ。)
「うん、もちろんだよ! ありがとうアンナ!」
(ふっふっふ。5歳児スマイルには抗えまい)
「なんか若様、悪い顔してますね……」
――お黙り、ノアくん。
アンナの許可さえ取れれば、勝利は目前なのだ。
* * * * * * *
食堂にて――。
「う~ん、さすがに屋台の出店は難しいぞ、レオン」
いつも通りの即・却下。だがしかぁ~し、俺には秘策があるのだ。
「父上、これはバルトル領の発展に必要不可欠な事案なのです!」
「そんなにか?」
「もちろんです。なにせ僕が屋台で売るのは――“甘味”なのですから!」
「甘味?」
この単語に、母上の瞳がキラリと光った。
「話を聞きましょう」
(よし、母上が食いついた! 計画通り!)
そう、俺の秘策は母上を味方につけること。その為に執務室ではなく、あえて昼食時にこの話題を出したのである。
「まずお祭りの屋台で甘味を販売し、庶民にもスイーツ文化を広めます。そして将来的には――王都でしか食べられないケーキやシュークリームを楽しめる“カフェ”を、この領地に作りたいんです!」
「素晴らしい考えですね。いいでしょう、屋台出店の許可を出します」
「ありがとうございます、母上!」
「必ず成功させて、カフェをオープンさせるのです。いいですね、レオン」
……母上、予想以上にノリノリだ。
これは――失敗できない圧がすごい。
「う、うむ……頑張れよ、レオン……」
父上はすっかり空気だった。
許可を得た俺たちは早速町の偵察へ!祭りまで残り一か月。準備を急がねば!今回のメンバーは、俺、アンナ、ノアくん、そして護衛のザックスだ。
「若様、前回はすいやせんでした。今日はしっかり護衛させていただきやす!」
「うん、前のは不可抗力だったし、しょうがないよ」
「そうですね。前回はレオン様が試着室に入っているときに誘拐されてしまいましたから、ザックス様のせいではありませんよ」
「ですよね、アレクシス先生――
って、うわっ!? アレクシス先生、いつの間に!」
振り向くと、先生はいつの間にか真後ろにいた。自然な流れで会話に参加していたから余計に怖い。
「初めからいましたよ。レオン様、私を置いていくなんてひどいではありませんか」
「いや今回はお祭りの情報集めですし、《千客万来》スキルは関係ないですよ」
「ええ、もちろん存じていますよ。ただ、もしかしたらスキル研究につながるかもしれませんからね」
(……完全にトラブルを期待されてる気がするんですけど!?)
祭りの準備はまだ始まったばかり。通りでは旗を吊るす人の姿がぽつりぽつりと見える。とはいえ、普段通りの屋台はいくつか出ている。せっかくだし――と俺は、道端の串焼き屋に目を留めた。
「おじさん、串焼き五本ください」
「お、坊っちゃん、お姉ちゃんとお買い物かい? えらいねぇ」
俺は以前買った町民ファッション。アンナは質素な町娘スタイル。これなら、どう見ても仲のいい姉弟――領主の息子だなんて誰も思わないはずだ。
(やはり町に来るなら変装は必須だよね)
風に揺れる布屋台を見上げながら、俺は軽く胸を張った。
「えへへっ。ところでおじさん、お祭りでも屋台出すの?」
俺はここぞとばかりに情報収集を開始する。
「ああ、もちろんだ。収穫祭は稼ぎ時だからな」
気さくなおじさんが串を返しながら笑う。
「他にはどんなお店があるの?」
「そうだな、食い物なら魔獣の串焼き、ミートパイ、かぼちゃのスープカップあたりか。あとは土産物なんかもあるぞ」
(なるほど、やっぱり食べ物は食事系ばっかりか)
「甘いものとかは売ってないの?」
「甘いもの?うーん、聞いたことねぇな、そんな屋台」
やはり甘味は未知の分野らしい。
(ふっ、これはチャンス! 俺がスイーツ屋台を出せば独り勝ちだな)
そんなことを考えていると、通りの向こうで白い服が目に入った。
「ん? あれは……司祭様とシスター?」
「ああ、あれは教会に併設されてる孤児院の子たちだな」
俺の疑問におじさんが答えてくれた。祭服姿の子どもたちが、手作りの木箱を抱えて通行人に声をかけていた。
「お願いしまーす! 孤児院へのご寄付をー!」
声は明るいが、どの子も少し痩せて見える。
(ん?寄付を募ってる? でも……)
明るく笑っているのに、目の奥だけが笑っていないように見える。串焼きの屋台から離れた俺は、アレクシス先生に質問した。
「先生、孤児院って確か、うちから援助金が出てますよね?」
「はい。生活に困らない程度の額が毎年支給されているはずですが……」
「ですよね」
(おかしいな……資金はあるはずなのに、寄付を集めてるなんて?)
――どうやらまた《千客万来》さんが仕事した予感がする。




