第11話 反撃開始!? 銀級冒険者と少年の魔法
※一部に暴力表現や戦闘描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
「災難だったな。体は大丈夫か?」
「はい、何とか……」
「そうか、それは良かった。大人しくしていれば何もされないと思うから辛抱してくれ」
落ち着いた低い声。無精ひげに短く切りそろえた髪、歳は二十代後半くらいかな。がっしりしてて、いかにも“現場慣れしてます”って体つきの男。
――どう見ても、さっきの脳筋よりこっちの方が強そうなんだけどな。
「うん……。おじさんは奴隷……なの?もしかして元犯罪者?いや今も誘拐犯か」
「いや、俺は借金奴隷。元銀級冒険者のガイル・ロウドだ」
「銀級冒険者!?なんで借金なんて……」
ガイルは苦く笑って肩をすくめた。
「病気の息子の治療費さ。返済が間に合わなくってね――」
「……そっか、でもそれじゃあ解放される見込みがある奴隷、ってことだよね?」
「ああ。借金を返せば自由の身になれる。 ……ただ、俺を買った奴隷商が――犯罪組織と繋がっていたんだ」
「てことは、無理やり誘拐をやらされてるのかな?」
「当たり前だ、俺にだって息子がいるんだからな……」
――そりゃそうか……だったら。
「ねぇ、もしここから出られたら、うちで仕事しない?」
「……うち?」
「あぁ、そういえば名乗ってなかったね。僕は
レオン・フォン・バルトルだよ」
「バルトルって辺境伯様の?」
「そう、ここの領主の長男だよ。よろしくね」
「また随分な大物だな。いや、ですね。」
「別に言葉遣いは普通でいいよ」
「……それじゃ遠慮なく。いいかい、坊ちゃん。ここを仕切ってるのは犯罪組織を束ねてる“バルガス”って名の悪党だ」
「ほう、ほう」
「あいつは“商品が壊れたら仕入れ直せばいい”と思ってるような奴だ。下手に逃げれば、子供だろうと容赦せず殺されるぞ」
「こ、殺されちゃうんだ」
「ああ、だから大人しくしておけ」
――そっかー、殺されるのはやだなぁー、でも……
「じゃあ、助けが来たら一緒に逃げない?」
「助けが来るのか?もし来るなら願ってもないことだ。よし、逃げることが出来たらバルトル家に仕えようじゃないか」
やった。これで銀級冒険者の戦力を手に入れたぞ。いやぁ~、今回の《千客万来》さんは完全にハズレを引き寄せたかぁ……って思ってたけど、“絆”の方も働いてくれたようだ。良かった、良かった。
「ガタッ」
鉄の扉が軋む音が、狭い部屋に響く。ガイルの表情が一瞬で険しくなった。空気がぴん、と張りつめる。
「おらぁ、さっさと入れ」
バルガスと部下の男が女性と男の子を連れて入ってきた。姉弟かな?部屋に入ってくると、男の子は泣きじゃくり、女性はその肩に腕を回して必死にかばっていた。
「うるせぇーぞガキ! 耳障りなんだよ。黙らねぇなら喉潰すぞ!」
バルガスは女性から男の子を引きはがして怒鳴るが泣き止まない。
「ちっ、面倒くせぇ……もう殺っちまうか」
そう言うやいなや、バルガスは男の子に剣を振り下ろした。その瞬間、女性が飛び出し男の子を突き飛ばした。
「うっ……!」
女性の腕には血の跡が……
「くそっ、おい、女をしっかり抑えとけ」
「へい、おいこっちこい」
女性は部下の男に抑え込まれてしまった。
「いやぁー、やめてー」
女性の叫びが響くなか、バルガスの剣が振り下ろされた。
「じゃあなガキ」
視界が赤く染まった気がした。頭の中が真っ白になり――
「や、やめろぉー!」
俺は手を伸ばして叫んでいた。次の瞬間、俺の掌から――水が弾けた。透明な水球が一直線に飛び出し、バルガスの部下の顔面を直撃する。
「ぐぼっ!?」
部下が吹き飛び、壁に激突して崩れ落ちた。
「……ん?」
一瞬、誰も動けなかった。その場の空気が一瞬固まり、俺とバルガスは首を傾けた。
「て、てめぇー、何で魔法が使えるんだ!」
我に返ったバルガスが突進しながら俺に剣を振りかぶっている。
(どうやら男の子は無事のようだ、良かった……
って、そうじゃない、何か知らんが魔法が使えるぞ)
俺は急いで魔法を展開した。風が壁のように広がる防御魔法、――名付けて《アウラ・カーテン》だ。
勢いよく振り下ろされたバルガスの剣は「キィン」という音とともに弾かれた。
(蹴られたお返しに顔面に一発お見舞いしてやる!)
俺はバルガスの顔目掛けてパンチを放った。
「しまっ……ん? なんだ、なんもおきねぇーじゃねえか。はっ、そんなちっこい手で俺様がやられ……ぐはっ!」
バルガスは吹き飛び、壁に激突していた。
「??」
その場の全員が何が起こったか解らないって顔をしている。吹っ飛ばされたバルガスでさえ……。
(はっはっは。びびったかー!)
――俺が発動したのは名付けて《アウラ・ナックル》。
風魔法で作ったどデカい拳。見えないから気付いた時には攻撃されている、という恐ろしい魔法なのだ!
(まぁ、5歳児の力じゃ大人に大ダメージは与えられないし、素手で殴ったら痛いからね、俺の手が)
「……よし、二人とも動けなくなったかな」
部屋の中に、しんとした静けさが戻った。 さっきまでの怒号も、血の臭いも、嘘みたいに遠のいていく。
「だ、大丈夫ですか!?」
俺はすぐ、壁際にいた姉弟のもとへ駆け寄った。女性は片腕を押さえながらも、男の子を庇うように抱き寄せている。二人とも怯えた目で――ガイルを見ていた。
「おいおい、俺は何もしねぇよ」
ガイルは苦笑しながら両手を上げる。
「さっきまでは誘拐側だったが、今はあんたらの味方だ」
「ほんと……?」
女性の声は震えていたが、男の子が女性の袖を掴んで小さく頷いた。
「うん、ガイルはいい人だよ。僕が保証する!」
ほっとしてる姉弟に胸をなでおろしてると、ガイルが女性の腕を見て顔をしかめた。
「だいぶ深いな……止血しねぇと」
低くつぶやく声は冷静だが、その目はどこか痛みを知っているようだった。
「この部屋に何か使えそうな布とか……」
俺が辺りを見回していると――
――ドン! ドドドドッ!
外から、重たい足音と怒号が響いてきた。
「ちっ……気づかれたか」
俺とガイルは身構えた。
扉の向こうで何かがぶつかる音がしたかと思うと、次の瞬間、勢いよく扉が開いた。
「――若様!」
「え?」
緊張が、一瞬で弾けた。入ってきたのは――見覚えのある金髪の青年。ザックスだった。後ろにはバルトル領の兵士の姿も。
「……ザックス!?」
「ご無事でよかった……!」
ザックスが警戒を解こうとしたそのとき、背中を押されて吹っ飛んだ。
「坊ちゃまーっ!!」
入ってきたのはアンナだった。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、一直線に駆け寄ってくる。
「え、ちょっとアンナ――ぐえっ!」
そのまま思いっきり抱きしめられた。力強い。というか息ができない。泣き声と心臓の鼓動が、胸の奥にじかに伝わってくる。
「もうっ……もう会えないかと思ったんですからぁ……!」
「わ、わかった、苦しいってば……!」
アンナの声に、張りつめていたものが一気にほどけていく。
「……ほんと、来てくれてありがとう」
小さくそう呟くと、アンナはさらに強く俺を抱きしめた。




